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2.強制労働カフェ

 ブルボンは、ミホの所持していた通帳を見ていた。それなりの金額が入っているが、しかし足りない。ブルボン帝国を大きくし、元居たマグニテ帝国の人間達をアッと言わせるには、その額はあまりに少なすぎた。予想はしていたがこれほどとは……ブルボンは通帳を閉じると、溜息をついてテレビを見た。

「何か、うまい金策はないだろうか?」

 テレビ画面では、『北テースト共和国、独裁の実態』と題した番組が放送されている。しかし、今のブルボンにとってはどうでも良い内容だった。ブルボンはテレビを消そうと、リモコンに手を伸ばした。


「私は北テーストで五年間、強制労働をさせられました。」


 しかし、その時テレビから聞こえてきた単語が、ブルボンの手を止めた。ブルボンは、その四文字の単語を頭の中で反復すると、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた。

「なるほど、『強制労働』か。その手があったか……」


 数日後、ミホはなぜか、メイドの格好をさせられていた。

「ふむ、なかなか様になっているではないか。」

「え? あの、陛下? 意味が分からないんですけど……」

 彼女は朝早くにブルボンに叩き起こされ、「付いて来い」と言われるまま付いて来ただけで、一切の事情を知らされていなかった。

「お、良いねえ! 良い感じじゃないの。」

 ミホが訳も分からずに呆然としていると、部屋にひょろっとした男が入ってきた。男の名はメジロ。ここ、『メイド喫茶マックイーン』の店長である。ミホは今日一日、彼の下で働くことになっているのだ。

「え、何で?」

「ふむ、帝国の財政を潤すためだ。臣民として、しっかり励めよ。」

 そう言うと、ブルボンはどこかへ行ってしまった。ミホはまだ良く分からなかったが、どうやらブルボン帝国のために、しなくても良い労務を課せられたらしい、ということは理解できた。

 嫌だ! 事情を説明して帰ろう……そう思って、ミホはメジロの方を見た。しかし、彼はニコニコと嬉しそうに笑っている。

「いや〜、本当に助かったよ。君が来てくれなかったらどうなっていたことか……」

 メジロが言うには、今日、マックイーンに大切なお客が来るらしく、その結果次第では多額の融資を受けることができるらしい。しかし、昨日になって、メイドが一人病気でダウンしてしまったため、お客の要求する『メイド五人』から、一人欠けてしまったのだ。

「うちはまだ開店したばかりで、メイドがギリギリ五人だったから……でも、これで何とかなるよ。良かった、良かった!」

 どうやら、帰る訳にはいかないらしい……ミホは諦めて、溜息をついた。

「それじゃあ、仕事の内容を説明するね。難しいことは無いから、大丈夫だよ。」


 それから二時間後、ミホはお客を前にしていた。相手をしているその男は、シライシグループ総帥の一人息子。いわゆる御曹司と言う奴である。「失敗は許されない」と言う思いが、逆にミホの緊張を煽る。今もシライシの注文したオムライスに、ケチャップでハートを書いているのだが……案の定、失敗してしまった。

「あ〜ん! 失敗しちゃったですぅ〜。」

「おぉ〜! 今の80点!」

 しかし、心が広いのか、それとも馬鹿なのか、度重なるミスも、適当に可愛い子ぶることで誤魔化すことが出来た。

「コーヒーのおかわり、取って来まーす。」

 バックヤードに入って、ミホはホッと一息ついた。一時はどうなることかと心配したが、この分なら無事に乗り切ることが出来るだろう……そう考えながら、ミホがコーヒーを淹れていた時だった。客室の方から、ガシャンという音がしたかと思うと、続いて、バシッと乾いた音が聞こえてきた。何事だろう? ミホが恐る恐る客室を覗いて見ると、そこには怒り狂った表情のシライシと、その足元で頬を押さえてうずくまる、同僚のユウの姿があった。メジロも気付いたのか、オロオロしながらシライシの元へ歩み寄っていく。

「ど、どうかなさいましたか、シライシ様?」

「どうもこうもあるか! こいつが俺のことを突き飛ばしやがったんだ!」

「ち、違……だって、セクハラ……」

 そう、シライシがユウの体を執拗に触るので、ついつい突き飛ばしてしまったのである。涙目でメジロに助けを求めるユウだったが、しかし、メジロはただペコペコと頭を下げるだけ。さながら蛇に睨まれたカエルと言ったところか。

「セクハラ? お前らメイドだろ? ご主人様はなぁ、触りてぇんだよ!」

 そんなメジロの態度を良いことに、シライシはそう言ってまくし立てた。

 大変なことになってしまった……他のメイド達も、困った顔をしているだけで何も言わないし、「シライシは大切な客」と言っていたメジロに期待するのは酷だろうし……そうやってミホが困っている時だった。

「何だ? 何の騒ぎだ?」

「あ、陛下。」

 突然現れたブルボン。ミホはハッと振り返って声のした方を見た。

「何しに来たんですか?」

「ふむ、貴様がサボっていないか、視察にやって来たのだ。それで? あそこで騒いでいる愚民は何だ?」

 ミホは、それまでの経緯をブルボンに説明した。すると、ブルボンの表情はみるみる険しいものへと変わっていく。今回の接客を成功させるために、ミホを送り込んだと言うのに……ミホのミスではないが、失敗したとあれば、メジロが報酬を渋る可能性もある。ブルボンは何としても事態を収拾させたかった。

