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二章 姫なのに前線に放り出された! 3

「ミラさんとあんたは、あの見張り塔だ。」

「了解です。」


深夜、地下道を通ってエルテスニアとオルベウイを隔てる壁を越え、ネーヴェ隊は壁伝いの闇に潜んでいた。

タンブレ側に居る協力者が出口を隠し、決行日の今日までオルベウイ側に知られず準備を進めていたのが、ニールィが言っていた侵入ルート確保となる。

本体は、見張り塔の範囲外で待機し、奇襲が行われるのを待っており、ネーヴェはその奇襲目前であった。


「派手な方と静かな方、どっちがいい?」

刀の柄に手を掛けたミラが、不敵な笑みを浮かべネーヴェに確認する。

「個人的には派手な方が好みっすが、夜襲なので静かな方でお願いするっす。」

「わかった。」

「俺たちはもう一つの見張り塔を制圧するっす。終わったらタンブレ前哨基地の裏口に集合で。」

ミラとクレイが頷くと、ネーヴェを含む十人程が静かに動き出す。


「こっちは二人なのにな。」

「戦力を考えての事でしょうが、それ以前にわたくしは他の兵と連携はできません。」

「知っている。私も訓練は受けているが実践レベルで可能ではない。」

「とりあえず、塔の上に居る見張りを始末するところからでございますね。」

ミラとクレイは見据えていた塔の上で、エルテスニア側に目を向けている敵兵の排除が必要だとお互い頷く。

「で、クレイ。」

「はい。使用を許可致します。」


ミラは柄の縁を握ると意識を集中する。

「変化・翠。」

抜刀すると、透き通るような刀身が現れる。

ミラは左足を引いて軽く腰を落とした。

左手で柄尻を持ち刃を上にして、顔の高さまで刀身を水平に上げる。

剣先を見張りの方に向けて、右手を下から柄に添え固定した。

葉月ようげつ一刀流、九ノ型 穿破。」

ミラは見張りに意識を集中すると、左手の握りに力を込め、見張りに向けた剣先を一気に突き出す。

直後、見張りの頭部が顎から下だけ残り、その上は消滅していた。

「行くぞクレイ。」

「承知致しました。」


ミラとクレイが見張り塔に向かい駆け出す。

頭部を失った見張りは欠損した部分から鮮血を噴き出すと、身体が傾き始める。

その頃には、二人は塔の入り口に到達していた。

ミラは勢いを殺さず扉を袈裟斬りにして体当たりをする。

二枚に分かれた扉は自重の抵抗しか出来ずに、内側に倒れていった。


(五人か。)

