表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/26

24.悪を倒しに来た悪

 目前にテロリストと言う巨悪がいるにも関わらずいがみ合うTMとヒジリナに、スズカは完全に呆れてしまい、そっと対策本部のテントを抜け出していた。

「やーね、役人通しの管轄争いって……もう良いわ、私達は私達で勝手にやりましょ」

「ハン! 言われなくても、あんな馬鹿ども、最初から頼っちゃいねえよ」

 ラスカルは悪態をつくと、テントから勝手に持ってきた迎賓館の見取り図を広げた。しかし、「さて、どうやって忍び込もうか」と、スズカと一緒にそれを覗きこんだ時だった。

「おい、魔法少女」

「ん、何?」

 後ろから、同じく役人に愛想を尽かして出てきたブルボンが声をかけてきた。

「我々も連れて行け」

「え? 陛下、何言っちゃってるんですか?」

 ブルボンの突然の申し出に、ミホは目を丸くした。確かに、ミホはシヴァを助けたくてここにやって来たのだが、せいぜい、「シヴァ君の声を聞かせてください」とか、「何でもしますから助けてください」などと、テレビドラマのように、犯人に訴えかける程度の役割を予想していた。中に入って、強力な武器で武装した極悪テロ集団との直接対決など、それこそ洒落にならない。アイネス・システムでの出来事を思い出して、ミホはゾッとした。しかし、そんなミホを置き去りに、ブルボンは話を続けた。

「人質の中に我々の大事な友人がいるのだ。しかし、貴様の言う通り役人はあてにならん。友人一人ぐらい、やはり自分で守らんとな」

「陛下……あの……」

 ミホはブルボンの服の袖を引っ張った。

 前回はライアンの頼みもあったし、自分も馬鹿だったからあんな無謀なことをしたが、しかし、今回はテロ対策専門の警察に、TM、魔法少女までいるのだ。わざわざ、足手まといになるためついて行くこともない……と、ミホは進言しようとした。しかし、次の瞬間、ブルボンに耳をつねられてしまった。そして、そのままブルボンは、ミホの耳の中にゴニョゴニョと言葉を流し込んできた。恐るべき陰謀を……。

「馬鹿め、これはチャンスだ。この小娘の仲間になっておけば、奴は我々をさほど警戒せんだろう。その隙にマイニティークラウンをいただく」

「まだ諦めてなかったんですか!?」

「当たり前だ」

 以前、あれだけ酷い目にあったというのに……ミホは呆れてしまった。

「とにかく、マイニティークラウンを手に入れ、さらに我々をコケにしたアホテロリストどもも一網打尽にできるんだ。ついて行かない手はなかろう」

「何ヒソヒソ話してるの? 行くの? 行かないの?」

「うむ、行くぞ」

 こうして、ミホはブルボンの不純な動機によって、危険たっぷり盛りだくさんの迎賓館に突入することになった。


 外で様々な感情が渦巻いている中、迎賓館内のテロリスト達は静かに、各国からの回答を待っていた。

「おい、どうだ? 各国からの反応は?」

 リーダー格の、ヒゲもじゃの男は電話応対係りの部下に聞いた。が、部下の方は首を横に振って溜息をついた。

「今のところ、回答を先延ばしにするものばかりっす」

 一応、ほとんど全ての国から一回ずつ連絡は来ていた。しかし、「今から話し合う」とか、「会議で決めるからもう少し……」などと、どこの国も同じようなことしか言わなかった。唯一要求を飲むと言ってきたのは一番最初に電話して来たイタズラ電話の男、「ブルボン帝国」だけだった。ブルボンからの電話を思い出し、男はフッと笑った。

 部下の報告を聞くと、ヒゲリーダーはアゴに手をあてた。しかし、こうなることは予想していたのか、表情は落ち着いている。しばらくアゴヒゲを弄ぶと、彼はニヤリと笑ってから口を開いた。

「大方、時間を稼いで我々を捕まえる方策でも練っているのだろう……よし、全員に戦闘準備を整えさせろ! 警官隊が突入してきたら皆殺しにして、馬鹿どもに選択肢がないことを教えてやる」

 血を見るのが大好き……そう言いたげな顔で、ヒゲリーダーは部下達に命令を下した。それまで見張りだの何だので退屈そうにしていた部下達も、リーダーのその命令を聞くと歓喜の声を上げ、来る戦闘に備え、持っている武器の点検を始めた。


