act.1:拾われた少年
「おい」
赤茶色の髪の目付きのキツい男が、暗い路地で靴を磨いている少年に呼び掛けた。
「……片瀬さんか。今まで何処に行ってたんスか」
少年は溜め息混じりに呟いた。片瀬と呼ばれた男はタバコを取り出し、ケッと悪態を付いた。
「生意気な口きくんじゃねェよ。お前こそ何やってんだよ」
「借金取りに追われてます」
質問した片瀬はただ、ふーん、と反応した。そんな片瀬を少年は恨みがましく睨んだ。
「……誰の借金だと思ってるんだか」
ブツブツ文句を言いながら、少年は靴磨きを続けた。
「片瀬さんは、片瀬さんは何してたんですか?……オレを置いて」
少年は今度は片瀬の方を見ないで尋ねた。片瀬はすぐには答えることはしなかった。暫く沈黙が訪れた。
「女んトコ」
「どんだけ凶暴な女性なんですか」
「……」
「女性の所に行って、どうやったら片腕血塗れなんだか」
「うるせッ」
片瀬の左腕からは大量の血が流れ出ていて、黒いスーツは染み込んだ血で汚れていた。
「ムチャし過ぎですよ」
「お前にゃ、関係ねェ」
「……よく言うよ」
ふぅ、と少年は溜め息を付いて立ち上がった。パンパンと膝に付いた埃を払う。
片瀬さん。
あんた、オレを拾った時に言ったセリフ、覚えていないのか?
“オレの為に死ねる奴しかいらねェ”
オレは、あんたの為に死ねるのに。
あんたはどうしていつも一人で突っ走る?
どうしてオレを置いていく?
オレはあんたに付いて行きたい。




