叱責 -反省-
「アイン!聞いてるの!?」
「あ、うん。聞いてるよ」
アインは夜の闇に包まれた窓の外に向けていた視線をエリスの方へ戻し、頷いた。もっとも、内容はほとんど頭に入って来ていなかったが。バカ正直に「聞いていなかった」などと言えば、エリスのお説教が最初からになるのは明らかだ。
自分だけが怒られているときならばうっかり誤って「え?なんだって?」などと言ってしまうかもしれないが、今日は、と言うより今日も、ディーグと共に正座させられていた。
「演習が終わったらすぐ戻って来なさいよ。アイ…訓練用の借り機体が壊れちゃったらどうするの」
途中で名前を呼ばれた気がしたが勘違いだったようだ。最初よりはいくらか落ち着いたようなので、また機嫌を損ねると面倒だ、と思い、アインはディーグからエリスの方へ視線を戻した。
エリスは15才。髪の色は赤く、頭の左側で、胸まで伸びる髪をまとめている。エリスの髪が赤いのはアインの妹ではないから、というわけではなく、母親が南方出身だからである。アインは父親の特徴が強く出て、エリスには母親の特徴が強く出ている。その両親は、城お抱えの騎士団に所属しているため、滅多に帰ってこない。ベルツ夫妻には縁あってお世話になっている。
体型は、全体的に小さい。いい意味でも悪い意味でもすらりとしている。本人曰く、まだ成長期が来ていないだけ、だそうだ。
「アイン、今なんかいやらしい目で見てたでしょ?」
「実の妹をそんな目で見るわけ無いだろ…」
溜め息を吐きあきれた目で見てやると、エリスは顔を赤くして地団駄を踏んだ。
「見なさいよ!」
「どっちなんだよ!?」
何か妹の機嫌を損ねるようなことを言っただろうか?アインは記憶をたどったが思い当たる節が見当たらない。
「もう知らないから!アイン野垂れ死んじゃえ!」
「理不尽だ!?」
アインは自分の部屋へ走っていく妹の姿と弁当を重ね合わせ届かぬそれへ手を伸ばし、項垂れた。
「うぅ…明日からの弁当が…」
と、そこでアインはディーグが妙に静かなのに気付き、隣へ目をやった。
「師匠もなんでエリスを止めてくれなかっ…」
「………」
ディーグは寝ていた。
「……師匠……」
アインは、自分だけ夢の世界へ逃げ込んだディーグに恨めしそうな視線を向け、本日何度目かの溜め息を吐いた。