act.6:置いてけぼり
「おい」
ベッドに横たわる片瀬は隣で座っている索を呼んだ。索は隣で腰掛けて、本を読んでいた。
「なんスか」
「お前、いつまでそこにいる気だ」
「ずっとです。オレは片瀬さんを見張ってるんですよ?」
「鬱陶しい! ロクに寝ることも出来やしねェよ」
顔を歪めながら、片瀬はブツブツと文句を言う。索は完全にそれを無視している。
――ピンポーン
「げ」
「おい、客だ。とっとと出ろ」
「……」
「おい、索!」
「片瀬さん、逃げないで下さいよ!」
「ばーか」
片瀬の利き腕の右腕には深い切り傷があった。巻かれた包帯にもジットリと血が滲み出ていた。それ以外にも幾つか重い傷がある。しかし当の片瀬は痛がる様子もなく、いつもと違う所と言えば、ヤケによく話す所だった。
「……あのバカ」
索が部屋に戻ると、そこに片瀬の姿は無かった。
布団がグシャグシャと残されている。床を見ると、血がポツポツと落ちていた。
索が棚の中に隠して置いた片瀬の銃も無くなっていた。
片瀬によって開かれた窓から、サワサワと風が吹き込んで来る。
片瀬の腕の切り傷は、日本で有数の巨大裏組織と関わったために出来たものだった。
昨日の銃撃戦では何とか一命を取り留めたものの、片瀬は大怪我を負った。
追手からも何とか逃げ切ったのである。
「……片瀬さん」
暗い路地裏で片瀬は壁に寄り掛かるように倒れていた。身体のあちこちに撃たれた痕があった。
「片瀬さん」
反応は無い。ポツリポツリと雨が降り出した。雨は片瀬の顔についた血を、静かに洗い流した。
「片瀬さん」
索はパタンと膝を付いた。そしてそっと片瀬の腕を触った。
「冷たい」
「……片瀬さん、あんた、またオレを置いてくんスか」
索は片瀬の隣で、壁に寄り掛かって座った。




