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青薔薇の少女  作者:
5/10

悪魔 前編

【悪魔】

ランク  6-G No.205

名前   ベリオ

特徴   契約者の五感と取引する

作り方  恨み、悲しみ、後悔を5・2・3の割合で調合

注意   願いの力量に対し、それに関わった五感を全て奪う。しかし、悪魔自身が破棄を行った場合、奪われる五感は半分になる。

但し、天界警察等は契約者と悪魔を無理に解除させることは禁止であり、間には入れない。

※悪魔でもしてはいけないことがある。それを行った場合、地獄に行き3000年の刑とする。行った場合、天界警察が逮捕し、地獄に送ることとする。

例として『神をおとすこと』が挙げられる。


今回の指令は世界の見回りとする。



 僕は見回りを終え、自分の席に座り、資料を見ているネコを横目にレポートを書く。

「悪魔、か…」

 ネコが面倒そうな声色でため息をつきながら呟いた。僕は少し気になって声をかける。

「ネコ、どうしたの?」

「いや、普通は管轄者に任せられるんだけど俺のところに依頼が来たから。それにメリアには少し高めのランクの悪魔で監察するにもどうしようかと思ってね」

「見せて」

 ネコから資料を受け取り、パラパラと見る。確かにランクを見ると通常の業務より少し高い。人手が足りないのか、もしくはこのランクまでは僕たちでできると考えたのか。どちらかだろう。

「しかも俺の管轄外。管轄外だと全体的に分かんないんだよなぁ…」

 ネコはまたため息をつきながら僕の持っていた資料を覗き込む。

「悪魔だけど、行く?」

「うん。もう少し悪魔について知っておきたい」

「だよねぇ…メリアならそういうもんねぇ」

「うん。監察だからあまり人とは干渉しないし」

「そうだね。死者は生者に必要以上の干渉は禁止だからね」

「善処するよ」

「それならいい」

 ネコは安心して笑うと、2人で大樹のところへ向かった。

 世界に着くと、周りは騒がしく、落ち着いていない。

「何があったんだ…?」

 ネコは不思議そうに呟き、道行く人に質問する。

「すみません、何かあったんですか?」

「いやね、音楽が消えちゃったのよ。最近その話で持ちきり。と言っても歌うものばかり聞けなくなったみたいでね」

 パーカーを着た年配の女性は頬に手を当て、困ったように眉を下げた。

「音楽が?」

「知らないの?」

「はい。音楽をあまり聴かなかったので…」

「それなら仕方ないわね。でも、歌を歌えることには歌えるんだけど、きったなくてね。あんなに音って汚かったかしら?私、音楽好きだったんだけど嫌いになりそう」

「…音…」

「それでね、みんな大騒ぎ。今日フェスだって言うのに中止なのよ!歌が汚いから音楽の番組も全部消えちゃって…」

「…そんなことが…。ありがとうございました」

「あら、いいのよ。またね」

「はい」

 ネコは女性との会話を終え、あごに手を置く。

「おかしいな」

「悪魔単体が関わってるなら番号が違う…」

「契約者がいるな…」

 ネコが女性と会話している間に通信機器で情報係に悪魔の契約者について聞いたが、めぼしいものはない。

「…契約者について情報係でも見当たらないらしい」

「面倒になりそうだね」

 ネコは深くため息を吐きながら人々が集まっている場所へ向かう。


 近づくにつれ、バイオリンのような音が聞こえる。

「…もしかして…」

 ネコはバイオリンを弾く知り合いがいるのか、そう呟いた。

 バイオリン奏者がもう一曲弾こうとすると弦が切れ、バイオリン奏者はため息をついて言う。

「最後の弦が切れたから終わり。またね」

 そう言い、こちらに来る。

 こちらに来る男性は見たことがある。確か、優だった気がする。茶色の髪と瞳、屈託なく笑う姿は優しいお兄さんのようだった。特徴としては左耳だけにオレンジ色の大きな宝石のようなイヤリングをしている。