「良し、私があの下郎を黙らせてやる。」

「えぇ! 陛下、あまり余計なことをしない方が……」

「フン、皇帝に不可能はない! 貴様は黙ってそこで見ているが良い。」

 意気揚々と、シライシの元に向っていくブルボン。ミホにはその後姿が、なんとも頼もしく見えた……が、しかし、それはどうも気のせいだったらしい。最初こそ威風堂々としていたブルボンだったが、シライシに灰皿で頭をド突かれると、威厳も何もアッと言う間に吹き飛んで、無様に床にひれ伏してしまった。

「部外者はすっこんでろ!」

「すみません! すみません! どうか殴らないで下さい! お願いします……」

 額を床にこすり付けながら懇願するブルボンの姿に、ミホは呆れて言葉も出なかった。何と言うヘタレ……とんだ皇帝陛下である。「下郎を黙らせる」どころか、逆に、火に油を注ぐ結果となってしまった。

「舐めやがって! 俺が親父に頼めば、こんな店すぐにでも潰せるんだぜ?」

「そ、それだけは!」

 必死に頭を下げるメジロを見て、シライシは下卑た笑みを浮かべた。

「嫌か? 嫌なら許してやっても良いが、その代わり……おいメイドども! お前ら全員、裸になれ!」

「おぉ! そんなことで許してくださるのですか! おいミホ、脱げ。」

 プライドが無いのだろうか? ミホは、完全にシライシの腰巾着に成り下がってしまったブルボンを睨みつけた。しかし、その視線が気に障ったのか、シライシはツカツカと、ミホのいるバックヤードの方へ向ってきた。

「何だ、その目は? ご主人様の言うことが聞けないってのか?」

 ニタニタ笑いながら、ミホの服に手を掛けるシライシ。しかし同時に、ミホの右手が振り上げられた。そして次の瞬間、バシッと二度目の音が店内に響き渡った。

「最ッ低!」

 赤く染まった左頬を押さえながら唖然とするシライシに向って、ミホは思い切り言い放った。それきり静まり返る店内……メジロは椅子に腰掛けると、力無く天を仰ぎ見た。ここまで無礼を働いては、もうマックイーンはお取り潰しだろう……メジロは涙声の混ざった溜息を吐きながら、顔を両手で覆った。しかし、そんなメジロの思いとは裏腹に、シライシの表情は怒りのものではなく、悦びのそれへと変わっていった。気でも振れてしまったのだろうか? ミホが首を傾げていると、シライシが口を開いた。

「これだ! 俺が求めていたシチュエーションは!」

「シ、シチュエーション?」

「そう! ご主人様を嬲る強気なメイド……これこそが俺の求めていた、究極の『萌え』だ!」

 両の拳を天に突き上げながら、歓喜の雄叫びを上げるシライシ。良く分からないが、喜んでいるらしかった。その様子を見て、てっきり、怒って帰ってしまうのだと思っていたメジロはホッと胸を撫で下ろした。


 その後、シライシは、ミホが罵声を浴びせながら十発ほど尻を蹴ってやると、満足気な表情で帰っていった。一時はどうなることかと思われたが、ミホは無事に、マックイーンでの仕事をやり遂げることができたのである。全てが終わり、感謝するメジロから報酬の入った封筒を受け取ると、ミホは家路についた。いつになく足が重い帰り道、疲労がどっとミホを襲った。

「でも、終わってみたら割りと楽しかったかな……あんななら、またバイトに行っても良いかも。」

「そうか、そうか。それは感心なことだな。」

 その時、ミホの背後から突然手が伸びてきて、報酬の入った封筒を奪いとった。ミホが振り返ると、そこには封筒を開けるブルボンがいた。

「ほぅ、なかなか稼いだな。この金はありがたく、帝国のために使わせてもらうぞ。」

「えぇ〜! 陛下、何もしてないくせに……せめて、半分ぐらい私に下さいよ!」

「黙れ! 元々、これは強制労働だったのだ。どこの国に、強制労働の賃金を支払う皇帝がいると言うのだ?」

「そんなぁ……陛下なんて、殴られて土下座しただけじゃないですか〜!」

「うるさい奴だな……仕方ない。」

 鬱陶しそうに言うと、ブルボンは近くのコンビニに入って行った。そして数分して出てくると、持っていた何かをミホに差し出した。

「ほれ、今回の報酬だ。これで我慢しろ。」

「報酬って、肉まんじゃないですか……」

「ピザまんもやるから、少し黙れ。」


 強制労働はこりごりだ……妙に綺麗な夕日に照らされながら、ミホは肉まんにかぶりついた。



続く




第2話です。

メイドです。

最近メイドの出てくる話が多いな・・・

私の前世はメイドか何かでしょうか?

それとも単にメイド好き?

どっちでしょう?

う〜ん・・・・・・


いいえ、ケフィアです。


ってことで結論にしておきます。

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