出現 -開く扉-
ここから順次更新していきます!初投稿でまとめて送ってしまったため、読むのに時間がかかってしまったかもしれません。すみませんでした…
目を覚ましたアインの視界に映るのはいつもの天井、ではなく、アーセナルのコクピットの中だった。
『大丈夫ですか、アイン』
「ゼロック…俺、なんでここに…」
『覚えていないのですか。アーセナルでアズマール遺跡へ向かうと言って、いきなり乗り込んできて、いきなり気を失ったじゃないですか』
アズマール遺跡とは、アーセナルが発見された遺跡で、アズマールから東へ少し行った場所にある。
「なんだって!?いや、そんなはずはない。俺は訓練中に気が遠くなって、それで…」
『私が嘘をついているとでも言うのですか。私はそこらのAIとは違い、バグ、故障などはありえません』
この間暴君に乗っ取られただろ、と言いそうになったが、また話がさらにややこしくなりそうなのでやめておいた。
「もしかして、俺が銀色の影に乗っ取られてたってのか…だとしたら俺に何をさせようとしたんだ…」
『銀色の影、とはなんでしょうか』
「ん、ああ。最近変な夢を見るんだが、そこに俺そっくりな声の銀色のやつが出てくるんだ」
寝起きだったため普通に話してしまったが、夢の話をこちらに持ってくるのはどうかしていると思い、撤回しようとすると。
『アインと似た声。ならば私、というよりアーセナルの元搭乗者だったのかもしれません。アインの声に反応して機能が復活したのですから、きっとそうでしょう』
「ゼロック、お前まで…でも…」
どうしてアーセナルでアズマール遺跡へ向かおうとしたのか気になる。アインは好奇心に負け、アーセナルのO・ハートを起動した。
『アイン、何を』
「後で謝ればいい。とにかく気になるんだ。あいつが何故アーセナルでアズマール遺跡に行こうとしたのか」
アーセナルが動きだし、警報が鳴る。いきなり動きだしたアーセナルに驚き、研究員たちが大慌てで逃げ惑っている。
暴君の再来だと思ったのだろうか。通信を繋いでこようとしない。
アーセナルは研究員たちを踏み潰さないよう細心の注意を払って、東方面のエレベーターに乗り込み飛び出した。
格納庫を飛び出したアーセナルは、なるべく人目につかないよう、街道から離れた荒れ地を走っていた。
「ブースター無しでも速く走れるもんだな」
『ブースターはあくまでも一瞬の動きでかわしたり、攻撃速度を瞬間的に上げて威力を増加させるものです。移動用のために装着したのではありません』
「……そうだったのか……」
そうこうしているうちに、アズマール遺跡に到着した。
現代の技術の多くは、こういった遺跡からの発掘品がもとになっている。機人に関わるものや、通信機などがそうだ。
「今のところ何も無さそうだな」
『いえ、そうでもありません』
ゼロックの言葉に合わせ、アーセナルのメインカメラがズームアップし、カーソルが表示された。
「何か見つけたのか?」
『あの瓦礫の下に機体反応があります。瓦礫は崩れてからあまり時間が経っていないようです』
「……本当だ、白いものが見えるな。城の訓練機が事故ったか。おい!今助けるからな!」
アーセナルは瓦礫に駆け寄り、慎重にどけていった。瓦礫の量が減っていくにつれて全貌が明らかになった。
「城の訓練機……じゃないな。もしかして新手か!?」
アーセナルは慌てて間合いをとったが、白い機人に動きはない。気を失っているのだろうか。気を失うということは有人機だろう。
「ゼロック、生命反応は」
『残念ながら、ありません。機能も停止しているようです』
「手遅れか……弔ってやらないとな」
アインはアーセナルとの接続を切って、白い機人の上に降り立った。
「機人ならこの辺りに非常時開放レバーが……あった、これだ」
機人やOシリーズなどの機動兵器には搭乗者に何かあったときのために、外部からコクピットを開けられる機能が数ヵ所に備わっている。