「あれ?ネコ、久しぶり」

 優はネコの方にゆっくりと歩き、担いでいるバイオリンを少しあげた。ネコは腰に左手を当て、楽しそうに右手を軽く振る。

「久しぶり」

 優とネコが互いの目の前に並び、優はネコを少し見上げていた。

「優、こんなところで会うなんて驚いたよ」

「驚いたのはこっち」

 2人とも会えたことに驚き、うれしそうだった。

「優はここも管轄だったっけ」

「うん」

 優はトーンを落とし、声を潜める。

「今からこれる?」

「あぁ、いいよ。メリア、少し行こうか」

「わかった」

「向こうに赤ずきんもいるから」

「別で動いていたのか…」

「そうしないとだめな理由があってね」

 優はそう言いながらバイオリンケースを小さくした。

「…魔法…」

 僕は一言、ポツリとそういった。

「うん。これは天の鍛冶屋で作ってくれたケースでね。どんな衝撃でも中には影響がない。しかも僕の一言で大きくも小さくもなる」

 優は小さくしたバイオリンケースをキーホルダーのようにネックレスに付け、歩いていった。

 僕とネコも後ろをついていく。

 それから、複雑な路地裏を何度か曲がり、路地裏を集合場所にしていたのか、赤ずきんがいた。赤ずきんは優から事前に説明されていたのか何も言わずに優の隣を歩く。そして優は路地裏にある店の前で止まった。

 それは古ぼけた店のようで、路地裏の奥にポツンと立っていた。戸建てのように見えるが、入り口が何やら物々しい。

 優が扉を引き、中に入る。扉には鈴が取り付けてあるのかチリンと何度か鳴る。

 それに続くように3人が入る。中に入ると暖かな色の電球が照らしている。広いのにバーカウンターしか置いていない。でも壁や床、飾りがシンプルで統一感がある。

 バーのようだが、店員の姿が見えない。しかし、奥から包丁を研ぐような音がするので店員はいるのだろう。

 2人はその音をものともせずにカウンターの椅子に腰掛ける。赤ずきんも僕もおずおずと背の高い席に座る。

「マスター、珈琲を2杯。でいいよね?」

「うん。メリアと赤ずきんには緑茶を」

 優とネコが注文をし、

「わかりました」

と低い声が店の中に響く。

「それでそっちはどんな仕事なの?」

『仕事』と聞いて赤ずきんと僕は焦ってカウンターの中をみるが、聞こえていないのか音は続いている。

「悪魔関連、とだけ伝えておくよ」

「ふーん…」

「優の方は?」

「指名手配犯予備軍の偵察と神」

「神?」

「うん。どうやら最近神がおかしいらしいんだよね」

 マスターと呼ばれた人が出てきた。

 僕は会ったことがないのにマスターの顔を見ると泣きそうなくらい懐かしい感じがする。

 マスターは黒いエプロンをつけ、下には白いシャツと赤みがかった黒色のゆったりとしたズボンを着ていた。顔は探せばどこにでもいそうな優しい顔のおじさんのようだったが、どこか雰囲気が危ない。

