~魔学師のゲーム~
入学式の電車の中で出会った不思議な女性、……彼女はいったい何者なのか……。
大学に着くと、僕は入学式のパンフレットに書かれている通りに第3体育館へと向かった。
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体育館に着くと、入口には短いながら列ができていた。
「……なんだこの列?」
僕が呟くと、
「あら、あなたも魔学科?」
と、後ろから声がした。
僕が振り向くとそこには、スーツ姿の女性がいた。胸にある名札から察するに、大学関係者のようだ。
「あ、はい。」
僕が答えると、女性は少し微笑み、
「そう、じゃあこの列に並んでくれるかしら?
……あなたも知ってるでしょうけど、この大学に魔学師の方が講師をされるの。だから形式的なものだけれど、体育館に入る人には全員検査をさせてもらってるの。……ごめんなさいね。」
と、言うと、彼女は少し申し訳なさそうな顔をした。
「いえ、わざわざありがとうございます。」
と、言うと僕は列へと並んだ。
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五分ほどたち、僕の番が来た。
まぁ、危険物なんて持っていないので余裕で検査を通過できた。
体育館に入ると、ズラリとパイプ椅子が並んでいた。前のほうから入った順に座っているようだ。
(僕も座るとしよう。)
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開始時間になると、館内に放送がかかった。
『間もなく、入学式を行います。席に着いていない学生は直ちに席に着きなさい。……繰り返します――』
放送が終わると、壇上に数人の教授らしき人が現れた。
(……あの中に魔学師がいるのかな……。)
と、思っていると、壇上の演台に設置してあるマイクのスイッチが入り、一人の女性が挨拶を始めた。
「ようこそみなさん、ご入学おめでとうございます。みなさんはじめまして、私は天王大の学長、天王院 露姫と申します。」
白銀のショートヘア、スーツ姿のよく似合うすらりとしたスタイル、スーツの襟には蒼色のバラのブローチがあり、気品の良さを引き立たせている。
しかし、その姿には見覚えがあった。
(あ、あの人はさっきの人だ……。)
そう、先ほど体育館に入る時、列の前で出会った女性だ。
僕がそう思っていると、話は魔学の話へと変わった。
「この大学では日本で初めて、魔学を新たな学科に加えました。
……魔学とは本来、西洋から中心的に伝えられている学問、不思議な力を操る人々のための学問でした。」
……そう、かの有名な西洋に伝わる錬金術、鉛を金にかえる秘術だ。日本にも不老不死の研究もされていた。
「そう、そしてその力を使える者、それが魔学師。……そう!この世の遺産!!
その魔学師様が、「あの」お方が……!!あのお方がこの大学に!!
……、あぁ!!なんて素晴らしいんでしょう!!」
学長のテンションが上がるにつれ、周りがざわつき始めた。
「……、おっと、話がそれてしまいましたね。ともかく、この大学に魔学師様が来られる……、」
(ついに、魔学師が誰なのかわかるのか……。)
と、僕が思っていると、
「――ハズだったのですが……、まだこられていないのです……。どうされているのでしょうか……。」
その時だった。
「いやぁ、悪い悪い。日本はまるで人の巣窟だなぁ!おかげで人の波にもまれてしまったよ。ははははは!!」
入ってきたのは一人の女性だった。
「あぁぁぁ!!!」
僕はつい、大声をあげてしまった。
そこには、黒っぽい藍色の長い髪にシャギーで革製のスプリングコートを着込んだ女性がいた。
手には服と同じく革製の手袋、同様に足にも革製ブーツ。顔以外素肌を見せていない、何ともハードボイルドな格好をしていた。
顔立ちは、どこかの芸能人かと思うほど整った顔つきに、すごく背が高くモデル並みのスタイル。
頭には魔女の様な帽子……。
そう、電車で出会ったカトリーナと名乗っていた女性だった。
「ん?……おぉ!!」
僕の声に気付き、彼女は壇上を降りて僕のほうへと近づいてきた。
「おぉ!!さっきの若者じゃないか!!」
そう言いながら彼女は僕の背中をバシバシ叩いた。
