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一章 姫なのに城を追い出された! 3

「え、これだけ?」

ロールパンにバター、スープにゆで卵。

テーブルに並んだ朝食に、ミラは愕然とする。

「左様でございます。界隈の一般家庭での朝食は概ね、この様な内容となっております。」

「これじゃ、すぐにお腹が空くよ。」

椅子に座り、ロールパンにバターを塗って齧るとミラは零した。

「ご学友と生活の足並みを揃えるためとご理解ください。」

「まぁ、わかった。」

頭を下げるクレイに、ミラは渋々頷いた。


「本日より学校でございます。わたくしは中まで付き添う事は出来ませんので、ミラ様お一人での生活となります。」

「わかってるよ。」

「昼食を取り、午後の部が終わる頃にお迎えにあがります。」

「その後兵舎に向かうんだよね。」

「仰る通りでございます。」

クレイが返事をすると、ミラは浮かない表情で朝食を口にした。

その間に、クレイがその場から離れ、少しの間を置いて荷物を持ち戻って来る。


「こちらが本日より使用する教材となります。」

クレイは数冊の本をテーブルの上に置いた。

ミラはそれを一瞥しただけで食事を続ける。

「背中に背負う鞄に入れますので、お持ちください。」

クレイは言うと、鞄の中に教材を詰める。

「それと、本日のお弁当でございます。学校では各自で持ち込み、若しくは学校にある売店で買う必要がございます。」

「売店が良い。」

それにはミラが即答した。


「お言葉ですがミラ様。」

「な、なによ・・・」

満面の笑みを浮かべたクレイに、またもミラは不穏を感じた。

「陛下より、お金は極力持たせないように仰せつかっております。」

「・・・」

「怠惰を貪る奴に税金を持つ資格は無ぇ、との事です。」

「クレイ!」

クレイの言葉にミラは椅子から立ち上がって声を上げた。

その表情は怒りで赤面しそうな程で、クレイを睨み付ける。

「わたくしの言葉ではございません、陛下の仰った通りお伝えしているだけです。」

「それを満面の笑みで言うクレイに腹が立っているのよ!」

「おや、そんな表情をしていたとは失敬。」

言いつつもクレイの表情に変化は無かった。

ミラは拳を握り震わせたが、何も言わずに残りの朝食を口に放り込んだ。





「今日からみんなと一緒にお勉強するお友達を紹介します。」


学校に着いたミラは、クレイに言われた通り教員室を訪れた。

そこで、担当教員であるとカミエが挨拶し、そのまま教室へと案内される。

教室の中には二十ほどの机が並び、ミラと同じくらいから少し下の年齢と見える男女が座っていた。

殆どが興味を示し、視線をミラに集中している。


「じゃ、ご挨拶して。」

「ミラと言います、よろしくお願いします。」

「はい、ミラちゃんこれからよろしくね。みんなも。」

『よろしくお願いします。』

カミエがミラに言い、その後教室のいる生徒を見渡しながら促した。

大きな声がミラを包み込むと、その熱量に驚く。

(同年代の子供が集まると、こんなにうるさいのね・・・)

そんな事を思いながら、ミラは笑顔でお辞儀をした。



カミエが空いている席に座るよう促すと、ミラは机に移動して座った。

「それじゃ、最初は歴史の時間ね。エルテスニア王国建国までの流れですね。」

カミエがミラに、教材の表紙を見せ指差す。

ミラは鞄から該当の教材を取り出した。

「この地が開拓されたのは約九百五十年前。現在の王国歴は七百二十八年なので、人が住み始めて王国として建国されるまで二百二十年くらいあります。この二百二十年の間、建国まで何があったのかを見ていきますね。」

カミエが教材の見るべき場所を指示して見渡す。

生徒が準備出来た事を確認すると、続きを話し始めた。


「もともとこのラヴェンツェ大陸は未開の地でした。そこに、隣のリデアート大陸から来た人が開拓を始めます。いくつかの先住民は居たものの、手付かずの地を一から開拓を始めたんですよ。」


「当時は機械技術も今の様に発展していません。木を伐採し、土地を均し、家を建て人の住める状態にして、それを拡充していきます。これを殆ど人力で行っていたんですねぇ。」


「川から水を引き水源を確保、農地を作りある程度衣食住が可能になり環境が整ってくると、リデアート大陸から追加の開拓者が投入され、人が住める場所を広げていきます。」


「広大な農地と、養豚や養鶏といった動物の飼育も出来、普通に生活が出来る様になるまで数十年かかっています。生活が可能になると、リデアート大陸から来るのは開拓民ではなく移住民になります。新しい土地で新しい生活を、そう思った人たちが次第に増えていったんですねぇ。」


「住む人が増えると当然諍いも増えます。開拓民と後から来た移住民、開拓民同士ですら喧嘩をしちゃうんですよ。そうなると、まとめる人が必要になってきますよね。みんなの代表と、住みやすくするための決まり、つまり王様と法律等、建国のための礎が出来始めます。」


それから建国までの流れを聞くと休憩になった。

休憩になった途端、ミラの周りに席についていた生徒の半分くらいが押し寄せる。

(何事?私なにかした?)

