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23.正義と正義は交わらない

 立派な会議場の中の、立派な楕円形のテーブルを、立派なスーツを着た人々が囲んでいた。そこは首都アリマにあるコイワイ迎賓館。今日はそこでは、世界から主要国の外務大臣達が集まって会議が開かれることになっていた。物々しい雰囲気に包まれる会場……しかし、一点だけ違和感があった

「ほぅ、あなたが噂の……」

「はい、私がブルボン帝国外務大臣のシヴァ・グリーンです」

 得体の知れない、宇宙人のような姿をした「何者か」が混ざっていることだ。ブルボン帝国は、もちろん主要国ではない。本来なら、シヴァがこの場にいるのはおかしなことなのだが、先日、ヤポンの首相と会談した宇宙人の噂は、あれから世界中に広まっていた。それゆえに、シヴァが参加を申し出たとき、外相達は好奇心に駆られ、その申し出を受けてしまったのだ。

「はっはっはっ! 暴君に女の子に宇宙人の帝国ですか。面白いですね」

「笑い事ではありませんよ! まったく、ルドルフ陛下はなぜあの男を生かしておくのか……」

 シヴァの話を聞いて、マグニテ帝国の外相だけは腹を立てたが……しかし、何はともあれ、外相会談は順調にスタートしようとしていた。

「まあまあ、良いじゃありませんか……それはそうと、そろそろ会議を始めましょう」

「いいや、会議は中止だ」

 それは突然、ヤポンの外相の言葉の後に続いて聞こえてきた。いきなりの中止宣言に、その場にいた外相達は声のした方を振り返った。会議室の、木彫りの装飾が施された立派な扉が半開きになっていて、その前に、およそこの場には似つかわしくない、ヒゲもじゃのタフガイが立っていた。

「誰だ君は! どこから入ってきた!」

「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだぞ! 警備員は何をしている!?」

 どう見てもSPや関係者ではないので、さすがに驚いて外相達は声を上げた。しかし、自分に向かって人差し指を突き立ててくる彼らを前にして、男はニヤリと口元をゆがませた。

「無駄だ。警備員諸君には、残念だがあの世に行ってもらった」

「何だと!?」

 と、次の瞬間、外相達の顔は一気に青ざめた。男は一人ではなかったのだ。仲間がいた。見るからに強力そうな銃火器で武装した、何人もの仲間が……。

「フン、安心しろ。貴様らは大事な人質だから、簡単に殺しはしない」

 男は急に静かになった外相達を、半ば冷やかすような口調で話を続けた。

「貴様らの母国の対応しだいだがな……」

「な、何が目的だね……」

「それも含め、これからメディアを通して、我々の要求を発信する」


 首都アリマでそんな大事件の引き金が引かれた、その数十分後……しかし、ミホとブルボンはいつも通りの平凡な時間の中にいた。

「あ〜あ、良いなシヴァ君……今頃美味しい物でも食べてるのかなぁ?」

 先日のパーティのことを思い出しながら、ミホはつぶやいた。きっとシャンパン片手に、カナッペでもつまんでいるのだろう……と、ミホは頭の中にテーブルを囲む紳士淑女を描いて、また溜息をついた。ブルボンはその様子に思わず呆れて、ミホの妄想を叩き壊すべく口を開いた。

「馬鹿が……今回、奴は主要国外相会談に出席するために出かけたんだぞ。今頃会議の真っ最中だ」

「じゃあ、ニュースでやってるかもしれないですね」

 ちょうど、テレビでニュースがやる時間だった。昨日の同じ時間に見たニュースで、確か外相会談のこともやっていたので、おそらく今日もその話題に触れるだろうと予想して、ミホはテレビのスイッチを入れた。

『……良く聞けクズども。たった今、我々はコイワイ迎賓館を占拠した』

 テレビには覆面の男が映し出されて、そしてそんなことを言っていた。チャンネルを間違えたのか? そう思って、ミホはリモコンのチャンネルボタンを押したが、しかし、画面の映像は変わらなかった。と、言うことは……この覆面男の映像は何かのニュースと言うことになる。何のニュースか気になって、ミホは画面の隅にあるテロップを読んでみた。