アインが白い機人の首元のカバーを外し赤いレバーを思い切り引っ張ると、胸部装甲が前面にせり出した。その瞬間、コクピット内から白い煙が吹き出した。
「うぉっ!?なんだ!?」
急いでコクピット内を覗き込むと、金色の髪の少女が眠るようにしてそこにいた。
「綺麗だ……」
少しのあいだ見とれていたが、すぐ我に返り、その少女を弔うために横向きに抱き上げてコクピットから出た。少女の体は既に冷たくなっていた。
「でもどこの国の出身だ?金色の髪なんて見たことも聞いたこともない…」
『アイン、聞いているのですか』
「っとすまん、どうした?」
どうやら考え込み過ぎてゼロックの声が聞こえていなかったようだ。
『その女性の生命反応が、コクピットを開放してから徐々に回復しています』
「嘘だろ!?どういうことだよ!だってこんなに冷たく……」
アインが少女の顔に目を向けると、青色の瞳と目が合った。
「え?は?なんで?」
アインが狼狽していると少女の口が開き、言葉を発した。
「に…」
「に?」
「兄…さん?」
「兄さん…って…」
その後、アインの口から発せられた悲鳴のような驚嘆の声が響き渡り、遺跡の崩落が進んだのは、二人と一機だけが知ることであった。
「大丈夫か?」
「あ、はい。一応大丈夫です」
見たところ外傷も無いようなので、アインはひとまず安心した。
「ところで兄さん、その髪の色、どうかされたのですか?」
「まずは俺がお前の兄さんじゃないって可能性の方が高いだろうが」
「さすが兄さん、その可能性は失念していまいた」
「人の話を聞けよ…」
前言撤回。やはりどこかで頭を打ったのかもしれない。それとも素なのだろうか。
「兄さんは冗談にまで全力を注ぐのですね!さすがです!」
「お前なぁ…俺は冗談なんて言ってない。落ち着け」
「だってその神託兵、X・テルミナに乗ってきたんですよね?紛うことなき証拠じゃないですか?」
X・テルミナとはなんのことだろうか。少女が指差す先にあったのは。
「アーセナルのことか?」
アインも指差すと少女は吹き出し、笑い始めた。
「ぷっ!あははははは!兄さん、仮の名前をつけるにしてももっとマシなのがあったでしょう!なんとかアーセナルとか、アーセナルなんとか、とか」
別に、アインが名付けたわけではないのだが。だが、どうやらこの少女はアーセナル、もといX・テルミナを知っているようだ。
「なあ、お前の名前と出身国はわかるか」
「む?もしかしてレイジ兄さんの方がどうかしてしまったのでは?」
こっちが心配されてしまった。どうも調子が狂う。が、この少女の兄の名前はレイジだということはわかった。
「はっ!もしや時空の狭間に落としてしまった時のショックで記憶喪失に!?大変です兄さん!えっと、こういうときはまず119番…駄目です!繋がりません!じゃ、じゃあ、人工呼吸をっ!」
「待て待て待て待て!落ち着け!時空の狭間ってなんだよ!?てかくっつくな!お前わかっててやってるだろ!?」
近付いてくる少女の顔立ちは綺麗で、アインはドキドキしていたが、少女の目は本気だった。
「…むぅ」
「やっぱりか!」
「イヤデスネーソンナコトナイデスヨー」
少女は書かれた文字を読むようにそう言ってから、明後日の方向を向き口笛を吹いていた。
アインはこのまま続けていても埒が明かないと思い、自分が折れることにした。
「もう俺が記憶喪失ってことでいいから、お前の名前と出身国を教えてくれないか…」
すると少女は表情を明るくしてくっついてきた。
「ですよね!やっぱり兄さんなんですよね!いいでしょう、なんでも教えますよ!スリーサイズは上から」
「名前と出身国」
余計なこと-気にならないわけではないが-を言いそうだったのでピシャリとこれを遮った。
「……クロトです……」
「出身国は?」
「そんなことまで忘れてるんですか?このうっかりさ」
「いいから出身国」
「……日本!」
「日本って……」
少女がやけくそ気味に放ったその国の名は、城の資料室の書物で読んだことのある、古代の国の名だった。