ミラが戸惑いの視線を集まった子供たちに向ける。

「ねぇ、何処に住んでいるの?」

「その剣本物かよ?」

「前はどこの学校にいたの?」

「お昼一緒に食べよ、話ししよ。」

あらゆる方向から質問攻めにあい、ミラは言葉に詰まった。

順番も用件も言葉遣いも王城に居た時にはあり得なかった状況に。


休憩後は別の事を勉強し、机を寄せ合わせた状態で質問攻めの昼食、午後の勉強が終わり学校での初日を終えた。

帰る方向が一緒だった子供が一緒に帰ろうと言ってきたが、今日は予定があるとミラは丁重に断った。




「学校初日、お疲れ様でございました。」

クレイが運転する動力車に乗り、ミラは背凭れに身を預けた。

「本当に疲れた。子供があんなに騒がしいとは思わなかったよ。」

「ミラ様も同様にございます。」

クレイの言葉にミラは顔を顰める。

「小娘風情とでも言いたいの?」

また笑みを浮かべているのかと、ミラはクレイの顔を見ようとしたが見えなかった。

「いえ。城内でのミラ様の扱いは王族となります。同年代に限らず、殆どの人間が対等に接する事は出来ません。ですが、今の環境ではミラ様は一人の人間として扱われます。」

「・・・」

「この状況をどう受け取るか、何を学び取るかはミラ様次第にございます。」

静かに言ったクレイの言葉は、いつもの小馬鹿にしたような笑みではないとミラは感じた。

「そうだね。だから私は此処にいるんだよね。」

現国王である父親が、何を得て欲しいかまではわからなかったが、そこから自分で考えろという事なのだろう。

ミラはそう思い、クレイの言葉に素直に同意した。


「ところで学校はいかがでした?」

「初日だからわからないよ。」

何もわからず、ただ身を任せるに時間を過ごしたミラは、それ以上の言葉は出なかった。

「そうでございますか。初日が肝心と言いますし。」

「肝心と言っても、初日で何か得られる方が難しくない?」

得られる事もあるかもしれないが、ただただ熱量に気圧された初日は、何かを得たとミラには思えなった。

騒がしい、という認識は得たが別の話しのため疑問を口にする。

「何かを得るという点においては仰る通りでございます。初日で嫌な思い等した場合、行くこと自体が苦痛に変わる事もございます。わたくしが気にしたのはミラ様が負荷と感じていないかでございます。」

「行かなくていいのなら行かない。でも必要だから行く。行く分には、今のところ問題ないよ。」

「それはようございました。まもなく兵舎へ到着致します。」

話している間に、目的地に近付いた事をクレイが告げる。

動力車が角を曲がったところで、ミラにも兵舎の敷地が目に入った。


「先ずはエルディ様のもとへ向かいましょう。」

クレイの先導に、ミラが続いて敷地内を歩く。

兵舎の中に入った直後、昨日戦闘を行ったネーヴェが現れ、ミラを見つけると足早に近付いた。

その行動にクレイとミラが身構える。

「お疲れ様っす!」

近付いて来たネーヴェは両足を揃え、右手の肘を水平に拳を胸元に添えて挨拶をした。

「・・・」

ネーヴェの行動は上官に対する敬礼の所作であり、それを行った事にクレイは疑問を感じたがすぐに笑みを浮かべる。

「お、お疲れ様です。」

「本日より勤務と伺ってるっす。昨日闘ったよしみで、これからよろしくお願いするっす!」

「こ、こちらこそ・・・」

昨日の仕返しにでも来たと思ったが、態度の豹変に戸惑いながらミラは挨拶を返す。

「では、失礼するっす!」

ネーヴェは姿勢を崩すと、兵舎の外へ向かって行った。


「一体なに?」

「ミラ様の下僕になったようでございますね。」

「意味がわからないよ。」

と言ってミラがクレイの顔を見ると、満面の笑みを浮かべていた。

その笑みに不穏を感じたのは言うまでもない。

「ネーヴェ様の所作は敬礼にございます。先輩であり指揮官という立場の人間が、上官でもないのに敬礼とは流石ミラ様、手懐けるのが早うございますね。」

「なっ!?」

クレイの言葉にミラは口を開けて硬直したが、すぐに嫌そうな顔をした。

「あんなの要らない。」

「都合の良い人材を得たと思えば良いのではないでしょうか。」

「もう居るからいいよ。」

その言葉に首を傾げたクレイだったが、ミラが見るとすぐに笑みに戻った。

「お言葉ですがミラ様。わたくしは命を受けお仕えしている立場であって、飼われるのはお断りでございます。」

「そんな意味で言ったんじゃない!」


「お前ら何時まで話してんだ、此処は学校じゃねぇぞ。」

その時、階段の上から怒声が降って来た。

見るとエルディが顔を覗かせ睨んでいる。

「これは失礼致しました、すぐに向かいます。」

クレイが言っている間に、ミラは慌てて階段を駆け上った。


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