EP6th 親友
「全艦ワープ亜高速空間に突入、流星も収容しました」
「どうにかなったか」
マーカスは小さく息を吐くと、ほっとした様に椅子に座る
他のメンバーにも安堵感が広がる
「追っ手はいるか?」
レインはレーダーに目をやり追っ手がいないことを確認すると
「ありません」
と答える
「クロウリィは?」
レインは首を横に振る
月光に収容されたシュウヘイは自室で窓から見える景色を、亜高速の光を眺めていた
「クロウ、無事でいてくれよ……」
親友の無事を祈りながら、彼は出会いの頃を思い返していた
軍に入ろうと思う者なら必ず中高一貫の軍学校に入学する
父親が軍の高官であったシュウヘイも、意志とは関係なく周りに流されるまま入学した
そしてその年、軍事惑星国家が銀河連邦政府に対し宣戦布告、戦争状態に入る
「戦争……?」
中等生である彼らにとって戦争は教本の中のみの、実感の湧かぬもの
そして伴わない感覚の中、中等過程を終了し高等部へ向かうシャトルの中で二人は出会う
「ここ、空いてる?」
「あ、どうぞ」
そう言ってシュウヘイの隣に同じ制服を着た少年が座った
そして座るなりいきなり声をかけてきた
「お前、部門どこ?」
初対面でのお前呼ばわりに驚き一瞬返事が遅れたが「パイロット部門」と答えた
「なんだ一緒か」
その後しばらくは沈黙が続いたが、ふとシュウヘイが隣を見ると先ほどの少年は荷物の中から何かを取り出そうとしている
「それ、小説?」
思わず聞いてみるとその少年は嬉しそうに答えた
「珍しいだろ、完全な紙製だぜ?」
「今時どこで手に入るの!?」
「よくあるのは地球の古い街だな、低下層に行くほどレア物があるんだ」
それから二人は意気投合し、中等部時代のことやこれからの高等部生活についてなど、いろいろと話し合った
「そうだ、おれはクロウリィ・ラウだ」
「僕はシュウヘイ・サカキ」
シャトルが到着し他の乗客が降り始めた時、思い出したように自己紹介をした
「サカキってまさか、オウド司令官の!?」
クロウリィは握手をしたまま驚きの声を上げる
「うん、まぁ……ね」
シュウヘイは父親が好きではない
何をするにも父親の影が付きまとい、彼に自立の道を許さなかった
シュウヘイの父親、オウド・サカキは地球全土の銀河連邦軍を統括する、地球方面軍統括司令官である
ゆえにシュウヘイが軍に入ることは当然とされ、そこに本人の意思が介入する余地はなかったのだ
中等部時代の同級生はみんなどこかよそよそしく、シュウヘイの心には常に孤独感があった
「別に関係ないけどな」
「え……」
シュウヘイは言葉を失った
今まではみんな、自分の正体を知ると一定の距離を置き、それ以上近づいてくることはなかった
だが、この言葉を聞いたシュウヘイは彼が今までの人間とは違うと感じた
クロウリィの言葉は、そんなうわべだけの同級生が引いていた境界線をいとも容易く踏み越えて、クロウリィへの信頼の第一歩となったのだ
そして二人はシャトルを降りる
同じ部門といえども、一番人気で何千人と生徒がいる中で同じクラスになる可能性は低い
だが始めてのクラス顔合わせの日、いつものように目立たない端の方にシュウヘイは座っていると
「隣、空いてる?」
「あ、どうぞ……?」
どこかで見たようなシチュエーション、そしてどこかで聞いたような声、隣を見上げるとそこには彼が立っていた
「シュウヘイじゃねぇか!」
「クロウリィ!?」
「なんだよ、クラスまで同じとはなぁ!」
シュウヘイ達のクラスは入学時のテストで高成績順に集められた、言わばエリートクラス
終了後はすぐに即戦力として配属される
「そこまで!」
「あの二人また全滅させたよ」
「本当すごいなぁ」
そのエリートクラスの中でも二人は飛び抜けていた
実戦を忠実に再現したシミュレーターでは、ことごとくザウザー軍を全滅させ、その他の任務も完璧にこなした
その実力を買われ終了後すぐに前線部隊に配属され、十九歳になった時異例のスピードで少尉に昇進する
これが彼らの今までの歴史、彼らは親友同士であり良きライバルでのあった
宇宙に残されたクロウリィは、敵に包囲され囚われの身となっていた
今クロウリィがいるのは連邦軍戦艦の独房の中
独房に設置されている監視カメラの映像が映っているモニターの脇で、艦長らしき男が通信モニターで誰かと話している
『どちらを捕らえたのだ?』
「明王の方です」
『そうか、準備は出来ているな?』
「はい」
『では、すぐに始めろ』
「了解しました、オウド司令官」
そして監視モニターには兵士に連行され、どこかに連れて行かれるクロウリィの姿が映っていた