『テロ集団、外相会談を占拠』


「えぇー!?」

 ミホはたまらず大声を上げた。ブルボンも「何だ、何だ」と、テレビの所までやって来た。

『貴様らの国の大切な外務大臣は、今我々が人質として捕らえている。無事に帰して欲しければ我々の要求を飲むことだ。一カ国でも逆らった場合、連帯責任として、全ての人質を皆殺しにする。ハッタリだと思うなら逆らってみるが良い……次の外務大臣の人事を考えた上でな』

「おのれ……ブルボン帝国にケンカを売るとは良い度胸だな、こいつら……」

 ブルボンは奥歯をギリギリと噛み締めながら、画面に映る男をにらみつけた。そして、頭の中では「どうやって、テロリストどもを鎮圧してやろうか?」と考える。が、その思考はミホの言葉によって中断された。

「逆らったら、シヴァ君も他の人達も殺されちゃいますよ!」

 そう、外相会談には、同居中の謎の生命体、シヴァ・グリーンもいるのだ。最初は鬱陶しい存在だったが、最近分った。シヴァは優秀な外務大臣だ。

「う〜む……確かにシヴァを失うのは痛いな。他の奴のことなんぞ知らんが……」

 どうしたものか……ブルボンは頭を抱えた。

 そうしているうちに、犯人は各国に対して要求を述べ始めていた。「服役中の仲間を釈放しろ」とか、「最新科学技術のデータをよこせ」とか、ミホには思いもよらないことを言っていた。そう、ミホには……すなわち、ブルボン帝国という一軒家には……

「我々にはまったく損のない要求だな。よし、奴らの要求を飲んでやろう」

 連帯責任と言っていたから、他の国が要求を蹴る可能性もあるが、とりあえずシヴァの安全だけでも確保するため、ブルボンは決断をした。ちょうど、画面には連絡先が表示されている。ブルボンはさっそく、犯人グループに電話をすることにした。

「どこの国だ?」

 コール音の後に、高圧的な態度の男が電話に出た。ブルボンは一瞬ムカッと来たが、しかし、咳払いをして声の調子を整えると、国名を述べた。

「ブルボン帝国だ」

「……はあ?」

 犯人グループの男は、思いもよらぬ国名に一瞬黙った。そして「はてさて……」と頭の中に世界地図を広げて見たが……

「え? 何て?」

「ブルボン帝国だ」


 ぶ・る・ぼ・ん・て・い・こ・く……?


 男は、静かに受話器を置いた。

「今のはどこの国からだった?」

 受話器に手を置いたまま押し黙るその男を見つけて、もう一人の仲間が声をかけてきた。しかし、男は首を傾げると、仲間に言った。

「『ブルボン帝国』だってよ」

「どこだよ、それ……」

 結局、ブルボンの電話は「イタズラ電話」と結論付けられた。

 しかし、ブルボンの方は困ってしまった。せっかく「要求をのむ」と伝えようとしたのに、その前に電話を切られてしまったのだから。

「どうするんですか、陛下?」

「む〜……仕方ない、現地に出向いて、直接交渉するしかあるまい」

 ミホとブルボンはテレビを消すと、出かける準備を整えた。


 コイワイ迎賓館前は、さながら外国のハードアクション映画のようだった。赤い光を揺らめかせるパトライト、上空を乱れ飛ぶ警察や報道用のヘリ……分厚いヘルメットを被った機動隊や、カメラ付き携帯を手にした野次馬が行ったり来たり……。

「なかなか騒ぎになってるな」

「そりゃそうですよ……あ! 対策本部ありました。」

 ミホとブルボンは、途中何度か警察官に止められながらも、何とか事情を説明して『対策本部』と書かれたテントまでやって来ることができた。

 しかし、本部で二人の相手をしてくれたのは、いかにも「最近配属されました」と言うような若い刑事だった。しかも、この緊迫した現場にあって、彼は爽やかな笑顔を浮かべている。

「大丈夫ですよ、彼らは主要国を相手にしてるだけで、『ブルボン帝国』なんてわけの分からない国は眼中に無いと思いますから」

「何だと、この平ポリめ!」

「へ、陛下! 仕方ないですよ……」

 平ポリの言うことはもっともだが、しかしシヴァが捕まっていることは確かで、犯人がブルボン帝国を相手にしているかどうかはこの際どうでも良いことだった。が、平ポリは「我々に任せて下さい」としか言わない。このままでは埒が明かない……苛立ち始めたブルボンは、ついにバンと机を叩いて口を開いた。

