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三章 姫なのに集団行動させられた! 4

「ここがイーフェイヴ最古の教会、メラッツェ教会ですよ。残念ながら今は修繕工事のため、中の見学は出来なくなっています。」

カミエに案内された建物は、全体を覆うように足場が組まれていた。

「えぇ、見れないのかよ。」

「仕方ないのよ。つい最近始まったのだから。旅行を計画した時は、そんな話しはなかったのよ。」

と、ソラーグの問いにカミエが多少頬を膨らませた。

「でも、あんまり教会には見えない。」

「あ、いいとろに気が付きましたね。」

誰かが言った内容に、カミエは両手を合わせて嬉しそうに言う。


「この教会が出来たのは六百五十年程前なんですが、最初は教会として建てられたわけじゃないんですねぇ。」

カミエは建物全体を見ながら言うと、生徒たちに向き直る。

「エルテスニアに住んでいたムーフェルトが、思想の違いからエルテスニアを離れ、新しい土地で新生活を始めようとしたんですよ。」


「ムーフェルトの思想に賛同していた者も、一緒に国を出てこの地で生活を始めます。その時に建てたのがこのメラッツェ教会なんですねぇ。」


「当時は教会ではなく、共同生活のための建物でした。使われる事は無くなりましたが、今でも台所や寝室等の部屋はそのまま残っているんですよ。」


「それぞれが生活の場を手に入れると、この建物は食事やお酒等、集まって談笑する憩いの場となりました。それに、昼間は働く人への炊き出しを行ったり、怪我や病気をした人のためも医師も滞在するようになります。利用方法が変わっても、生活とは切っても切れない場所には変わりが無かったんですね。」

「全然教会じゃないじゃん。」

生徒の誰かが言った事に、カミエは大きく頷く。

「そうですよねぇ。でも、これからなんですよ。」

と言って人差し指を立てて見せる。


「リデアート大陸からエルテスニアに、ミトシャという若い司祭がやってきます。エルテスニアの教会で働こうと思っていたミトシャは、この場所の事を知ると此処こそが自分が行くべき場所だと思い、エルテスニアには留まらずメラッツェ教会に来ました。」


「悩みを聞いたり、相談に乗ったり、精神の疲労といった心の部分に対する対応を出来る人が居なかったんですね。ムーフェルトはミトシャを快く迎え入れ、この場所は教会と呼ばれるようになっていきます。」


「この教会はイーフェイヴの象徴なんですよ。初代国王となったマディクスも、死ぬまで何度も訪れています。やがて老朽化に伴い教会としての機能は失いましたが、建国の祖であるムーフェルトとそれを支えたミトシャが居たこの場所は、今では国の重要建築物として保存され公開されるようになっています。」


(今のところそれらしい気配は無いね。)

カミエが説明している間、ミラは周囲の気配を探っていたが感じられなかった。

クレイが対処したとしても近場であれば気付く。

害が及ばない様と言っていたから、別の場所でという可能性は無いだろうから今のところは平穏だと思えた。

「この後はさっき話にでたマディクスが最初に住んだお城の跡地に向かいます。現地でお昼ご飯にした後、見学しますね。その後はみなさんが楽しみにしている自由時間ですよぉ。」