「ボス!」


 しかし、命令を伝えにいった部下のうち、その一人は違った。血相を変えて戻ってきたのだ。様子のおかしい部下を見て、ヒゲリーダーは眉をピクリと動かした。

「どうした?」

「ハーツとレイルが何者かにやられてやした」

「何だと?」

 その部下の話によると、二人は気絶させられたまま、トイレの個室に押し込められていたらしい。迎賓館の職員や、SPの仕業ということはない。テロリスト達は、ハッキングやその他の方法を使って、今日の迎賓館の警備の配置や、出入りする人間の数を入念に調べておいたのだ。殺した警備員や人質の数はそれと一致していた。と言うことは、考えられることは一つだった。

「おそらく警察の特殊部隊か何かだろう。ちょうど良い……野郎ども、狩りの時間だ! そいつらを見せしめに殺す!」

 待ってましたとばかりに、テロリスト達は行動を開始した。


「何か騒がしくなりましたね」

「どうやら私達の侵入がバレたみたいね。急ぎましょう」

 スズカとミホ達は通気口の中にいた。巧い具合に侵入し、敵に見つからないルートとして天井裏の通気口を選んだのだ。

 途中、ゴキブリやネズミに遭遇しつつも、三人と一匹は人質達の真上までやって来た。天井に設置された空調の隙間から、ミホ達は部屋の中の様子を確認することができた。シヴァも含め、人質達は全員縄で拘束されている。しかし、侵入者を探すため全員出払っているのか、見張りは二人しかいなかった。それを見ると、スズカは作戦を頭の中で組み立てた。

「よーし……じゃあ、私とラスカルであいつらを倒すから、ミホちゃんとブル公は人質の安全を確保して」

「誰がブル公だ!」

「ん? 誰だ、そこにいるのは!」

 突然の無礼な呼称に、声を荒げたのがいけなかった。ミホ達が天井裏に隠れていることがバレてしまったのだ。

「あぁ〜もう、見つかっちゃったじゃない! ったく……このまま行くわよ!」

 スズカの頭の中の作戦では、天井裏から颯爽と飛び出し、敵に声を上げさせることもなく鮮やかに制圧する予定だったのだが、結果としては銃声鳴り響く、かなりグダグダな突入になってしまった。しかし、ラスカルとスズカの前では所詮ただの武装した小悪党にすぎず、一応の制圧は完了した。

「みんな無事ね?」

「えぇ、人質の皆さんも怪我はありません」

「それじゃあ、他の人達が戻ってこないうちに脱出しますか」

 が、そうは言っても銃声鳴り響く無茶苦茶な突撃だったので、当然他の仲間にも気付かれてしまったわけで……。

「逃がすものか……」

「げ、もう戻ってきた!」

 そこには、ナイフをベロリと舐めるヒゲリーダーと凶悪な笑みを浮かべるテロリスト達が集結していた。

「男一人に、小娘二人、それからネズミ一匹か……獲物にしては物足りんが、まあ良いだろう」

 ヒゲリーダーはそう言うと右手を上げた。すると、部下達がガチャガチャと音を立てながら、一斉に小銃を構えた。しかし、スズカはまったく怯まない。

「あんたなんかにやられるもんですか!」

「そうだ馬鹿野郎! 魔法舐めんな、このクズ!」

 まだ、スズカには奥の手が残っていた。すなわち、変身……マイニティースズカに変身すれば、小銃はおろか、戦車や戦闘機が相手でも、スズカの敵ではないのだ。

「覚悟しなさい! ドコーマ・ディッテ・モニゲー……あれ?」

 と、呪文を唱え始めたところで、スズカは急に違和感に襲われた。そして、その違和感の正体に気付くと、彼女の顔からはどんどん血の気が引いていった。

「マイニティークラウンがない……」

「おい、あれほど失くすなって言ったろ!」

 ラスカルに急き立てられて、慌てて体中を探してみるが、見当たらない。部屋の中にも落ちていない。まさか、通気口の中に……と、そう思ったが、幸いマイニティークラウンは部屋の中にあった。


「はっはっはっ! 馬鹿め、マイニティークラウンはここだ!」


「あぁ! ブル公!」

「陛下、何してるんですか!」

 ブルボンの手に落ちてしまっていたが……。

「くっくっくっ……ついに手にしたぞ、最強の軍事力!」

 ブルボンは笑いが止まらなかった、あれだけの銃を前に余裕でいられたスズカ……それだけの力がこの小さな冠にはあるということなのだから。ブルボンはそれを確信すると、マイニティークラウンをミホの頭に載せた。

