三章 姫なのに集団行動させられた! 2
「ではミラ様、いってらっしゃいませ。」
「今回は一緒じゃないんだね。」
玄関で見送られるミラは、思い出した様に言う。
ローリンツの時は着いて来たクレイが、今回は何事も無く見送っている事に。
「学校の関係者として潜り込むのは無理でございます。」
「軍には入り込んだのに?」
笑みを浮かべて言うクレイが疑わしいと思い、ミラは疑問を口にする。
「将軍の伝手と言いますか、エルディ様の配慮と言いますか、利用可能な状況があればこそです。」
「学校には無いって事ね。」
「面目ありませんが、仰る通りでございます。」
とは言いつつも、クレイの表情に変化はない。
その事が腑に落ちなかったが、言う通り無理な事もあるのだろうと納得する事にした。
「そう。それじゃ、行ってくるね。」
「お気を付けて。」
クレイが頭を下げるのを背に、ミラは大きな荷物を持って駅へ向かった。
イーフェイヴまでは蒸気機関を利用した汽車が運行している。
国境に駅があり、越境する人は検問を受ける事になるが、車内での荷物確認程度でしかない。
どちらかと言えば、貨車に大きな荷物や大量の荷物等、運搬を行っている側に対しての方が厳しい。
友好国と言えど、持ち込める物にも制限はあり、危険物は当然ながら持ち込めない。
問題がある荷物が発見されると、汽車が動かなくなるため一般乗客から苦情が出る事もしばしばある。
当然、該当の荷物は下ろされてから出発となるが、何事も無い時に比べれば到着時間が遅れる事は言うまでもない。
故に、問題事に巻き込まれるのが嫌で、動力車を有している人は動力車での越境を選ぶ人も少なくはない。
「みなさん揃いましたねぇ。乗車券は私がまとめて買っているので、そのまま乗り込んでくださいね。」
カミエが言うと先導し、生徒が続いてキウウェ駅の駅舎の中に入り込む。
プラットホームへ移動し停車している客車に続いて乗車を始めた。
「ちょ、君。駄目だよ車内に武器を持ちこんじゃ。」
ミラが乗ろうとすると、近くに居た駅員が慌てて声を掛けてきた。
「え?」
「ごめんミラちゃん。いつもその恰好だから違和感が無くなってて、言うのを失念していたわ。」
生徒の乗車を乗車口で見ていたカミエも、慌てて近寄ってくる。
「これおもちゃです。」
「それ、言う人多いんだよ。誤魔化されないからね。」
駅員が冷めた目を向ける。
「本当です。もう体の一部みたいな物なので、無いと落ち着かなくて。」
「どんな生活だよ、それ。とりあえず預かって、帰る時に返すから。」
駅員は言うと手を差し出した。
「ミラちゃん、ここは諦めて一度預かってもらいましょう?」
言われたミラは不服そうに、軽く刀の鍔を押し上げる。
「抜いてみて。」
「いや危ないから。」
と言いつつ、ミラの懇願する目に仕方なく柄を掴んで引いた。
「あれ、木製?」
「はい。形だけのおもちゃです。」
「なんか木剣みたいに太くもないし、すぐ折れそうだね。」
刀身部分も確認した駅員が、考える様に言う。
「まぁ、これなら良いけど。」
「本当?」
「ただし、他の乗客の混乱を招く恐れがあるので、乗車中は見えない様にする事。いい?」
「はい、わかりました。」
ひと悶着起きた事で、乗車しようとしていた生徒も行方を見守っていた。
「はいはい、終わったから乗り込んでくださいねぇ。」
カミエが止まっていた生徒に促す。
「ごめんねミラちゃん、ちゃんと伝えてなくて。」
「大丈夫。」
ミラは笑顔で返すと、客車に乗り込んだ。
(汽車も初めて。)
どんなものかと、内心で楽しみにしながら。
越境時の荷物確認も簡単に済ませられた。
一般乗客は形程度に荷物を見るのと、危険物の持ち込みは無いかの確認。
ミラ達は学習旅行の名目のお陰か、生徒全員の荷物確認が面倒だったのか、歩きながら流し見する程度だった。
最初に「一応聞くけど、危険物は持ってないよね。」の一言にみんなが返事をして終わる。
念のため布に巻いて座席の下に隠した刀は、当然見つかる事も無かった。
貨車の確認も無事終わり、遅延なく汽車はイーフェイヴへと入国していく。
「見ての通り、イーフェイヴに入ってもエルテスニアと景色は変わりません。」
イーフェイヴに入ると車窓から流れる景色を見ながら、カミエの説明が始まる。
「共和国の中でも最初に出来た国ですから、そこまで変わりは無いんですね。というのも、もとは同じ場所の人が住んだのだから、変化が無くても当然なんですが。」
同じ場所とはエルテスニアなのか、そもそも根本的な開拓・移住のために大陸に渡って来た人なのか。
どちらにしろ、何故国として分かれたのかがミラは気になった。
「一番の違いは価値観、考え方でしょうがそれはさておき、エルテスニアと比べて貧富の差が大きいんですね。」
窓の外を見たところで、そこまではわからないとミラは思った。
「都心部はエルテスニア同様に治安が悪くないため、比較的安全です。ですが、地方に行くとその差は顕著に現れます。エルテスニアでもそうですが、治安が良いとは言えません。」
(行った事は無いけど、エルテスニアの治安が悪い場所ってどこかな?)
