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3.力なき絵筆

「慈愛の精神溢れる〜皇帝陛下〜! そして〜小娘〜!」

「あの、陛下……何ですか、その歌?」

「昨日作ったブルボン帝国国歌だ。お前も歌え。」

「嫌ですよ、そんな歌……」

 溜息をついて、ミホは、先ほど道を聞いた時にもらった地図を見た。次の交差点で左に曲がって、そのまま真っ直ぐ。その先に、一人の画家が住んでいる。今日、二人はその画家に会いに行くのだ。


 それは昨日のこと。洗い物を終わらせたミホが居間に戻ってくると、そこにはスケッチブックと格闘するブルボンがいた。

「ブルボン帝国の国旗をデザインしているのだ。」

 何をしているのか尋ねると、ブルボンはそう答えた。しかし、散乱した大量の紙くずが、うまくいっていないことを物語っている。ブルボンがあまりに一生懸命なので、ミホはおかしくなって笑ってしまった。しかし、それが気に入らなかったのか、ブルボンはムッとした表情で、スケッチブックとペンをミホに押し付けてきた。

「笑っている暇があったら、貴様も考えろ。」

「そんなこと急に言われても……う〜ん……」

 仕方ないので、ミホは口を『へ』の字にして考えた。そして一分後、ミホはスケッチブックをクルッと反転させて、描いたものをブルボンに見せた。画用紙の真ん中には、子供が描いたものと大差ない『お花』の絵、そしてその下には、殴り書きされた『ブルボン帝国』の文字……

「貴様は……そんな国旗の国に住みたいのか?」

「えっと……えへへ……」

「却下だあッ!」

 ブルボンは手刀一発で、ミホの持っていたスケッチブックを真っ二つに引き裂いてしまった。

「仕方ない、やはりプロに頼むか……ミホ、この辺りで、そう言うセンスのある奴はいないのか?」

 ブルボンが聞くと、ミホは頬に手を当てた。そしてしばらく考え込むと、彼女は数日前に見たニュースを思い出した。

「そう言えば、隣町の画家さんが、最近賞を獲ったらしいですよ。」

「ほぅ、画家か……良いだろう、そいつに頼むことにしよう。」


 そう言う訳で、二人は隣町の画家、『クリフジ』の所に向っているのである。

 地図の示す通りに、交差点を左に曲がると、二人の目の前に、丘の方まで真っ直ぐに伸びる道が現れた。そして、その丘の上には小さな家が見える。おそらくあの家がそうだろう……二人はその家に向って歩きだした。

「ブルボン! ブルボン! ブルボン〜! ブルボン帝国〜!」

「お願いだから、大声で歌わないでください! 周りの人達が見てるじゃないですかぁ……」

 好奇の視線に晒されながら、二人は丘を目指した。


 それからしばらくして、二人は目的地に到着した。目の前には画家の家と思しきログハウス。遠くに見える街に背を向けて、二人はその玄関までやって来た。

「ごめんください! どなたか、いらっしゃいませんか?」

 ドアをコンコンとノックしながら、ミホは中に呼びかけた。しかし、中からは何の応答もない。留守なのだろうか? ミホがそう思っていると、ブルボンが前に出てきてドアノブを回した。

「開いてるじゃないか、入るぞ。」

「ちょ、ちょっと陛下! ダメですよ!」

 止めても聞かずに、ずかずかと入っていくブルボン。ミホは溜息をつくと、「お邪魔します」と言ってからブルボンの後に続いた。そうして、リビングまでやって来た時だった。どうやら留守ではなかったらしい……二人はテーブルに突っ伏している男を発見した。クシャクシャの髪の毛に無精ひげ。むっくりとした体……随分とだらしないその男は、二人に気付いたのか、面倒臭そうに体を起した。

「誰……?」

「私はブルボン帝国皇帝、シャレー・ブルボン五世。クリフジとか言う画家は貴様だな?」

「そうだけど、何……?」

「仕事を頼みたい。我が帝国の国旗のデザインだ。どうだ、名誉なことだろう? ありがたく思え。」

 胸を張って言い放つブルボン。人にものを頼む態度ではない。これではクリフジが怒るだろう……と、ミホは思ったが、しかし彼はそれすら面倒臭かったのか、再びテーブルに突っ伏してしまった。

「やだ……」

「なんだと?」

「描きたくないんだもん。モチベーション、上がらなくてさぁ・・・」

 そう言って、クリフジは大きな欠伸をかいた。その様子からは、やる気の欠片すら感じられない。このままでは国旗のデザインはおろか、筆を握ることさえしてくれないであろうことは、誰の目にも明らかだった。ブルボンは腰に手を当てて溜息をつくと、少しの間を置いてから口を開いた。

「じゃあ、モチベーションが上がればやるのか?」

「良いよ、上がればね……」

「フン、言ったな? 約束は守ってもらうぞ。」

 クリフジの言葉を聞いてニヤリと笑うと、ブルボンはミホの方を見た。


 一時間後、ミホはログハウスの前にいた。そして、隣に置かれたかごから大きなトランクスを取り出すと、洗濯バサミでそれを挟んだ。

「何で私が、知らない男の人のパンツを・・・」

「うるさい奴だ。クリフジ先生は、きっと洗濯物が溜まっていたからモチベーションが上がらんのだ。分かったら、さっさと干してしまえ。」

 ブツブツと文句を垂れながら、洗濯物を干すミホに向ってそう言うと、ブルボンは家の中のクリフジの様子を見に行った。少しはやる気になったか? と思ったが、しかしその様子は相変わらずだった。洗濯物は関係なかったらしい……