「さあミホ、魔法少女マイニティーミホに変身だ!」

「嫌です! スズカさんに返してください!」

 それは当然の回答だった。悪に荷担するわけにはいかない……が、ブルボンもそんなことは予想済みだった。

「馬鹿め、貴様が変身しないと言うなら、私はマイニティークラウンを破壊する。そしたら我々は奴らによって皆殺しにされるぞ? 分ったら変身しろ!」

「ず、ずるいですよ、陛下!」

 拒否すれば、自分だけでなくスズカやラスカルもやられてしまう。選択肢を与えぬ強制力……やはりブルボンは暴君だった。そのことを思い知り、本当に気が進まなかったが、ミホは仕方無く変身することにした。が……

「そこまでだ!」

「ん? 誰だ!」

 ミホが変身しようとした時、そのプラチナ色の男は颯爽と現れた。

「銀河治安維持機構調査官18351890号、コード『TM』だ! ブルボン、貴様の行為は『変身強要の罪』に該当する。即刻中止しろ!」

「何だよ『変身強要の罪』って! そんなもんあるのか!?」

「ある!」


「おい!」


 ヒゲリーダーは溜まらず怒鳴り声を上げた。

「何だ? 公務執行妨害で裁くぞ」

「俺達を無視するな! ふざけやがって……全員、蜂の巣にしてやる!」

 魔法少女に、銀河治安維持機構に、暴君……冷蔵庫の中に余っていたものを、適当に突っ込んだシチューのようにカオスな空間に耐えられなくなって、ヒゲリーダーはついに、部下達に射殺の合い図を送った。

 しかし、TMはまったく動じることなく、テロリスト達の方に向き直ると溜息を一つついてから、ゆっくりと口を開いた。

「馬鹿な、お前らの銃火器程度で、この私を排除できると思っているのか?」

 銀河治安維持機構の調査官がまとっているプラチナ色のアーマーは、通常の銃火器では到底破壊できない代物なのだ。もちろん、地球のテロリストごときに負けるつもりはさらさらなかった。しかし、ヒゲリーダーもこれだけのテロを起した男だ。

「フン、馬鹿め……我々がギンチキが来ることを予想してないと思ったか?」

 そう、全ては予想の範囲内のこと……。

「まあ、対策は何もしてないがな……」

「えぇー!? ボスー!?」

「野郎ども逃げるぞ!」

 計画の初期段階で、銀河治安維持機構のことも頭にあったのは確かだった。しかし、計画を練っていくうちにすっかり忘れてしまっていたのだ。自分で掘った落とし穴を悔やみつつ、ヒゲリーダーと部下達は逃走を始めた。が……

「そこまでだ! 全員動くな!」

「や、やべえ、サツだ!」

 突入してきたヒジリナ率いる特殊部隊によって、テロリスト達は敢えなく御用となった。


「まったく、どいつもこいつも勝手な行動をしやがって……」

「フン、銀河治安維持機構の力を思い知ったか?」

「馬鹿を言え。こんな無理な突入、下手をすれば人質が死んでたぞ……」

 事件解決後、ヒジリナとTMはしばらく口論を続けたが、しかし終わり良ければ全て良しということで、役人の管轄争いもひとまずの決着を見た。その後、ヒジリナは犯人グループを連行、そしてTMは……

「それじゃあ、そろそろお前の刑を執行するか……」

 この場にいた、もう一人の悪党の処分に取りかかった。

「な、何だと!? 私が何をした!?」

「マイニティークラウンをスズカさんから盗みました」

「しかも軍事利用しようとしてたわね」

「魔法舐めてんじゃねーよ、バーカ」

「貴様らぁ〜……シヴァ!」

「シヴァ君なら、事情聴取のために警察に行きましたよ」

「な、何!?」

「覚悟は良いか?」


 迎賓館に響いたブルボンの叫び声を最後に、騒然としていた現場に平和な時間が戻ったのだった。



続く




二日連続投稿です。

ってことでこのストーリーは決着。

次回はどんな話になるやら……。


それはそうと

今朝、すごいことがありました。

私は今日、ちょっと寝坊したんですが

そんな私を眠りから呼び覚ましたのは、なんとまさかの


ド リ ル の 音


何だ、何だ!?

と、飛び起きて見ると

知らない男の人が私の部屋の壁に妙な装置を付けていました。


「誰だよあんた! どうやって入った!」


と、前回の外務大臣さんのようなセリフを吐く私……。

するとその男は……

「おはようございます。管理会社の者です。火災報知機を取り付けに来ました」

と……。

何だ、管理人さんか……

合いカギで入ったそうですが

ビックリするし、倫理的にあれなのでやめて欲しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