 2人は驚くこともせずにただ情報を話をしようとしている。

「珈琲と緑茶です。それからこんにゃくを作ってみたんです。味見にどうぞ」

「ありがとう」

「いつもありがとうございます」

 優とネコはお礼を言ってのんびり飲む。僕たちもお礼を言い、不審に思いながらも冷たい緑茶を飲む。

 緑茶は適度の甘みと苦みがあった。特産品の茶葉を使っているのか、味があり、飲みやすい。

「で、どういうこと?」

 珈琲を少し飲んだネコは話を促す。

「ちょ、待てよ!」

 赤ずきんが静止する。

 このまま情報共有を行い、解決してからでも店の話はいいと思ったが、赤ずきんは待てないらしい。

「どうしたの?」

 ネコは僕たち2人の顔を見て納得し、ごめんねと謝ってきた。

「そういや、メリアにはここのこと話してなかったね」

「赤ずきんには1回話したことあるけど…」

「んなの聞いてねぇ!」

「えー」

 優は面倒そうな顔をして珈琲をゆっくりと飲む。ネコに全部説明を放ったようだった。

「とりあえず、端的に言うと俺たち天警の御用達の店」

「…それでなんで『いつも』なんて言ってんだよ。ネコは管轄じゃないんじゃなかったのかよ」

「色んなところに出てくるんだよ。例えば地獄とか、天国とか、もちろん現世にも」

 ネコが説明しているのを聞きながら優はマスターが作ったというこんにゃくを箸でつまみ、美味しそうに食べていた。

「御用達だって言っても他のやつが入ってくんだろ」

 赤ずきんはネコに質問や疑問をぶつける。

「ここはバッチがないと入れないし見つけられない様になってるから大丈夫。バッチを持ってない人でも天警の許可があれば飲み食いできる仕組みらしいよ。どんな仕組みだ!って感じだけど、深く考えると泥沼にはまるよ。俺みたいに」

「で、わかったの?」

「全く」

 ネコは肩をすくめ、諦めたようだった。

 バッチは天警に入ったり、現世に向かったりするときに必要だが、それ以外に他の使い道があるのか。

「なるほど」

「また質問があったらいつでも聞いて」

「わかった」

 赤ずきんはホッとしたようでマスターの出した緑茶を飲む。美味しかったようで目を丸くしていた。

「で、続きだけど、神々って、数ヶ月に一度会議をしてるらしい。んで、その会議にここの世界の神がでなくなり、上は神に接触。接触中、幾度か『人間が信じられなくなった』と似ている言葉を発したらしい。それに」

