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二章 姫なのに前線に放り出された! 4

「今だ!」

こんな事を仕出かすのはミラだろうと踏んだネーヴェは、小さく隊員に向かって言う。

幸い、敵兵全員が暴威の先に視線を向け、意識も向けていたからだ。

ネーヴェ隊が一斉に銃を構え発砲。

横殴りに受けた銃弾は、抵抗もなく前衛にいた敵兵に吸い込まれていく。

「誰が動いていいって言った!!」

その音を聞き、大柄の男が振り向き様に発砲。

一人が脳漿を散らして倒れていく。

「散開!」

ネーヴェが大柄の男を睨み付け、隊員に固まらずに行動するよう指示を出す。

「な、なんだこの女・・・」

敵兵が恐怖を浮かべて言うと、大柄の男はネーヴェ隊からまた目を離し、兵が向ける恐怖の対象を見た。


「お前の相手は私がしてやる。」

「なんなんだ、お前は。」

不敵な笑みを浮かべながら、銃弾の中を平然と進んで来る少女に、大柄の男も疑問を漏らした。

「ミラ。それがお前を殺す者の名だ。」

「ふざけんな!!」

大柄の男は大口径の銃を乱射するが、地面が抉れ弾けるばかりでミラには当たらない。

無駄だと思うと銃を投げ捨て、両腰に帯剣していた剣を抜く。


男は間合いを詰め、右手の剣を振り下ろす。

ゆらりと避けたミラに、そのまま跳ね上げ横薙ぎを出すが当たらない。

まるですり抜ける木の葉の様に動くミラを捉えようと、続けて左手での突き。

ミラは突きを避けたところで、その剣に刀を振り下ろす。

男が咄嗟に剣を引くが、根元から先は斬り落とされていた。

(なんだ、受けた感触も無かったぞ・・・)


「体躯も活かせず小手先の技ばかりとは、大した事がないな。」

見下す様な目で笑みを浮かべるミラに、男は顔を赤くして激高した。

「なら望み通り真っ二つにしてやるよっ!」

男は残った剣を両手で持ち、踏み込むと頭上からミラ目掛けて振り下ろした。

先程までの斬撃と違い、速度の乗った斬り下ろしをミラは苦もなく避けると、男の両手に掌を乗せ下に押す。

態勢を崩し、前のめりになった男の脇腹に、ミラは踏み込んで両手で掌底を叩きこんだ。

「っ!」

男は一瞬宙を舞った後、地面を滑って止まる。


「変化・紫雲。」

左手を柄尻に掛けたミラは笑みを浮かべると、言いながら男の方に向かってゆっくりと歩を進めた。





クレイが国境の壁に近付くと、オルベウイ側に建てられた砦の上から銃声が響いている。

当然ながら入り口も見張りが待機して警戒していた。

(多少の音なら立てても問題なさそうですね。)

クレイは速度を上げると、カトラリーのナイフを投擲。

見張りが気付いて銃を構えようとするが、左目から後頭部に抜けたナイフの所為で動きが止まる。

もう一人の見張りはその間に、顔を背中の方に向けられていた。


クレイはそのまま壁を蹴って、砦を駆け上ると屋上の端に着地。

それにも気付かず、五人の敵兵がエルテスニア側に向かって銃を撃ち続けていた。

(間抜けでございますね。)

クレイは冷めた目で見下ろすと、一人に近付き首の骨を折る。

そのまま身体を掴んで残りの四人に投げつけた。

その衝撃で初めて、そこに侵入者がいると気付いた兵は、態勢を立て直さず銃口だけを移動させる。


クレイはフォークを投擲し、銃口を向けようとした男の喉を穿つ。

(反応は良いですが遅すぎでございます。)

一番近い男に一足飛びで近付くと、右手を顎に添え勢いよく頭部を捻る。

そのまま次の男に移動すると顎を掴み、残ったもう一人の男の頭部に掴んだ男の頭部を叩きつけた。

(さて、武器も手に入りましたし、反対側も制圧致しましょう。)


砦の中央は一段高い屋上となっているが、塔の様に伸び丸みを帯びた形状をしているため兵は居ない。

足場としては狭く安定しないからだ。

その中央の塔から左右に出入口があり、開けた屋上になっている。

クレイはその片方を制圧し、反対側に行くべく中央の塔に飛び乗った。


「おい、反対側撃ってねぇんじゃねぇか?」

「越境されると面倒だろ、さぼってんじゃねぇよな。」

隣同士の男が、銃声に掻き消されないよう大声で話す。

「これ撃ったら見て来るわ。」

背後で迫撃砲の弾を装填した男が、二人の会話に割り込んだ。

「あぁ、ケツを蹴り上げて来い。」

と、最初に口を開いた男が笑顔で言った直後、笑顔は血と脳漿を散らし表情が無くなる。

その光景を見た男も、何が起きたか認識をする間もなく頭部が弾けた。


「呆気ないものですね。」

中央の塔から両手に持った銃を撃ち、反対側の屋上を片付けたクレイはつまらなそうな表情で見下ろした。

「丁度良い物がございますね。」

迫撃砲を目にすると、クレイは降り立って移動させる。

中央の塔にある扉を開けると、迫撃砲の砲身を扉の中に向けた。

(さて、ニールィ様へ報告にいきましょう。)

