EP5th 突破
「来ます」
月光の前方に次々と《ゲート》が現われ、中から戦艦がワープアウトしてくる
「連邦の戦艦だ」
出てきたのは銀河連邦所属の戦艦、約二十隻が進路を塞ぐようにしている
「戦闘配置解きますか?」
「ダメだ あれが本当に味方とは限らない」
基地を襲撃したのも連邦兵、現われた艦隊も信じることはできない
「艦長、前方の艦隊から通信です」
『月光を明け渡せ、新型の二機もだ』
低い声で威圧的に言ってきた
マーカスも押されないように強気で言い返す
「それは出来ない あんた達の目的はなんだ」
『答える必要はない 拒否するならば容赦はしない』
相対する艦隊の全ての咆門が月光を狙っている
それが容赦しない、と言う言葉が脅しにとどまらないことを示している
「艦長、どうしますか?」
マーカスは少し考え込み答えを出した
「強行突破する」
「強行突破ですか!?」
ジェシカが確認するように聞き返す
だがマーカスの答えは変わらない
これが皆が声をそろえるマーカスの長所、決断力の高さ
それによって多くの戦果を上げ、月光の艦長に抜擢されたのだ
「月光は最新鋭艦だ、シールド強度も総火力もあっちより上だ」
前方を遮るのは月光の前に艦長を勤めていた戦艦だ
そのスペックはよくわかっている、その上での強行突破だ
ブリッジに緊張が走る
「全艦一斉射撃の後、シールド全開、最大戦速で突破する」
「全艦に通達します」
ジェシカが味方戦艦に連絡すると、すぐに了解の返事が返ってきた
「艦長も相変わらず無茶だなぁ、あれを強行突破するなんて」
シュウヘイは半ば諦め気分で言った
だがクロウリィは違うようだ
「強行突破か、まぁそれしかねぇよな」
先程二人にも強行突破の作戦が伝えられた
彼らは艦上にて敵を迎撃する
『全艦通達、作戦を開始する』
続けてマーカスは操舵手のサンダースに指示をする
「サンダース、射程ギリギリまで前進だ」
「了解、前進します」
開始と同時にゆっくり前進していく
様子を伺っているのか敵艦隊に動きはない
全員が息を呑み、緊張に押し潰されそうになりながら指示を待っている
「距離二五」
マーカスの頬を汗が流れる
「距離二三」
そして……
「距離二一!」
「機関最大!全速前進!全艦一斉射撃!」
戦艦五隻の全ての咆門が一斉に放たれた
敵艦隊の列の右翼を閃光が貫く
この一斉射撃で進路上の敵艦三隻を撃破した
「敵、機動部隊接近!」
「弾幕を張れ!こちらの部隊も攻撃だ!」
『近寄ってくんじゃねぇよ!』
シュウヘイとクロウリィも艦上から迎撃をする
砲撃戦用の明王は問題ないが、近、中距離戦用の流星では射程距離に不安があった
そこで急遽、元は明王用の単装高エネルギー咆を装備し、脇に抱えるようにして発射する
「当たれ!」
赤い閃光が放たれ一機を撃破すると、そのまま横に振りさらに二機を撃破した
前方に突破口を開いたかに見えた月光だったが一隻の敵艦が塞ぐように移動してきた
敵艦から放たれたレーザー咆が月光を襲い、シールド強度を奪っていく
「シールド強度八十パーセントに低下!尚も低下中!」
レインからの報告にマーカスの顔が歪む
前方の敵艦だけではなく左右からも攻撃を受けている為、このままではシールドが消滅してしまう可能性があった
「反物質誘導弾を使う」
反物質誘導弾は着弾時に発生する対消滅による膨大なエネルギーにより戦艦のシールド強度を一気に低下させる
「発射!」
艦の船底部から誘導弾が発射された
誘導弾は敵艦のシールドに命中し、まばゆい閃光が奔る
「敵艦、シールド消滅」
「レール砲、撃てぇ!」
月光の集中砲火は敵艦を捉え、程なくして爆散した
「よし!突破する!ワープドライブ用意!」
ワープドライブに備え艦上で迎撃していたシュウヘイとクロウリィも、振り落とされないように船体に捕まる
だがその時だった
姿勢を低くしてワープに備えていたクロウリィの明王の足元に敵機のライフルが命中、その衝撃で月光から引き離されてしまう
「しまった!」
「クロウ!」
手を伸ばすがあっという間に届かない距離まで離れてしまった
明王の姿が宇宙の闇にどんどん小さくなっていく
「艦長!クロウが!」
『なに!?もうワープドライブに入るぞ!?』
「戻ってください!」
『無理だ!』
今、月光は宙域離脱のためワープドライブの態勢に入っている
ここで止めてしまうと突破出来ないのはもちろん、撃沈されてしまう可能性もある
だがそれでも引かないシュウヘイに対し本人から通信が入った
「シュウヘイ、お前はさっさと行け」
「クロウ!」
「奴らの狙いはこの機体で、こいつはおれにしか扱えない だから大丈夫だ」
流星と明王には最先端のパイロット認識システムが使われており、神経接続によって認識する
すなわち“本物の”クロウリィでないと扱えないのだ
「絶対助けるから」
「さっさと来いよな」
そう言って通信は切れた
レーダーに映る明王の反応もどんどん離れていく
強行突破を成功させた月光と他の四隻は、ワープドライブに入り宙域を無事脱出した