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四章 姫なのに敵国に売られた! 1

「ミラ様。」

いつも通りケリウス兵舎から戻り、食事を終えてミラは寛いでいた。

そこへ、いつも笑みを浮かべているクレイが、憂いのある表情でミラに話しかける。

その顔を見て、嫌な予感しかしなかった。

「ど、どうしたのよ・・・」

「いえ、どう話しを切り出そうか悩んでおりまして。」

悪ふざけなのか、真面目な話しなのか、その態度から判断は出来ない。

いっその事、満面の笑みで話しかけられた方がまだましだとすら思えた。

「私、何かした?」

「いえ、そうではございません。」

「もう、はっきりしないわね。クレイらしくないわよ。」

クレイは憂いの表情のまま首を傾げる。

「わたくしらしいとはどの様な態度でしょうか?ミラ様はわたくしの何を知っておられるのでしょうか?」

「・・・」

(なんかムカつく。)


「そうね、言われてみればよく知らないわ。家事全般をしてくれるし、何だかんだで戦闘も補佐してくれる。無駄に敵対心出したり、笑みを浮かべて小馬鹿にする様な事を言ったり、そんな事くらいかな。」

「家事全般や補佐、護衛に関しては務めですので、当然でございます。その他に関しては心当たりはございませんが。」

(このやろう。その顔でしらばっくれるな!)

相変わらず憂いの表情をしたままのクレイに、ミラは苛立ちが増してきた。

「もういいから、早く言ってよ。」

「畏まりました。」


「先生やご学友と別れを惜しんでください。また、食事も最後の晩餐となります。食べたいものを考えておいてください。」

「はぁっ!?突然何を言い出してんの?」

クレイは悲しそうな表情をして、哀しみの瞳をミラに向ける。

「残り、一週間でございます。」

「ちょっと、どういう事か説明しないさよ!」

「申し訳ございません。わたくしの口からは・・・」

「クレイが言わなかったら誰が言うのよ!」

ミラは苛立ちから机を両手で叩きながら立ち上がった。

「あ、後程アレウス将軍が直接伝えると言っておられました。連絡をお待ちください。」

「な・・・」


「それならそうと、先に言ってよ。で、その態度ならクレイはもう知っているって事よね?」

クレイはミラを見ると、すぐに目を逸らした。

「わたくし残念でなりません。此処も引き払わなければならないとは。」

言ってクレイは目頭を押さえた。

「え、どういう事。気になるじゃない!」

クレイはそのまま台所の方に向かって行った。

「ちょっとクレイ!説明してよ!」


だがクレイはいつもの表情ですぐに戻って来る。

「ミラ様、アレウス将軍より動力通信が入っております。」

「わ、わかった。」

クレイの態度では何が何だかわからなかったが、いい予感がしないのは間違いないだろうと思い通信機へと移動する。





「まるで今生の別れの様に言っていたけど、ただの偵察じゃない。」

通信が終わりダイニングに戻ると、細めた目をクレイに向けて言う。

「向こうで命を落とす可能性もございますので。」

「それをさせないのがクレイでしょ。」

「はい。ただ、わたくしが死ぬ可能性もございますので。」

(無さそう・・・)

笑みを浮かべるクレイを見てミラは呆れる。


「休学届については、わたくしの方で学校へ出向き対応致します。ケリウス兵舎へはアレウス将軍から連絡を入れると仰っておりましたので、行った際にご確認ください。」

「わかったわ。」

ミラは椅子に座るとクレイに顔を向ける。

「お茶。」

「畏まりました。」

「話しが長くなりそうだもん。」

「と、言いますと?」

「アレウスが詳細はクレイに聞けって言ってたのよ。」

ミラの言葉に、クレイは城の方へと呆れた視線を向けて溜息を吐く。

「面倒だからわたくしに押し付けましたね。」




「さて、どこまでお聞きになられたのでしょうか?」

お茶の用意が出来るとクレイが確認する。

「目的だけ。他は全部クレイに聞けって。」

「・・・」

(割に合いませんね、それは後日交渉するとしましょう。)