クレイは横目でニールィ率いる部隊を目にすると、迫撃砲を点火して屋上から飛び降りた。


背後に聞こえる爆音の中、クレイはエルテスニア側に入りニールィの部隊へと急いだ。

オルベウイ側から現れた燕尾を着た男、その異様な光景に部隊は一斉に銃を構えたが、すぐに下ろされ中からニールィが現れる。

「何故お前が此処に居る!?あの照明弾はなんだ!?中の状況はどうなっている!?」

ニールィはクレイを目にすると、矢継ぎ早に大声で質問を浴びせた。

(質問ばかりですね。)

質問の中に安否を確認する言葉は無いのかと思ったが、言葉の内容について議論している時間等無い。

そう思えば是非は問わずに笑みを浮かべる。

「敵は奇襲を予測し待ち伏せしておりました。現在、中でミラ様とネーヴェ様が奮闘しておられますが孤立状態です。わたくしは急ぎ救援をお願いしたく参じました。」


「なるほど、用意が良いとは思ったがそういう事か。状況はわかった、砦からの銃撃が止んだのはお前か?」

「はい、邪魔かと思い屋上は片付けました。混乱している今が越境の好機かと。」

「混乱?」

笑みを浮かべるクレイにニールィは疑問を漏らす。

「よし、行け!」

が、先程砦の方から聞こえた爆音はクレイが何かしたのだろうと判断したニールィは、部隊に進軍を促す。

「お前も戻るんだろ?」

「当然でございます。」

「なら一緒に行くぞ。」

「お言葉ですが、わたくしは軍属ではございません。急ぎミラ様のもとへ戻る必要がございますのでお先に失礼致します。」

「そういや、そうだったな。」

クレイの言葉にニールィが思い出したと頷くと、一礼したクレイの姿は霞んで消えた。


「しかし、練度はあれ軍隊相手に単独で行動するとか、本当になにもんだ?」

クレイが向かったであろう先に目を向け、歩き出すとニールィは疑問をひとりごちたが、進軍する部隊の音で自分の耳にすらその声は届かなかった。





ミラが抜刀すると、その刀身は薄っすら白味を帯び、紫色の光が纏う様にちらついていた。

柄を顔の右側まで上げると、左手で柄を握り刀身は垂直に天を仰ぐ。

「や、やめろ・・・」

大柄の男の前に立ち構え、見下ろすミラに恐怖を覚え懇願するように言った。

葉月ようげつ一刀流、一ノ型 天覆。」

ミラは躊躇無く、刀を垂直に振り下ろす。

白い軌跡を描いた剣先からは、放射状に紫色の光が迸り敵兵を飲み込んでいく。

胴を切断された大柄の男は、振り下ろされた刀が自分の身体を通った事に気付かなかったが、直後に痙攣し白濁とした眼球を見開いたまま動かなくなった。


「ミラさん!強すぎっす!」

納刀したとろでネーヴェが駆け寄って来て、歓喜の声を上げる。

「この程度であれば取るに足らない。」

「残りは俺たちが引き受けるので、休んでくださいっす。」

残兵の数も少なくないが、既に戦意を喪失している。

ミラは見渡してそう感じると、柄から手を離してネーヴェに力の無い笑みを向けた。

「うん、ちょっと疲れたから休みます。」

「了解っす!」


ミラは崩した壁まで移動すると、丁度いい大きさのものを探し腰かけた。

ネーヴェ隊が敵兵に銃を向けて近付くと、相手は銃を捨て両手を上げる。

その行為が波及して、生存している敵兵が完全に降伏するまでそれほど時間はかからなかった。

残存兵をネーヴェ隊が手際よく拘束していくのを見ながら、ミラはエルテスニアの方に目を向ける。

(クレイは本体に伝えられたかな・・・)

「おやミラ様、わたくしをお探しでしょうか?」

そんな事を思った瞬間、目の前にクレイが現れ笑みを浮かべた。

「別に探してない!」

一瞬驚いたが、ミラは頬を膨らませるとそっぽを向いた。

同時に、無事だった事に安堵した事は隠して。


「間もなく本体も合流するかと思います。」

「そう、良かった。これで作戦は成功でいいのかな?」

奇襲は気付かれていたものの、オルベウイの前哨基地を制圧した事に、ミラは静かに言ってクレイを見上げる。

「・・・」

が、首を傾げ冷めた目を向けるクレイに嫌な気分になった。

「ただ思うがままに力を振るって暴れるだけで終わりとお考えでしたら、王城から追い出される前と何ら変わらないと存じますが。」

「私が傍若無人みたいじゃない。」

「そう申しましたが?」

「な!あ、あなたね・・・」

酷い言われ様だと思って口にしたが、あっさり肯定された事に言葉が続かない。

同時に腹が立った。

だが、クレイの表情に変化が無い事から、感情任せに言葉を出しても意味が無いと思えた。


「どういう、事よ。」

とりあえず感情は押し殺し、クレイの言葉の真意を確認しようとする。

「お言葉ですがミラ様。」

「う・・・」

その言葉に、つい反応して嫌な予感がして声が漏れる。

「何故王城を追い出されたのか、今一度お考え下さい。」

「・・・」

「それはミラ様が考え、気付き、どう行動を起こすのか。ミラ様自身で見出さなければ意味がございません。」

いつの間にかクレイはネーヴェ隊に目を向けていた。

その横顔は、馬鹿にする雰囲気も、笑みも無く憂う様な表情にすら見えた。

だからミラは、自分の事に対して真面目に伝えているのだろうと感じる。

「わかったよ。ちゃんと考える。」

「はい。それが出来なければ帰る資格すら得られないと、肝に命じてください。」

「うん。」

ミラは頷くと、もう一度ネーヴェ隊に目を向ける。

その時、正面の門が開き、本体が前哨基地に到着した。

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