「……、ゴホッ!!あ、はい……さっきはどうも……。」
「ははははは!!!なんだお前も魔学に興味があったのか!!」
彼女は大笑いすると、後ろから露姫学長がやってきて、
「アルティミア様!!いったいどうされていたのですか!!」
「あぁ~?普通に来るなんて面白くないだろ?だから二つ前の駅で降りて歩いてきた。」
「な、なぜそのようなことを!!あなた様は人類の遺産なのですよ!!」
「そんなこと知らないね。あたしはあたしのしたいようにするだけさ。」
クックックと、彼女は手の甲を口にあて、口の端を上げ笑った。
「…………。」
僕は少し引っかかった点があったので彼女をじっと見た。
「……ん?……あぁ、名前が違うことを気にしているんだな?」
「……えぇ、確か僕が聞いた名前はカトリーナさんだったハズですけど……?」
僕がそう言うと彼女は、ニヤリと笑い、
「偽名だよ。」
(言い放った……。)
「えっと……、では本当の名前は……?」
僕が聞くと彼女は、
「あたしの名前はなんだと思う?」
「そんなの分かるわけないですよ……。」
「ほう、ならなぜあたしが貴様の名前をわかったと思う?」
「え……?」
その時、
「もういい加減にしてください!!!」
僕と彼女の間を割って、露姫学長が入ってきた。
「ルーン・アルティミア様!!もういい加減にしてください!!」
「おいおい、何をそんなに怒っているんだよ?」
「怒りますよ!!貴方様には入学式のスピーチをしていただく予定でしたのに……!!」
「まぁ、そう言うな♪」
ギャーギャー叫ぶ学長をかわしながら魔学師は、壇上に戻りマイクをつかんだ。
「貴様ら!!よく聞け!!」
そう言うと先生は、指を鳴らした。すると、全員の目の前に長文の文字列のあるプリントが現れた。
「いいか貴様ら!!今から貴様らに配った千文字以上のランダムに書かれた文字列を5分以内に覚えろ!!法則性はない!!」
その言葉に、館内がざわついた。
「アルティミア様……!!何をなさるおつもりなのですか!?」
「なぁに、ちょっとしたゲームだよ。
……、そうだな待つ間暇だからな、お前ともゲームをしようじゃないか。」
「……、ゲームですか……?」
学長が身構えると、魔学師はニヤリと笑い、
「なに、そう身構えるな。ただのじゃんけんだ。
……、そうだな何もなしではつまらんな……そうだな、10連続で勝ったら願いを聞くというのはどうだ?」
「……いいでしょう……。貴方様がそれで満足されるというなら……。」
「よし、じゃあ初めだ!!」
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「おーし、あたしの173連勝だな♪」
「くっ……。一度も勝てないなんて……。」
魔学師と学長のゲームが終わったとき、ちょうど五分が立った。すると僕たちのところに現われていたプリントが消え、代わりにボイスレコーダーが現れた。
「よーし、五分たったようだな。じゃあそのレコーダーに覚えた文字羅列を録音しろ。」
僕たち学生は訳のわからないまま録音をした。
そして、全員の録音が終わると、レコーダーも消え去った。
「よし、終わったようだな……。」
(いったいなぜこんなことを……?)
僕がそう思っていると、
「……このゲームは、魔学の才能のあるものを調べるためのゲームだったんだよ。
そして、このゲームのクリア条件は『一千文字以上の文字の羅列を瞬時に記憶し、一度も噛まずに読み切ることができる』ことだ!!このゲームにクリアしていないものは、魔学科ではない学部に行ってもらう!!」
(……え!?)
僕たちは魔学師の言葉に驚愕した。
「な、何を言われているのですか!!そんなこと認められませ……。」
「お前はあたしの約束を忘れたのか?」
学長の言葉を魔学師はさえぎった。
「……なっ!!そんな……。」
愕然とする学長をよそに魔学師は、
「結果は明日の朝、家のポストを見ろ。
――じゃあ、あたしは帰るからな。」
そう言うと、《魔学師》は体育館の扉から出て行った。
いかがでしたでしょうか?
今回はかなり長文になってしまいました(汗)
読んでいただいた方、感謝感激です!!
ありがとうございます!!
感想などございましたらよろしくお願いいたします!!
それでは(^^)/~~~