小休止
戦闘終了、周囲に脅威無し、機体に損傷無し──目に疑似投射された無機質な状況報告の表示を確認して、僕は疲れたため息を漏らした。
「何が〝戦闘〟だよ‥‥‥」
ぼやきながら、風防をたくし上げ、周りを見回す。そこかしこに、赤い装束を羽織った天翔民達が倒れ伏していた。
「最初から分かってた‥‥‥つもりだったけどね」
正直、ここまで一方的になるとは思わなかった。
大げさでも何でもなく、彼らはザコも良い様な連中であった。これじゃ、山奥で狩りでもした方が、まだマシかもしれない。
手間が少なくて簡単に越したことは無いが、雑魚をいたぶって喜ぶ趣味は、僕には無い。
砲撃の出力は抑えたつもりだったが、念のため生命反応を探ってみる。死んでいる者はいない事を確認して、それで良しとすることにしよう。
「ぐぅ‥‥‥」
呻き声に、僕はそちらに目を向ける。一番最後にボコにした、彼らの頭目格である白装束の男だ。
「アンタ、意外と根性あるじゃん?」
その男が、歯を食いしばって起き上がろうとする姿には、驚いた。〝頭目〟と言っても、それが単なる飾りでしかないことは、知っていたからだ。
「一応肩書きに恥じぬ、というところかい?」
「き、貴様‥‥‥」
と、顔をあげたその白装束の男の顔は、腫れと痣に覆われていた。つい先ほどまでの、絵にかいたような眉目秀麗は、見る影も無い。立ち上がろうにも手足は折れ、飛ぼうにも両の翼は捻じれていた。
「何なのだ、その力は? 話にあった、あの〝穢れた翼〟の儀式とやらで手に入れたのか?」
〝穢れた翼〟の儀式──僕は、ため息を我慢できなかった。
「何をどんな風に聞いたか知らないけど、アンタはそれを毛ほども疑わないのかい?」
否定するのも馬鹿らしい。だが、時間つぶしには丁度良いかと思い、僕はその場に腰を下ろす。
「ていうか‥‥‥まだアイツが、アンタの知ってる〝穢れた翼〟のままでいると思ってるのかい? アイツがこっちに戻ってきてから、一度も面と向かって話の一つでもしなかったのか、アンタは?」
白装束は、歪んだ面をさらに歪ませる。何があったか知らないけど、ずいぶんと嫌な思いをしたらしい事は、はっきり伝わってきた。
「たった数日で、何が変わるっ」
認めたくないという意識もあるのだろう。彼の言葉には、必要以上に力が籠っていた。
「貴様ら地駆民には長い時間だろうが、我ら天翔民にはそれこそ瞬く間に等しく」
「まあ確かに、聖都を出た直後のアイツは、アンタと良い勝負の〝籠の鳥〟だったさ」
何しろ──缶切もろくに使えなかったからね。
「でも、三日合わずんば何とやらたらって言うだろ。瞬く間でも何でも、色々と思い知るには十分過ぎる時間だったんだよ」
言いながら、僕の思考は再び数日前に飛んだ。