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二章 姫なのに前線に放り出された! 2

「構わねぇぞ。向こうも人手が足りないから助かるってよ。」

「そうでございますか。ご確認いただき大変助かります。」

「いや、むしろこっちこそ助かるわ。しかし、そこまでする必要はあんのか?」

「おや、軍属のあなたがそれを言いますか?」

「・・・確かにな。」

「わたくしも軍属では無いにせよ、行きつくところは同じでございます。お察しください。」

「そうだな。ま、よろしく頼むよ。」

「はい、では失礼致します。」

「あぁ。」

クレイは通話が終わると、動力通信を切断した。





「一棟崩壊してるんだけど・・・」

動力車を降りたミラは、その光景を見て引いた。

季節休に入り、クレイが運転する動力車でローリンツ入りをしたミラは、軍の前線基地に到着する。

軍用車が何台も止まり、敷地内を多くの兵が動き回っていた。

その敷地内に三棟の建物と倉庫があったが、一棟は攻撃を受けたのか半壊している。

屋根が殆ど残って無く、二階から一階にかけては半分ほど瓦礫となっていた。

「流石前線でございますね。」

「いや、何が流石なのよ・・・」


「お疲れ様っす!」

半壊した建物を見ていると、ネーヴェが駆け寄って来て大きな声を出す。

「お疲れ様です。」

変わらないネーヴェの態度に、半眼を向けながらも挨拶を返す。

「先ずは本棟を案内します。その後すぐに会議がありますので、参加してください。」

「はい、了解しました。」


「こちらが食堂です。」

半壊した建物の隣にある、本棟と言われる一番大きい建物に入ると、食堂に案内される。

「あんたがクレイかい?」

中に入ると恰幅の良い中年女性が大きな声で近付いて来た。

「お察しの通りでございます。ナフィ様でございますね?」

「そんな畏まらなくていいよぉ。ケリウス兵舎からの増員があってねぇ、あたしだけじゃ食事の支度が追い付かなくってさ、助かるよ。」

「こちらこそ、お世話になります。」

「早速だが仕込みを手伝っておくれよ。」

言いながらナフィは調理場に移動しようとする。

「ちょっと待ってくれおばちゃん。この後会議なんだ、それに参加してからでもいいだろ?」

「おや、食事の手伝いに来たのに会議なんか出るのかい?」

ネーヴェの言葉にナフィが首を傾げる。

「あぁ。状況を把握してもらう必要があんだ。」

「仕方ないねぇ。終わったらすぐに来るんだよ。」

「承知致しました。」

クレイが一礼すると、すぐに急かされ移動する。


「ここがミラさんの部屋っす。で、となりがあんたな。」

三階に移動してネーヴェが待機部屋をそれぞれ指さす。

態度の違いにミラは不満を浮かべたが、当人が気付いていないのと、笑みを浮かべたままのクレイを見ると気にするだけ不毛かと思ってその思いを霧散させた。


「で、此処でこれから会議っす。」

二階に移動して観音開きの扉の片方を開けて、ネーヴェは中を指差した。

中には既に、何十人もの兵士が部屋の端にある壇上を向いている。

「申し訳ないっすが、一番後ろで聞いてください。」

「了解しました。」

ネーヴェは壇上に向かい、ここの指揮をしているニールィと今後についての話しを始めた。

それは、国境を越えたオルベウイへの侵攻作戦だった。

隣接するオルベウイのタンブレを占領する作戦について、ニールィが説明していく。

ミラはその内容をあまり把握できずに聞き、やがて会議が終了した。


会議が終わると直ぐ、ネーヴェに連れられ隣の小さな会議室に移動した。

「ここからが本題になります。」

「本題?」

「自分の隊が何をするか、の話しです。」

ミラの疑問に、ネーヴェは真面目な表情で頷いた。

「わたくしは必要でしょうか?」

厨房の手伝いで入り込んだものの、ここまで付き合わされる理由は何かとクレイは疑問を口にする。

「隊長からあんたも巻き込めって言われてんだ。悪いが付き合ってもらう。」

「畏まりました。」


「待たせた、私が此処の指揮をしているニールィだ。」

ネーヴェとクレイの話しが終わったところで、会議室にニールィが現れミラとクレイに近付く。

「話しは聞いているぞ、一瞬でネーヴェを負かしたそうだな。期待しているよ、ミラくん。」

ニールィは笑顔で言うと、クレイの肩にぽんと掌を乗せた。

クレイは満面の笑みでニールィを見返す。

「その様な小娘風情に間違われるとは不愉快にございます。」

「クレイ!」

ミラが蹴りを放つも、姿勢を変える事無くクレイは攻撃範囲から離脱していた。

「は?」

「ミラは私です!」

硬直するニールィの前に、ミラは出ると不満顔で見上げる。

ニールィがミラを指差しながらネーヴェを見ると、ネーヴェは深く頷いた。

「これは失礼。」


「ネーヴェの隊には別動隊として動いてもらうため、引き続き説明する。」

ニールィはミラに頭を下げると、早速本題に入った。

「夜襲を実行するところまでは先程の会議通りだ。」