「風呂に入りたい……」

 クリフジがそう呟いた。そうか、風呂に入りたいのか……ブルボンは、洗濯を終えて戻ってきたミホを捕まえると、今度は風呂を沸かすように言った。


「沸きましたよ。」

 しばらくして、ミホがそう言うと、クリフジはノタノタと風呂場へ向った。ザバーッと言う、お湯の音が聞こえてくる……ブルボンはその様子を覗うため風呂場へ向った。そーっと少しだけ扉を開けて、風呂場の中を見ると、そこには相変わらず気だるそうなクリフジ。風呂に入れただけではダメか……ブルボンは風呂場を後にすると、リビングで一息ついているミホの元へ向った。

「おい、先生の背中を流してやれ。」

「えぇ〜! 嫌ですよ、知らない男の人の裸を見るのなんて……」

「黙れ! ブルボン帝国のスローガンは、『にこにこ笑顔の親切な国、ブルボン帝国』なんだ! それぐらい、言われなくとも自分からやれ!」

 さすがにミホは抗議したが、聞き入れてもらえず、結局『知らない男の人の背中』を流すはめになった。


 風呂から上がったクリフジ。しかし、その様子は依然変わらない。その、覇気が全く無い表情を確認すると、ブルボンはミホをにらみつけた。

「全然ダメじゃないか……」

「だって……ちゃんと背中流しましたよ……」

「もう良い、この役立たずめ!」

 そう吐き捨てると、ブルボンは次の要望を聞くため、クリフジの元へ歩み寄った。

「腹が減った……」

 今度はその一言。ミホは黙ってキッチンに向い、そして冷蔵庫にあった物をありったけ使って、ご馳走を作ってやった。そして、完成したそれをミホがテーブルに並べ、湯気といっしょに美味しそうな匂いが立ち込めると、クリフジは箸を持って無言のままそれを口に運んだ……その時だった。その表情に変化が現れた。それまで一貫して下がっていた口の端が、フッと上がったのだ。

「美味しいね……」

 初めて見せる笑顔でクリフジはそう言うと、先ほどまでのローテンションがウソだったかのように、夢中で食器の音を立て始めた。そして数分後、「ごちそうさま」と言って立ち上がると、クリフジはキャンバスに向って歩き始めた。ようやっと国旗のデザインを……と、ブルボンがそう思ったのも束の間、しかし、クリフジはキャンバスを通り過ぎて、ベッドの所まで行ってしまった。

「腹一杯になったら、眠くなっちゃった。おやすみ……」

 そう言ってベッドの上に倒れ込むと、彼はグーグー寝息を立て始めた。その寝顔はとても幸せそうで、まったく起きる気配を見せない。当然、国旗のデザインなどされる訳もない。そこまで我慢していたブルボンは遂に切れた。

「起きろ!」

 ブルボンはクリフジの顔面を踏みつけると、鼻を押さえてもだえているその男の胸倉を掴み、無理矢理ベッドから引きずり下ろした。

「下手に出ていれば、調子に乗りおって! もうここからはお願いじゃない。筆を取れ! 命令だ!」

 ブルボンは、無理矢理クリフジの手に筆を握らせようとした。しかし、クリフジは腕をブンブンと乱暴に振り回して、ブルボンが渡そうとしてきたそれを叩き落としてしまった。

「貴様ぁ!」

「だって、やだもん! 描きたくないものは描きたくないの!」

「駄々をこねるな!」

 遂には取っ組み合いの喧嘩になってしまった。それには、黙って見ていただけのミホもさすがに止めに入った。

「描きたくないって言ってるんだから、仕方ないですよ。」

 ミホは、そう言ってブルボンをなだめると、ポケットからハンカチを出して、血のにじんだクリフジの顔を拭い始めた。すると、それまで怒りに満ちていたクリフジの表情が、途端にすぅーっと穏やかさを取り戻していった。

「ありがとう、優しいんだね……」

 クリフジはそう言って、ミホの手をどけると、先ほど自分が叩き落とした筆を拾い上げて、キャンバスの前に置かれた椅子に腰掛けた。

「お礼に描いてあげるよ。」

 遂に筆を動かし始めたクリフジ。いや、それは先ほどまでの、子供じみたダメ男のクリフジではなかった。力強い瞳から放たれるそのオーラはまさに『画伯』。描くことに人生を賭ける男の姿だった。ミホとブルボンが、その凄まじい迫力に圧倒されること三時間……クリフジ画伯は静かに筆を置いた。そして、しばらく黙ったままキャンバスを見つめた後、フゥーと息をついてから、それをミホに差し出した。

「これは……!」

 キャンバスを覗き込んだ二人は言葉を失った。触れるだけで壊れてしまいそうな、繊細なタッチ。見る者に、呼吸すら忘れさせるほどの美しい色使いで描かれたそれは、その優しさがにじみ出てくるような『ミホの肖像画』だった。


「国旗のデザインと言っとるだろうがぁーッ!」

「やだ!」

 再び二人が取っ組み合いを始めてしまった。しかし、ミホにはもうそれを止める気力は残っていなかった……



続く




年末年始はだらだら過ごしたいなー。

そんな今日この頃です。

今年の大晦日はどうやって過ごそう・・・。

「やれんのか」見たいけど・・・お金無いし・・・

ハッスルはテレ東でやるけど・・・映らないし・・・

HERO’Sはネタみたいなもんだし・・・

見たくないけど紅白でも見るしかないのか・・・

せめて笑わせてくれNHK。


NHKと言えばこの間の有馬記念の中継が良かったです。

とくにゴールの瞬間の実況に笑わせてもらいました。


「祭だ! 祭だ! マツリダゴッホ!」


NHKさん・・・

紅白もそのノリでお願いします!


ってことで次は年始にうpします。


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