カミエは言うと、先導して歩き出しメラッツェ教会を後にした。





「少し距離がありますため急ぎましょう。」

城跡の近くで待機していたクレイに合流すると、開口と同時に走り始める。

「まったく、ゆっくりも出来ないのね。」

クレイに続きミラは溜息混じりに吐き出した。

「なるべく早く、お戻りになるのがよろしいかと存じます。」

「わかってるよ。」


お昼を食べ、城跡でカミエの説明を聞いた後に自由時間が始まった。

自由時間も個人で動けるわけでもなく、組んだ生徒と過ごす必要がある。

ミラは四人にどうしても行きたい場所があると説得してクレイに合流した。

そのため、自由時間が終わる前に合流しなければならない。


「ところで幹部の一人って言ってたよね。潰して大丈夫?」

ミラは続く報復や、その上が動き出すことを懸念した。

「問題ございません。組織の一角ではありますが、それぞれ独立しております。」

「独立?」

「はい。それぞれが会社や団体を運営しており、横の繋がりがありません。」

それはそもそも組織として成り立つのだろうかとミラは疑問に思った。

「組織の運営はとある大企業ですが、幹部になるとある権利が得られます。そのために幹部である事を求める人が多いのだとか。」

「その大企業と権利って?」

ミラが聞くと、クレイは振り向いて笑みを浮かべた。

「知らない方が身の安全かと思い伏せておりましたが、そんなにお知りになりたいのであれば致し方ありません。」

「いい!言わなくていいから!」


「組織を運営している企業は・・・」

ミラは右手で刀の柄を握ると、地面を蹴る足に力を籠める。

「聞いてなかったか?」

「おや、ミラ様ともあろうお方が怖気づいたのですか?」

クレイは間合いの外に跳びながら挑発する様に嗤った。

「面倒事は望んでないだけだ。それで、幹部になるための条件はなんだ?」

「犯罪を犯してまで欲しいものにございます。」

「つまり金か。」

「ご推察の通りでございます。」





「こちらでございます。」

三階建ての建物の前に到着すると、クレイが見上げて言う。

「ホルム家具?」

「はい。リィズはこの会社の経営者です。家具の制作、販売は別のところで行っておりますので、こちらは事務所となります。」

「普通の会社なんだね。」

「質はあまり良くありませんが、安価で購入できるため需要があるそうです。」

「それでも足りないわけね。」

「仰る通りでございます。リィズの独断で行われいるため、会社とは切り離して考えた方がよろしいかと存じます。」

ミラは建物を見上げて頷く。


「じゃ、行こう。」

「なるべく穏便にお願いします。」

「相手次第。」

「此処は国外です。ミラ様の立場が万が一にでも知られた場合、国家間の問題に発展します。」

「わかった。」

不服ではあったが、そこまでの事態は望んでいないためミラは渋々返事をする。

「そうでなくとも、エルテスニアからの旅行者による狂行としてもいい結果にはなりません。」

「わかったって。」


中に入ると、正面に受付の女性が居るだけで他に人は居ない。

「どの様なご用件でしょうか?」

ミラとクレイが近付くと、女性は笑顔を作り来訪の理由を尋ねる。

「リィズ様にお会いしたいのですが、ご在席でしょうか?」

「お約束はございますか?」

「いえ、ありません。」

「承知致しました。確認しますのでお名前を伺ってもよろしいでしょうか?

「クレイと申します。」

「お待ちください。」

女性は言うと、動力通信を始める。

「社長にお客様がお見えです・・・」

女性が通話で何度か確認した後、通信を切断してクレイに向き直る。


「お会いになるそうです。応接間でお待ちいただくよう仰せつかりましたので、ご案内いたします。」

「ありがとうございます。」

女性が立ち上がって受付カウンターから出ると、案内に続き奥へと進む。

通路の両側に幾つかの部屋があり、その一番奥まで進むと女性が扉を開けた。

「どうぞ。」

クレイとミラは促されるまま、部屋の中に入る。

椅子と机が置かれただけの質素な部屋で、クレイとミラは女性に目を向けた。

「間もなく来ますので、こちらでお待ちください。」

女性は言うと、身体の前で手を合わせ丁寧に頭を下げた。

「承知致しました。ありがとうございます・・・」


クレイが言い切る前に、ミラと同時のその場から跳び上がる。

「待ってたぜぇ!」

女性は両手に銃を構えて発砲していた。

口の端を吊り上げ嗤う表情は、それまでとは別人に見える。

跳び上がったクレイはナイフを投擲したが、女性は右手の銃で弾いた。

同時にミラが抜刀しつつ放った斬り上げは、銃を切断したものの当人は上体を逸らせ避けられる。

「あなたがリィズですか。」

「そうだぜ。うまく装ったつもりだったが、気付かれるとは思わなかったぜ。」

「会社という割に、人の気配がしなかったからな。」

既に納刀しているミラが、再び構えてリィズを見据えて答える。

「いいね、殺し甲斐がありそうだ。」

リィズは目を三日月の様に細め、口を開いて笑みを浮かべた。

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