ミラは聞きながら、自国内の状況が気になった。
そもそも城から出た事が無かったのもあるが、国内の状況を知ろうともしなかったのがその要因だ。
「あ、私たちが行くのは都心部なので、安全ですよぉ。」
「とはいえイーフェイヴに限った事でもなく、エルテスニアもそうですが確実に安全が保障されているというわけではありません。トラブルにならないよう行動時は気を付けてくださいねぇ。」
カミエの言葉に、生徒たちは若干の緊張をもって頷く。
それは、普段の生活圏ではなく、知らない土地で行動するという事に対しての緊張からだ。
「明日は自由行動時間を設けてますが、都心部からは離れないようにしてください。農村部は距離があって行けないですが、そうでなくても少し離れると治安が悪い場所もありますから。」
カミエ自身はイーフェイヴに何度も足を運んでいるため、そこまで問題になるような地域ではないと認識している。
だが、引率者としての義務があるため、敢えて危険を伝えるような言い方をした。
一度大きな中継駅で休憩を挟み、イーフェイヴの主要都市モーレーンに到着した。
朝九時の汽車に乗り到着は十六時、長時間の乗車により生徒たちは疲弊していた。
「はい、みなさん長旅お疲れ様です。今日は歴史博物館に行った後、宿泊施設に移動して夕食になります。」
駅舎出て集められると、カミエの説明が始まる。
「事前に決めた五人組で行動してもらいますので、今から組んでください。」
カミエの合図で、生徒が動き出す。
ミラはいつものメンバーであるソラーグ、セイラ、スアンに加え、たまに混じってくるシルディと組む事になっていた。
「座りっぱなしでケツがいてぇ。」
「ソラーグはうろうろしてあんまり座ってなかったじゃない。」
地面に荷物を置いて尻をさするソラーグに、セイラが突っ込む。
「それはみんな一緒でしょ。」
シルディも同様に言う。
「あたしは早くご飯食べたい。」
「その前に博物館!」
既に食事に意識が向いていたスアンに、セイラが突っ込みソラーグとシルディが笑う。
(この気配・・・)
会話に意識が向いている中、ミラは不穏な気配を感じ取る。
その気配は瞬時に近付いてきた。
ソラーグの荷物を掠め盗ろうとした男に、ミラが足を引っかけると勢いよく転倒した。
その音に驚き、みんなが男に一斉に視線を浴びせる。
男は生徒たちを睨み付ける。
正確にはミラだけを見据えていた。
(こいつ、見えていた?)
見えない程の速度で、相手のつま先を蹴ったのだが、自分だけを睨んでいるという状況にミラは警戒した。
「大丈夫ですかぁ?」
倒れた男にカミエが心配そうに駆け寄っていく。
「触んな!」
男はカミエが差し出した手を弾くと、起き上がって走り去った。
ミラを睨みながら。
(やっぱり気付かれている・・・)
「うーん、どうしたんでしょうねぇ?」
「急いでて転んだだけだろ。態度の悪い奴だな。」
ソラーグが男の走り去った方に目を向けて言った。
(いや、あんたの荷物が狙われたのよ。)
と、ミラは内心で突っ込んだ。
誰も状況を把握していないので、言えば不安を煽るだろうと思って。
(しつこいね・・・)
博物館の中は無かったが、移動中は絡みつくような視線と嫌な気配を向けられていた事に、ミラは嫌気がさしていた。
それは宿泊施設に入った後も変わらない。
ロビーまでしか入って来ていないようだが、気配だけは感じる。
(かなりの暇人ね。)
明日以降も付き纏われては面倒、どころか嫌な気分にしかならない。
そう思うと、ミラは気付かれない様に宿泊施設を抜け出した。
夜間外出は禁止になっていたが、危害でも加えられたら巻き込むことになる。
そう思えば行動に移していた。
ミラが外に出ると気付いた男は走り出した。
(誘っているわけね。)
誘いに乗り、男を追いかける。
角を曲がる度に暗く、人気がなくなっている様に感じた。
幾つかの角を曲がったところで、男は袋小路で止まっていた。
「何の誘いだ?」
既に左手を刀の柄に掛けていたミラは、振り向き口の端を上げて嗤う男に不敵な笑みを向けた。
「誘っているってわかって付いて来たのか。昼間の行動といい、多少は腕に自信があるようだが・・・」
男は懐から短剣を抜いた。
「なめた真似してくれやがって!二度と邪魔出来ねぇようにしてやるよ!やるぞ!!」
男はミラに向かって吠えると、その更に後ろに声を上げた。
「お前自身は腕に自信が無いようだな。」
「黙れ!」
図星と言わんばかりに男が吠えると、短剣を振り被って硬直した。
何か信じられないものでも見ているように目を見開いて。
「ミラ様、異国の地で夜の散歩はご遠慮ください。」
「クレイ!?なんで此処にいるのよ!」
その声に思わず刀から手を離し、ミラは声を上げていた。
「前にもお伝えした筈です。わたくしはミラ様のお世話と、護る事を仰せつかっていると。」




