三章 姫なのに集団行動させられた! 5
リィズは左手の壊れた銃を捨てると短剣を抜き逆手に持つ。
「何故わたくし共が来ると?」
「そりゃ部下の不始末を問い質したからな。」
言いながらリィズはクレイに発砲。
クレイは机を縦にして隠れようとしたが、慌てて机を離す。
机を貫通した銃弾が壁にめり込んだ。
「はっはぁ。うちの家具が銃弾なんか防げるわけねぇだろ。」
「!?」
袈裟斬りを放つとリィズは短剣で受け止めず、軌道を逸らした。
短剣を切断するつもりだったミラは驚きを隠せずにリィズを見る。
「銃を斬ったんだから剣も斬れると思うのが普通だろ?そんな危ねぇ攻撃を正面から防ぐ馬鹿はいねぇって。」
言いながらリィズはミラに向かって銃を撃ち、部屋の外へ飛び退いた。
クレイが銃の持ち手を狙って投擲したフォークは、壁に当たり甲高い音を立てて床に落ちる。
「追うぞ。」
「はい。なかなかの手練れでございます。」
部屋を飛び出すと廊下を駆け出したリィズを追って、ミラとクレイも部屋を飛び出す。
「少なくともタンブレに居た連中よりはな。」
「普通の軍人はミラ様の斬撃を受け流すような真似は出来ないかと思います。特殊部隊並みではないでしょうか。」
「クレイこそ怖気づいたか。」
「ご冗談を。わたくしにはミラ様の斬撃は届きませんので、受け流す必要もございません。」
「試すか?」
「お望みとあらば。」
二人がエントランスに辿り着くと、受付カウンターにリィズが飛び込んだところだった。
クレイとミラは横に跳んで物陰に身を隠す。
木製のカウンターが内側から弾け、先程までクレイとミラが居た場所から廊下までを銃弾が床や壁を削る。
「お前らには一応感謝してんだぜぇ。」
その言葉の直後、クレイは身を屈めていたソファから跳ぶ。
跳ぶとほぼ同時に植木鉢やソファが弾け飛んだ。
「初対面でございますが。」
「うちの部下だが、お前らにやられたのは仕方ねぇ。あたしと張り合えるくらいだからな。ただ、荷物を掠め盗る事すら出来ねぇとは思ってなかったからさ。」
「それは良かったな。もう使う必要もないだろ。」
ミラは言うとその場から移動する。
思った通りその場所に銃弾が飛んで来た。
「その通り、塵はちゃんと捨てないとね。今頃海まで流れてんじゃね。」
「・・・」
ミラはこの仕事から抜けられるという思いで言ったのだが、返って来た答えに顔を顰めた。
「まぁ塵は魚も食わねぇわな。あ!って事は、あたし自然を汚しちゃった、てへっ。」
と言った直後に受付カウンターから放物線を描いて何かがクレイに飛来する。
「ミラ様!奥です!」
投げると同時に、会議室があった方とは別の廊下に走っていくリィズを目にしたクレイは、言いながら投げられた物の軌道を逸らそうとスプーンを投擲した。
スプーンが触れた直後に閃光。
同時に爆音と爆風がエントランスを蹂躙した。
粉塵と煙が舞う中、ミラとクレイはリィズを追って走り出す。
「私が飛び出していたらどうする。」
「ミラ様があの程度でどうにかなるとは思っておりませんので。」
「おぃ・・・お前は私を護るのが務めだろう。」
「仰る通りでございますが、それは危機に直面した場合等、命に危険が迫った場合にございます。」
満面の笑みで隣を走るクレイにミラは剣呑な目を向けて、左手の親指で鍔を押し上げる。
「なら不要だな・・・クレイ!」
クレイに抜刀しようとしたミラだったが、リィズの行動に気付き名前を叫ぶ。
「存分に振るってください。」
リィズが角を曲がると同時に、そこに何かを落として消え去った。
「変化・碧」
ミラは加速して落ちた物体に抜刀する。
円筒形の物体は二つに分断され真っ白になり、白煙が周囲を漂った。
「そんなんあり!?でもこの建物頑丈じゃないから助かったわ。」
リィズが笑いながら通路奥の扉に消える。
「クレイ、私は外から二階に入る。」
追いかけていても埒が明かないと思ったミラは、外から先に回り込んだ方が早いと思い方向転換する。
「承知致しました。わたくしは引き続き追います。」
「あぁ。」
ミラが外に飛び出すと、建物の周囲には野次馬が集まっていた。
中で銃声や爆発が起きていれば当然だが、人数はそれほど多くはない。
危険を感じたから少ないのか、この会社の騒ぎが日常茶飯事だからなのか、ミラには判断はつかなかったが。
ミラは視線を無視して跳躍し、二階の窓を蹴破って飛び込む。
事務用だろうか、机や椅子が並んでいるが、人は居なく静まりかえっていた。
ミラは抜刀すると舞う様に回転する。
白く透けた刀身からは白煙が尾を引いて漂った。
「皚界。」
動作を止め納刀しながら静かに発する。
最後の鍔鳴りと同時に、白煙が放射状に吹き荒ぶと室内は白の世界となった。
ミラが階段の方に向かうと、丁度リィズが扉を開けて部屋に飛び込んでくる。
「さむっ!なんだこれ!?」
「心配するな、まだまだ下がるぞ。」
ミラは不敵な笑みを浮かべてリィズに近付く。
「退散!っておい!開けろこらっ!」
入って来た階段に戻ろうとしたリィズだったが、反対側からクレイが押さえているのか扉は開かなかった。