ミラはクレイに視線を向け、そのまま右手にいる兵を見る。

頷くのを見ずに左手に跳び、銃を構える前に刀を首に突き刺した。

驚きから苦痛に顔を変化させている間に、ミラは首を横薙ぎで斬り裂きつつ隣にいた兵の首を撥ねる。

そのままの態勢で右足を右方向に大きく踏み込んで、もう一人の首も斬り裂いた。

クレイが向かった二人は、既に顔が背中の方を向いており尿を垂れ流しいる。


「ミラ様、お顔に血がついております。」

「いい。どうせこれから増える。」

外に出たクレイがポケットチーフを取り出そうとしたが、ミラがそれを手で制した。

「塔を斬っておくか。」

「音が響きます。それに、占領してしまえば別の事に使えるかと存じます。」

「そうだな。じゃぁ基地に向かうか。」

「仰せのままに。」

二人は暗闇の中を、音も立てずに疾走して目的地に向かった。




「まだ来てないな。」

タンブレ前哨基地に着いたミラが周囲を確認して言う。

「わたくし共の方が近場でございましたので。」

「それはいい。だが・・・」

「察しの通りかと存じます。」

前哨基地に目を向け細めるミラに、クレイも同様に笑みを向け同意した。


「お待たせっす。ここからは派手にやっていいっすよ。本体も動かす必要があるんで。」

「わかった。」

少しの間を置いて駆け付けたネーヴェの言葉に、ミラは頷くと門から多少距離を取って立つ。

「クレイ。」

「承知致しました。」

ミラは裏門ではなく、正面の門がある方に視線を向けクレイに示し、クレイが頷く。


刀を鞘ごと少し引き抜き、右足を前に出し腰を落として水平に構える。

刃の方を身体の外側に向け、左手の親指を鍔に掛けた。

「私の後ろに下がれ。横から前に居ると死ぬぞ。」

ミラは言いながら右手で柄を握る。

慌てて他の兵がミラの後ろに移動した。

葉月ようげつ一刀流抜刀術 参撃。」

抜刀も太刀筋も見えず、気付けばミラは胸を開くほど刀を振りぬいていた。


「行くぞ。」

ミラは納刀して飛び上がると、壁に蹴りを入れる。

蹴られた場所からゆっくりと敷地内に壁が傾き始めると、そこを起点に引っ張られるように左右の壁も傾き始めた。

「ミラさん、凄いっす!!」

ネーヴェが歓喜の声を上げ、ミラに目を向けたが、そのミラはクレイと共に見当たらなかった。

「あれ?」

その間に、傾いた壁が前哨基地の敷地内に崩れ落ち、轟音と粉塵を撒き散らした。

「まぁいい、行くぞ!本体が来るまで掻き回せ!」

ネーヴェを含む十人が一斉に駆け出し、斬られた壁を飛び越えて敷地内に突入した。


ネーヴェ隊が全員敷地内に入ったところで、目が眩むほどの光が視界を覆った。

明順応により視界が回復すると、ネーヴェ隊は硬直する。

「良く来たな、事前に言ってくれりゃ茶でも用意したが・・・」

光の正体は敷地内を照らす多数の屋外照明で、その光はネーヴェ隊だけでなく数十の兵が銃を構えてネーヴェ隊に向けている事も浮き彫りにした。

その先頭に立つ大柄な男が、不敵な笑みを浮かべる。

男の左手には顔から血を流した男が、軍服の首根っこを掴まれていた。

「・・・」

ネーヴェはその男を見て唇を噛む。

「ん?知り合いか?どこから迷い込んだ鼠かと思えば、エルテスニアのドブネズミだったか。」

大柄の男は言いながら、掴んでいた男を投げ捨てる。

鈍い音を立てて地面に激突したが、呻き声どころか微動だにしない。

(知っててやったんだろうが!)

ネーヴェは心の中で言いつつ、現状が打破出来ないか思慮を巡らす。


「お前が頭か?」

「あぁ。」

大柄の男の問いに、ネーヴェは睨み返事をする。

「わかった。話しはお前さえいればいい、他は要らん。」

「なんだ、帰してくれんのか?」

「冗談でも笑えんな・・・」

大柄の男がつまらなさそうに言うのを見て、ネーヴェは歯噛みする。

(せめて、本体が合流するまで少しでも減らせりゃいいが・・・)





「やはり待ち伏せだな。」

敷地内を煌々と灯りが照らすのを見て、ミラが目を細める。

回り込んだ正門の前には二体の男が横たわっていて、すでに事切れている。

「えぇ。この分だと本体の方も越えるのは難しいもしれませんね。」

「中の状況じゃ照明弾を撃つのも難しいな。」

「ミラ様が撃てばよろしいかと存じます。」

ミラはクレイの方を見ずに小さな銃を放り投げる。

「あの、わたくしは軍属ではございませんが。」

受け取ったクレイは目を細めミラを見る。

「私が撃った事にすればいい。それに、私が中に飛び込むには良い目眩ましになるだろう?」

「わたくしが撃つ理由にはなっておりませんが・・・」

「今更だろう。撃ったら本体の援護に向かえ。中は私一人で十分だ。」


クレイはその言葉に笑みを浮かべた。

「お言葉ですがミラ様。わたくしが依頼を受けたのはミラ様のお世話と護衛にございます。それを放棄してこの場を離れる事は命に背く事になります。わたくしにとって本隊も中の隊の生死も関係ございません。」

クレイが言うと、ずっと中の様子を窺がっていたミラがクレイを見る。

その目は剣呑な光を纏っていた。

「死ぬか?」

「出来るものならどうぞ。」

目を細め薄ら笑いを浮かべるクレイと、ミラは暫し睨み合ったが先に目を逸らした。

「私にも護るべきものがあるのだろう?そのために此処にいる。私の存在意義を守れずして、私を守ったと言えるのか?」

「なるほど、これは一本取られました。」

ミラはその言葉に口の端を多少吊り上げた。


「まさかミラ様が、毛先程度でも成長しているとは、わたくし深く感銘を受けております。」

「・・・」

クレイの言葉にミラは、無言で鍔を押し上げたがそこで止めた。

「戯言はいい、早く撃って行け。」

「承知致しました。必ずご無事でいてください。」

「当り前だ。」

クレイは銃を上空に向けると、引き金を引いた。

同時に、二人の姿がその場から消える。




「何の音だ?」

大柄な男がネーヴェに向かって歩き出した時、微かな発砲音が聞こえた。

「正面ですね、確認・・・」

近くの兵士が言いながら向かおうとした時、上空に閃光が弾ける。

「照明弾だと!?誰だ撃ったのは?いや、お前らの仲間か!?」

大柄な男は一瞬振り向いたが、すぐにネーヴェを睨み付けて怒声を上げた。


騒ぎが起きる中、ミラは気配を消し無音で隊列を組む一団に近付く。

鞘を垂直に立て、胸元あたりの高さで右手を柄に添えた。

葉月ようげつ一刀流抜刀術 壱刀。」

鞘から地面まで弧を描いた銀光は、隊列を組んだ兵を駆け抜けた。

葉月ようげつ一刀流、七ノ型 散華。」

左手を柄に掛け左下に刀身を構え、斜めに斬り上げる。

その時にやっと、兵たちから驚愕の悲鳴と怒号が上がり始めた。

放たれた剣先は掻き消す様に兵達の頭部を駆け抜け、建屋の上に設えらえた証明の一つを割る。


「いったい何が起きてんだ!!」

大柄の男は血飛沫を散らしながら倒れていく兵士を見て怒声を上げた。

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