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身に覚えのあるダンサーに物申す

身に覚えのあるダンサーは迷惑かけてすみませんと謝りなさい

作者: ぺいた
掲載日:2026/09/24

ボレロ。


円形の赤い台の上で、メインダンサーが踊る。独特なリズムの中、周囲を取り囲む人間たちが、次々と踊りに魅了されていく。そして周り中を巻き込んで、熱狂のダンスを作り上げる!


ダンサーならだれもが憧れるこの舞台の、メインダンサーに選ばれたのだ。

私は必ずこの舞台を成功させてみせる!


幕が上がる。スネアドラムの音。

ゆっくりと動き出す。


フルートが加わる。

クラリネットが加わる。

ファゴットが、小クラリネットが、オーボエが。


重厚になっていくオーケストラの中で、汗が光っているのが見える。

男性ダンサーひとりひとりの息遣いが聞こえる。

自分の姿が俯瞰で見える。


ああ、私はまたここに来た。


ゾーンだ。


◇◇◇


ベッドで静かに読書をしていたら、誰かが現れた気配がした。


やっぱりいた。今度はなんだ、バレエダンサーか。

子爵邸の重厚な家具が並ぶ一室で、レオタード姿の女性ダンサー。シュールだ。


音が聞こえないのでいまいちよくわからないが、たぶん上手なのだろう。正確なリズムを感じる。

自己陶酔してるように、恍惚とした表情で5分ぐらい踊って、ポーズを決めたところでスウッと消えていった。


なんか今の、昔映画で見た「ボレロ」っぽいなあ。

ここで踊ってたんだから、きっと拍手喝采だったんだろうね。

向こうの世界にとってはいいことなんだろうけど、私にとってはいい迷惑だ。


――最初は何事かと思った。

いきなり私の部屋に鬼のお面を被った着物姿の人間が現れ、長い髪をぐるんぐるん振り回すのだ。


「誰!? 何? ちょっと! 誰か来てー!」

と騒いで、すぐに侍女や夜警、父母も駆けつけてくれたが、誰にもその姿が見えてなかった。なんなら、ぐるんぐるんしてる人をすり抜けて、あちこちを見て回っていた。


私は『きっと疲れて幻が見えたのだ』と判断されて、ベッドに寝かされた。


そうか、これ実在してないんだ、私だけに見える幻影なんだ、と気づいた時、前世を思い出した。


前世の私は、とくに何のとりえもない平凡な女子高生だった。

よくわからない病気で早死にして、この世界の子爵令嬢に転生した。


転生したけど、別に悪役令嬢でもないし、特別な力も持ってないし、とくにかわいくもない。

ということは、この幻影の登場が、転生の特典に違いない。


さっきのぐるんぐるんは、たぶん能だよね。

そして今また現れたこのタキシード姿の男性は、タップダンサーだと思う。音がしないから、ただじたばたしてるようにしか見えないけど。


ダンスとか、体育の授業でやったくらいしか知らないけど、ここに現れる人がすごいってことぐらいはわかる。動きが、表情が、スピードが、体幹が、プロだ。体を使って表現ができるプロの仕事だ。


たぶん、前世も平凡、転生後も平凡な私に、与えられた転生チートがこれなのだろう。

娯楽の少ない今の世界で、プロの素晴らしいダンスを見られる。


それも、ただのプロじゃない。私の部屋に現れるダンサーは、みんなゾーンに入ってる。

目がイッちゃってるのだ。これたぶん無意識で踊ってる。


そして、私の部屋がたぶん「ゾーン」なのだ。

ダンサーがノリにノッて、イッちゃうと、私の部屋にきちゃうのだ。


――それが、夜な夜なダンサーが現れる謎について、私が下した結論だった。

だから、さっきのバレエダンサーの登場にも、慣れっこになっていたのだ。


はじめのうちは、「ゾーンに入るような踊りがいろいろ見られて幸せ」と思っていた。

家にいながらにして、最高級のダンス動画が見られるようなものだもんね。音はないけど。


金色の集団が現れて、キラキラした棒を振りながら踊りだした時は驚いたなあ。

中央にいるのはどう見てもマツケンさんだった。あの歌は他とどこか違うと思っていたけど、ゾーンに入ってたのかと納得した。西洋貴族の豪華な部屋の中で踊り歩く金色集団。あれだけは面白かった。


神様はきっと、「平凡な人生に刺激のあるダンスを!」「異世界で踊る不思議感覚の体験を!」という、転生者とダンサーのwin-winな関係になれると思ったんだろうなあ。でも正直、ダンスに別に興味もなかった私にとっては、いらないサービスである。こっちは見えてないだろうけど、ダンサーがいるときに着替えるのとか嫌だし、考え事をしてる時に踊られると気が散ってしょうがない。どっか違うとこに行ってくれないかなあ。


◇◇◇


舞台は大成功だった。

いまだ拍手が鳴りやまない。

共演したダンサーたちが感動して抱きついてくる。


「素晴らしかった! 君は天才だよ! どうしてあんな踊りができるんだい!?」

「それが、よく覚えてないの。気がついたら終わってた」

「それはあれだね! ゾーンに入ってたってやつだね!」

「ええ。どこか、異世界に行って踊ってたような気がするわ」

「異世界転移系ワケアリ物件。毎晩寝室かどこかに複数ダンサーがダンスを踊りに来る。踊ったら消える。ちなみにダンスのジャンルはランダム(タップダンスから能まで世界中の物)」


——というリクエストを受けて書きました! お題を出してもらうの初めてだったので楽しかったです!

ありがとうございました!


9月24日、[日間]コメディー〔文芸〕 - すべて

で3位になってましたー! ありがとうございます!(*'▽')

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― 新着の感想 ―
読み終わって題名みて思わず笑ってしまいました、 面白かったです。
この転生特典がパワーアップして音まで再現されたり持続時間が長くなったりしたら大迷惑だよねwww 夜中に寝ている時にダンスの音楽が響いたり、学校のテスト中に真横でずっと踊っていたりされたらたまったもんじ…
これ・・・結婚初夜の時は地獄・・・。
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