「小賢しい真似はもう出来ないだろう?」
ミラはゆっくりと刀を抜く。
近付いて来るミラに、リィズは銃を向け何度も発砲したが、まるで銃弾が避けているように当たらない。
「おいおい、本当にバケモンかよ・・・」
「いや、それより待て。そもそもなんでお前らがあたしを狙うんだよ。」
「理由も知らずに攻撃してきたのか?」
「うん。あたし、やられたらとりあえず先にやり返しちゃうから。」
「先に手を出したのはお前らだ。私の旅行の邪魔をな。」
リィズはそれを聞くと壁を蹴りつける。
「くそ!あいつら死んでまで余計なもん残しやがって。あっ!」
リィズはすぐに銃を捨てて両手を上げる。
「あたしは別に、あんたらの事は何とも思ってない。旅行を邪魔するつもりもない。つまり戦う理由がないじゃん。」
と言って笑って見せた。
ミラは構わず近付きながら、刃を上に向け剣先を下げる。
「いやいやいや、ねぇ、聞いてる?」
足を止め軽く腰を落とすと、柄尻に左手を添えた。
「葉月一刀流、八ノ型 烈涛。」
「ふざけんな!!」
ミラの態度に苛ついたリィズが軽く跳躍して着地すると、円筒状の物体が数個服から落下した。
「じゃ、お前らも死ねよ。」
言ったリィズは懐からも円筒状の物体を取り出す。
同時に、いつ移動したのか見えなかったミラが目の前に居て、腕を頭上まで伸ばしていた。
リィズの手に持った筒が半ばで切断され床に落ちる。
斬られたのは筒だけかと思ったが、身体に異変を感じて目線を身体に向けた。
股間から身体の中心に白い線が見える。
「お前の場合、戦う理由が無くても攻撃してくるだろう。しかもしつこそうだ。」
ミラは言って納刀する。
「・・・」
リィズは言いたい事はいくらでもあったが、何故か口が思う様に動かない。
「終わった様でございますね。」
階段室の扉が少しだけ開き、クレイが顔の半分だけ隙間から覗かせていた。
「・・・何してんのよ。」
「わたくし、寒いのは苦手でございます。」
「嘘つけ・・・」
「しかし、穏便にと思いましたが、相手がここまで過激だとは予想外でございました。」
「私は静かにやったわよ。」
ミラは言うと、クレイの方に向かう。
「存じております。では、戻りましょう。表は野次が多いため、裏口から出るのがよろしいかと存じます。」
「うん。わかる?」
「はい。ミラ様が戯れている間に確認済みでございます。」
「あなたね・・・」
ミラは溜息を吐きながら階段室の扉に手を掛けた。
「あ、私が離れると気温戻るから。それまで後悔してなさい。」
リィズに言葉を投げると、階段室に入り扉を閉めた。
「時間は問題無い様でございますね。」
ホルム家具の建物から離れたところで、クレイは時間を確認した。
「うん。自由行動中に戻れる。」
「念のためわたくしも付近で様子を窺がいます。」
「お願い。しかし、あの榴弾の所為で服が汚れちゃった。着替えるのも変だし、どうしたらいいと思う?」
ミラが来ていた白い服は、粉塵等の所為か若干薄汚れていた。
「盛大に転んだ事にすればよろしいのではないでしょうか。」
クレイは満面の笑みでミラを見下ろして言った。
「クレイ!」
ミラは頬を膨らませ蹴りを放つが、その場にクレイは既に居なかった。
「では残りの学習旅行、存分にお楽しみください。」
「もう・・・」
姿が見えず、声だけ残したクレイに大きく息を吐き出すと、ミラは駆け出した。
「あ、ミラちゃんおかえり。」
残り時間も少ないが、ミラはなんとか四人と合流できた。
「何処にいったらそんな汚れんだよ。」
ソラーグが呆れた目を向けて言う。
「あ、急いでいたらちょっと、転んじゃって・・・」
クレイの言う通りにするのは不服だったが、他に都合の良い話しも思い浮かばなかったため恥ずかしそうに言う。
「ドジだなぁ・・・いた!」
「怪我してない?」
シルディがソラーグを小突いた後、心配そうに聞いてくる。
「うん、大丈夫。」
「良かった。この後、ケーキを食べて帰るんだ。」
「ほんと!?食べたい!」
微笑んで言うセイラの言葉に、ミラは嬉しそうに返す。
「このお店ね、古い建物を修繕しているんだって。」
洒落た店内ではあったが、言われてみると露出している石壁等は年季が入っている様にミラには見えた。
「メラッツェ教会の後に出来た同じ様な施設なんだって。」
「土地の拡充とともに、あちこちに作られていった施設の一つらしいよ。」
「面倒だけどあたしたち、自由行動時間のレポートも必要だからね。」
それぞれが口にする内容に、そう言えばそんな話しもあったなとミラは思い出した。
「ま、俺に感謝しろよ。」
「え?」
「ミラちゃんが間に合うかもしれないから、レポートにする場所は最後にって言ったのはソラーグなのよ。」
「そうなんだ、ありがとう!」
「お、おぅ・・・」
ミラが笑顔で言うと、ソラーグは顔を逸らした。
「まぁ、自分で言うところは残念だけどね。」
「うるせぇよ!」
シルディが目を細めて言った言葉に、ソラーグが反応すると残りの四人が笑う。
その中でミラは、この時間に邪魔が入らなくて良かったと改めて思った。