「ここには指名手配犯予備軍がいる」

 ネコが言葉をつないだ。優は頷く。

「だから偵察ついでに調べてたってわけ。といってもまだ亡くなってないし、捕まって反省すれば地獄に落ちる可能性はない」

 優はほとんど飲み干したのだろう、珈琲の入っているコップをくるくると回しながら説明する。

「それで、悪魔の番号は?」

「6-Gの中のNo.205」

 ネコが優の質問に間髪入れずに答え、優の指が止まった。そして、優は額に手を当て、ため息をだす。

「どうしたんだ?優」

「ちょっと、嫌な予感を考えちゃった」

「俺とメリアも最悪の事態を考えてる。おそらく、優と同じ考えだろう」

「え、じゃあ、俺だけ知らねぇの?」

「悪魔の番号覚えていないんですか?」

 僕は気になって聞く。悪魔の番号を覚えていれば分かるはずだ。どれだけ最悪な事態が起きる可能性があるのか。

「覚えられるわけねぇだろ。メモしてるけどG類はまだ書き終わってねぇ」

「なるほど…」

「…お前覚えてんのかよ」

「はい。何度か読めば資料が頭に入ります」

「ははっ、天才だね」

「だろう?」

 ネコが自慢気に言うが、それをきょとんとした顔で優が言い返す。

「ネコもだけど」

「それを言うなら優もね」

「…普通は覚えられねぇだろ」

「そうなんですか?」

 あいかわらず赤ずきんとメリアの会話は要領を得ない。どんどん赤ずきんがイライラしてくるようで緑茶の減りが早い。

「じゃあ試しに言ってみろよ。今回の悪魔の次の悪魔は?」

 僕は頭の中の資料を取り出し、該当した番号について話す。確か資料にはランク、名前、特徴、行い、作られ方など様々なことが書かれていた。僕はそれを羅列していく。

「メリア、止まって」

「驚いたよ。どれぐらい見せたの?」

「丸一日。メリアは丸一日で全部覚えた」

「はー…今まで会ってきた天才と同じぐらいすごいや」

「例えば?」

「8歳で定理を完成させたり、暗算ができたりする子」

「それはすごい」

「ま、死んでるんだけど」

「それは勿体ない」

 ネコの感心したような声が落胆した声に変わる。話している内容は重そうなのにとても軽いように話している。

「最近転生したんだって。案内係経由で教えてもらった」

「へぇ、粋だね」

「僕がその子のこと気にしてたからね」

「幸せに暮らせればいいね」

「そうだね。その世の中に生まれ落ちることを心の底から願うよ」

「おやおや」

「どうかした?」

「優がそんな事を言うなんてね。しかも心から。ね、マスターさん」

「そうですね。それぐらい大切な方だったのでしょうね」

 マスターを頷きながら赤ずきんの飲み干した緑茶と珈琲のおかわりを作っている。

「言っちゃだめだった?」

 優は笑いながら馬鹿にする様に言った。

「いや、とてもいいよ」

「なんだか上から目線」

 優は口を尖らせ、拗ねるように言う。

「一応、先輩だからね」

「そうだった。忘れてたよ」

「おや、それは複雑だね」

 マスターは3人におかわりを出し、3人はお礼を言っていた。それを見ていた僕は赤ずきんと目が合う。

「お前、何考えてんだよ」

「なんだと思いますか?」

「お前、優と似てるな」

「優さんと、ですか?」

「あぁ。心の内が全く見えない。深淵にいるみたいだ」

「まぁ、心の内を明かしてしまえば、弱みに漬け込まれますから」

「…何があったんだよ」

「教えませんよ」

 僕は唇に人差し指を当て、ウィンクをする。なるべく軽く、内容を悟られないように。

「…お前」

「メリアです。赤ずきん」

「……メリアは、なんでここにいんだ?」

「罪滅ぼしです」

「は?どういうことだ?説明しろ」

「…僕のせいで生きるはずだった人を、笑顔でいてほしい方々を泣かせてしまった、殺してしまった。だから、僕はここで罪滅ぼしをするために働かせて頂いてます」

 これぐらいならわからないだろうと思い、淡々と話す。それに他の3人も耳を傾けているようだった。あまりいい話でもないが、静かなこの場所でほかに話すことが見つからなかったのだろう。

「…なんだよそれ」

「これが僕です」

「お前がなんでそう思ってんのかしらねぇけど、それは死んだやつにも、悲しんだやつにも無礼だろ。なんで人の人生決めてんだよ」

「…決めていません」

「大体、そうやって上から決めつけてんのもムカつく」

「上からなんて」

「俺だって言えることじゃねぇが、そいつの人生はそいつだけのもんだ。お前が悔やんでいいもんじゃねぇ」

 赤ずきんが僕の言葉をかぶせて言った。

「…そうですね」

「それに罪滅ぼしのために使われる奴らからすればお前は不純だ。それに最低でもある」

「そのとおりです」

 そんなこととうの昔に知っている。だが、それしかないのだ。それ以外の理由が見つからない。

 赤ずきんは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

「お前それがわかっててそう言ったのか?」

「…はい。僕には人を守る理由付けがない。もしかしたら赤ずきんが言ったように僕は下に見ているかも知れないし、相手の人生を自分自身で定めているのかも知れない。だからといって、僕の罪の意識は消えないし、薄れたりもしない」