「責任者を呼べ!」

「銀河治安維持機構の者だ! 責任者はいるか?」

 ブルボンと同時に対策本部の責任者を呼ぶ者……「責任者」という言葉が綺麗にハモったその相手は、ブルボンの背後でプラチナ色の光沢を放っていた。男の方もブルボン達に気付いたのか、二人に視線を向けてきた。

「ん、お前らは……」

「き、貴様はTM!」

「久しぶりだな。こんな所で何をしている?」

「それはこっちのセリフだ」

 TMの方は仕事だった。ミホ達がテレビで事件発生を知った頃、TMは別の取り締まりをしていたのだが、その時本部からの指令が入り、急遽飛んできたらしい。なんでも、『平和的政治への威力妨害の罪』というものに該当し、銀河治安維持機構の規定ではかなりの重罪らしい。

 それはともかく、前々からの関わり合いもあり、TMはさっそくブルボンを疑っているようだった。二人は慌てて、「同居人が人質として捕らわれている」と説明をした。

「そうか、あのエイリアンはお前らの仲間だったのか……まあ、私が来たからには大丈夫だ! すぐに私が救出してやる」

 そわそわとするミホの肩に手を置くと、TMはそう言った。


「私にも手伝わせてもらって良いですか?」


 TMの言葉に続くように、若い女の声が対策本部に響いた。

「あ、スズカさん」

 ミホは声の主に見覚えがあった。そう、魔法少女のスズカだった。どうやら、TMと同じように、テロリストを倒すべくやって来たらしい。しかし、TMは若干訝しげにスズカを見た。まあ、見た目普通の女の子が「テロリスト退治を手伝う」と言っているのだから仕方無いが……。

「……君は?」

「魔法少女よ」

「まほう……?」

「何だてめえ、魔法知らねぇのか? 舐めてんのか、コラ! あんな小悪党ども、ワキアの魔法で一発だ!」

 困惑気味のTMに業を煮やしたのか、スズカのポケットの中から白ネズミのラスカルが飛び出してきて、いつも通りの酷い口調で、TMに魔法の凄さを説明した。

「そう言うわけで、魔法少女としての任務なんで、迎賓館に入れてください」

 一通りの説明の後、スズカはニッコリと笑うともう一度言った。


「ダメだ……」


 一言で、一気に空気が凍りついた。

 TMは口を動かしていなかった。しかし、その言葉は、確実にその場にいた者達の鼓膜を揺さぶった。TMではないとすると、誰が? キョロキョロとミホ達があたりを見回すと、さっきの平ポリの後ろで男はタバコを吹かしていた。そして、ひとしきり紫煙をくゆらすと、男はギロリとにらみを利かせながら再び口を開いた。

「魔法少女も、ギンチキも、お呼びじゃないね」

「何だお前は?」

 くたびれた服装に身を包んだ、血色の悪いその男にTMは聞いた。

「お前が呼んだんだろ。ここの責任者、中央捜査局テロ対策部のヒジリナ・ヒカルだ。ここは我々の管轄だ、部外者はすっこんでな」

「何だと?」

 ヒジリナは明らかに、TMを良く思っていないようだった。しかし、同じく正義を貫く身であるはずの警察にそんな態度を取られては、TMとしても納得はいかない。TMの方も表情を険しくすると、ヒジリナに食ってかかった。

「それは銀河治安維持機構に対する挑戦と受け取れるな」

「挑戦ってほどじゃない。おたくらは手広くやってる分、一つの分野に関しては知識や技術が薄すぎるって言ってるんだよ。やれる事と言ったら、せいぜい力押しだろ? ことテロ対策に関して言えば、俺達はあんたらとは比べ物にならない対応力を持っている。大人しくプロに任せろ」

「貴様……」

 ヒジリナとTMはその後、しばらく、黙ったままにらみ合いを続けた。



続く




なんかサミット意識した話っぽくなっちゃいましたね。

でも変な意図はありません。

何事も無く終わりましたしね、サミット。

何事も無さ過ぎて、国民としてはブチギレ寸前でしょうか?

頼みますよ福○さん。


ってことで次回にストーリーは続きます。

捕らわれたシヴァ君の明日はどっちだ!



あ、『どっちの料理ショー』思い出した……


お腹空きました。

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