「場所も、でしょうか?」

「うん。」

クレイはいったんその場を離れると、地図を持ってきて広げる。

「え、そこから?」

「はい、ここからでございます。」


「現在、ミラ様が生活している場所は、ルイゼット地方リーリヘントになります。」

「うん。知ってる。」

クレイが指差す場所を見て頷く。

「ここから南下すると、この前オルベウイと戦闘したレダクエット地方ですね。」

「そうね。」

クレイはそこから指を北へと移動させていく。

「次に攻め入る場所としては、北方のラミュー地方からを予定しています。」

「そうなんだ。」

「はい。そこでわたくし達はその先に在るチナナに向かい、滞在する必要がございます。」

クレイは指を西へ移動させ、オルベウイ国内の街の上で止めた。


「あ、その辺なんだ。また国境を越えて入るの?」

ミラが単純に思った事を口にすると、クレイが目を細める。

「お言葉ですがミラ様。」

「う・・・」

久々に聞いたが、やはりその言葉に反応して嫌な予感がした。

「少しは考える事をなさってください。エルテスニアとオルベウイは戦争中ですよ。」

「だからこっそり入り込むのかと。」

「それでは侵入です。わたくし達が行う必要があるのは潜入と潜伏であり、侵入では目を付けられ行動もままならなくなります。」

目を細めたままのクレイから顔を逸らすと、考える素振りをする。


「国交も長年断絶しており、陸路も航路もエルテスニアとオルベウイ間では在りません。」

「つまり、別の国を経由して入る必要があるって事ね。」

「仰る通りです。」

ミラは地図の南へ視線を這わせて、指を指す。

「アテンセから?」

「ミラ様。」

疑問を口にしたミラを見据え、クレイは小さく言った。

「え・・・」

「王族とは思えぬ発言でございます。」

呆れを含んで言うクレイにミラは一瞬むっとしたが、改めて考えなおす。


「そっか。共和国は同盟国で、中でもアテンセはエルテスニアに協力的。アテンセも陸路は断絶されている?」

「その通りでございます。」

ミラはアテンセの先に目を向ける。

安易な気はしたが、他に思い浮かばずに口を開く。

「コッテブレ国まで行ってから入る。」

「はい、それも一つの方法ではございますが、幾つも越境の必要がありますし、コッテブレの情勢が不明です。」

クレイは言うと、エルテスニアの北側を指差す。

その先は海だった。

「え、航路?でもさっき・・・」

「はい。一旦リデアート大陸、ノフェンを経由してオルベウイへ入る方法を取ります。」

「海を渡るの!?」

ミラは驚きに目を見開いて声を大にした。


「私、海に出るのは初めて。」

「わたくしも航海は初めてでございますね。」

クレイはリデアート大陸のノフェンまで指を動かした。

「ノフェンは大陸の玄関口で経由だけなら越境の必要がありません。大陸内部に入る時に検問がございます。」

「という事は、オルベウイの一回のみで済むという事ね。」

「はい。時間は掛かりますが、確実かと思います。オルベウイはリデアート大陸との貿易も盛んであり、船の本数も多いため入り易いかと存じます。」

ノフェンから更に、指をオルベウイまで移動させた。


「チナナとは距離があるわね。」

「はい。オルベウイの海城都市ツォリアはエルテスニア側からの流通が無いため貿易の要所です。敵国の近くを要所とするわけにもいかないのが離れている理由かと存じます。」

「言われてみれば確かに。」

クレイはノフェンに戻すと、少し北に移動させた。

「計画として先ずは、ノフェンの市街に向かいます。」

「経由だけじゃないの?」

「エルテスニアからの来訪者と思われないため、ある程度リデアート大陸に馴染んでから向かいたいと思っております。」

ミラは腕を組んで、片方の手を顎に持っていき考える。


「学習旅行の延長ね。現地の歴史、食べ物、衣類、習慣や地域等をある程度把握した方がいいのかも。」

地図を見て考えながらミラが口にすると、クレイが後退りした。

驚愕、と言わんばかりの表情をしたクレイを見ると、ミラは睨んだ。

「失礼過ぎじゃない・・・」

「失礼致しました。まさかミラ様からその様な発言が出るとは思ってもおりませんでした。」

「私もクレイがそこまで失礼だとは思って・・・ない事も無いわね。」

「わたくし、感動でございます。」

クレイは言うと、目頭に指を当てた。

(都合の悪い事は聞こえないのね。)


「老婆心ながら申しますと、オルベウイに入ってからが本番でございます。わたくし、ミラ様の更なる成長に期待が膨らみます。」

「嘘つけ・・・」

満面の笑みで言うクレイに呆れの目を向けた。

「それともう一つ。」

「何よ。」

「移動手段が無いだけでなく、当然ながら通信も出来ません。エルテスニアとの連絡は出来ませんのでお覚悟を。」

「終わるまで孤立無援って事ね。」

「その通りでございます。」

ミラは空になった容器を傾ける。

「気付かず申し訳ございません。いまおかわりをお持ちします。」


クレイが台所に向かうと、ミラは改めて地図に目を向けた。

直線上では遠くないのに、話した内容からはかなり遠い場所になってしまったと思う。

それが、この国現状だとも。


「本日はこの辺にいたしましょう。」

クレイが新しい紅茶を置いて言う。

「そう?」

「出発まで多少時間がございます。反復も兼ねて詰めていった方がよろしいかと存じます。」

「そうね。」

手続きはクレイがしてくれるものの、学校ではどう言おうかと思うと、その事の方が面倒だとミラは思った。

そんな筋書きまで用意されていない事を思うと、もう少し気を回してくれればいいのにと悪態をつきたい気分になりながら紅茶に口を付ける。

ただ、そういう甘い考えが追い出された一因かとも思った。

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