あまり内容を把握していないミラは、首を傾げそうになったが慌てて止める。

「その夜襲の確度を高めるため、ネーヴェ隊には先んじてタンブレに潜入してもらい、奇襲を仕掛けてもらう。」

「奇襲?」

ミラの疑問にニールィが頷く。

「ネーヴェの件もそうだが、哨戒基地を取り戻した時の話しも聞いている。そこで、少数精鋭での奇襲も可能だろうと今回召集したわけだ。」

「越境は可能でしょうか?」

「問題無い。侵入ルートは既に確保している。」

「承知致しました。」


「決行は明後日の夜だ。それまでに侵入ルート、奇襲を仕掛ける基地と地理の把握。隊員同士の連携や、所持物の点検をすませろ。」

「その辺は明日説明する。今日はゆっくりしてください。」

ニールィに続き、ネーヴェがミラに言う。

「了解しました。」

「では、わたくしは厨房へ向かいます。ミラ様は部屋でお寛ぎくださいませ。」

「うん。」

ミラは言われると、会議室の扉へ向かう。

「ネーヴェ、もう少し詰めるぞ。」

「あぁ。」

言って机に向かい合う指揮官二人を残し、ミラとクレイはそれぞれの行先に向かった。





「今更だけど、あんた料理は出来るのかい?」

「料理くらい出来ずして、執事は務まりません。」

上着を食堂の椅子に掛け、シャツの腕をまくりながらクレイは答えて笑顔を向ける。

「ほう、言うじゃないかい。」

「何からいたしましょう。」

クレイは手を洗いながら確認すると、不敵な笑みを浮かべるナフィが視界に入った。

「スープに使う根菜の皮むきと切るところからだ。」

「畏まりました。」

「今日の分はその笊の中だよ。」

ナフィが指差す先には、人参、玉葱、じゃがいもが大量に入っている。

クレイは皮むき器を手にすると、じゃがいもを掴んで剝き始めた。


「良い手際じゃないか。」

あっという間に角切りにされた人参とじゃがいも、玉葱が並んだ。

「次は鶏肉と、メインに使う豚肉を切ってもらおうかね。」

「畏まりました。」

「鶏肉はスープに使うから一口くらいの大きさ。豚はステーキにするから厚切りにして塩胡椒で下味を付ける。」

ナフィが初めに見本を作りながら説明し、残りをクレイに預けた。

手を洗ったナフィは冷蔵庫から大きなボールを取り出す。

「生地を寝かせていたのでございますね。」

「そうさ。あいつらよく食うから足りないんだけどねぇ、此処で作れる量にも限度があるってもんだ。」

その言葉でクレイは厨房を見渡す。

「なるほど。冷蔵庫の大きさと、焼ける数でございますね。」

「良い観察眼だ。」



「いつもより一時間も早く終わったよ。本当に来てくれて助かったよ。この分なら、朝の仕込みも少し遅めでいいかもしれないねぇ。」

仕込みが終わると、食堂に移動して椅子に座ったナフィが笑顔で言う。

「お役に立てたなら幸いでございます。」

「時間が出来たんだ、お茶でも淹れようかねぇ。あいつらには出さない良い茶葉があるんだよ。」

「それは楽しみでございます。わたくしも、食材を少しいただいてもよろしいでしょうか?」

「少しならね。」


クレイは厨房に戻ると、冷蔵庫からバターと卵を取り出し、棚から小麦粉と砂糖を用意する。

「クッキーかい?」

「はい。作成、焼き時間もそれほどかからず、お茶うけにいいかと思いまして。」

「良いねぇ。一人なら面倒でやらないが、用意してくれるなら嬉しいよ。」


「あ、良い匂い。」

「お茶の時間でございます。」

クッキーが焼きあがると、クレイはミラの部屋に行き食堂へ連れて来た。

「こんな前線でお茶が出来るとは思ってなかった、嬉しい。」

ミラは言うと、用意されているテーブルに向かった。


「嬢ちゃんはその歳で兵隊なんて大変だろ?」

ナフィがクッキーを頬張るミラを見て聞く。

「はい。ちょっとわけがあって・・・」

「はは、わけの一つや二つ、誰にでもあるもんさ。」

ナフィは笑顔で言い、事情は気にしてないと含めた。

その時、クレイは入り口に気配を感じて視線を向けたが、ネーヴェと気付くと忘れる事にする。


「ずるいっす。」

が、見ているだけでは終わってくれない事に小さく溜息を洩らした。

「え、居たの?」

「甘い匂いがしたから来てみたっす。」

「座ったら?」

ミラは言って、空いている椅子に目を向けた。

「嬉しいっす!」

ネーヴェはすぐに移動すると椅子に座る。

そこへ、ミラがクッキーを差し出した。

「俺、ずっとミラさんについていくっす!」

「あのね、あなたは上官でしょ・・・」

笑顔で言うネーヴェに、ミラは呆れた目を向けた。

「餌付けは成功でございますね。」

「クレイ!」

満面の笑みを浮かべたクレイを睨むと、ミラは脛を狙って蹴りを出す。

が、座っていた筈のクレイは椅子の後ろに満面の笑みを浮かべ佇んでいた。

「く・・・」


「あはは、あんたら面白いね。」

空を蹴ったミラが悔しそうにすると、ナフィは言って快活に笑った。




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