「あー、そうかよ」

「赤ずきん、そろそろ落ち着いて」

 僕は赤ずきんに心の内が悟られないよう深く、遠くに隠す。赤ずきんは諦めたのか、一言言って終わりにした。

「…お前は嫌いだ」

「僕も赤ずきんは苦手かも知れない。心の中に遠慮なく入って来る」

「それが俺だ」

 優はのんびりと何事もないように僕が怒らせた赤ずきんに声をかけた。

「2人して喧嘩?元気だねぇ」

「んな優しいもんじゃねぇよ」

「あ、そうなの?」

 優が僕を見て聞く。僕はあいまいに頷き、笑った。

「僕は喧嘩しているとは思っておらず…」

「…そろそろ調査に入るよ」

 ネコは立ち上がり、財布を胸元から取り出す。

「奢ってくれるの?先輩はやっぱり優しいね」

 優は嬉しそうにネコをおだてる。

「その分の働きを期待してるよ」

「だってよ、赤ずきん」

「は?なんで俺…」

「だって僕、それ以上の働きできるもん」

 優は当たり前かのように言う。

「それじゃ、マスターさん、お会計お願いできますか?」

「はい」

「4人分、俺が払います」

「承知いたしました。4人で2000円になります」

「はーい」

 ネコは財布から2000円を取り出し、トレーにのせる。

「…はい、確かに。ありがとうございました」

「また来るよ」

 ネコはふわりと笑い、言う。

「楽しみにしております」

「またね」

 優がドアノブに手をかけながら手を振り、その後ろをついていくように赤ずきんが一礼し、外へ出た。

「ありがとうございました」

 僕はネコの隣で深々とお辞儀をし、並んで店を出る。

「またのご来店、楽しみにしています」

 マスターは4人の出ていった扉に軽くお辞儀をし、奥へと戻っていった。


 路地裏を出ると、優が優の後ろを歩いている赤ずきんとネコの隣を歩いている僕の方を見た。

「さてと、それじゃあ赤ずきん、メリア。君たちにお願いしたいことがあるんだけど、頼んでもいい?」

「なんですか?」

 僕は聞く。おそらく合同で動くことになったのだろう。

「僕はちょっと買いたい物があるからそれを買ってから仕事に入る。ネコは自分がやりたいことをやってもらったほうがいい。で、君たちには指名手配犯予備軍を見つけてほしい。できる?」

「まぁ…、住所はわかるし、虱潰しに分担すれば何とかなるはずだけどよ」

 赤ずきんの様子を見ると僕と行動するのはあまり好きではないらしい。おそらく心の内を覗こうとしたことに多少の罪悪感があるのだろう。

「そっちは話し合って別行動でもいいから見つけ出しておいて。メリアには通信機器を通して資料を渡した」

 携帯を見ると確かにメールが届いている。開くと資料が10ページ弱に渡って指名手配犯予備軍の情報がある。

「それじゃあ、メリア、対処できないと思ったら連絡して」

「うん」

 ネコは心配性なのか不安そうにしていたが、最終的には僕を信じてくれたらしく、対応を任せられた。

「それじゃ、頑張って」

「頼んだよ」

 優はそう言うと右側へ向かった。ネコは一言言い、左側へ歩いていく。

「んじゃ、行くか」

「はい」

「それと、敬語使うな」

「…どうしてですか?」

「俺だけ敬語使ってんのもおかしいからだろ」

 赤ずきんは少し恥ずかしいのか、顔が下がった。

「…わかった」

「んじゃ、資料読むか?」

「うん。15分だけ頂戴」

「いいけど、それだけでいいのか?」

「うん。その間、地図を買ってきて」

「…俺は使いっ走りかよ」

「お願いね」

 そう言い、僕は資料を読み込む。

必要な情報は確実に頭に入れる。指名手配犯予備軍、しかも生者なのだから、現世の警察との連帯が必要だ。ただ、証拠はこちらにない。大変だと思いながら最終ページまで読む。

 15分ほど経ち、赤ずきんが地図を片手に携帯で電話をしていた。

 僕は不思議に思いながらも、赤ずきんの肩を叩き、地図を指差す。地図が欲しい、と頭の中で思い、赤ずきんに思考を読み取ってもらう。おそらく人の考えが読める人だと思う。

 本当に人の考えが読めたのか分からないが、地図を渡してもらえた。僕は住所と轢き逃げが起きた場所にマークを付ける。

「…ここから…20km範囲…」

 地図から必要な情報を抜き出し、資料を照合する。住所以外に高谷弘人(たかやひろと)がいそうな場所を持っていたペンで記す。

 赤ずきんが電話を終えたようで地図をのぞき見ていた。

「何やってんだ?」

「高谷さんがいそうな場所をあげた。おそらくこの周辺にいると思う」

「へぇ…」

 赤ずきんは感心したような声を出した。

「んじゃ、俺はこっちから回る。メリアはそっちから回れ」

 赤ずきんは右側の印を指差した。

「わかった」

「んじゃ、なんかあったら連絡しろ」

「そっちもね」

「あぁ」

 僕は赤ずきんと連絡先を交換し、地図を半分に切って渡し、別行動をする。


 僕は左側の印をつけた路地裏や住所を確認する。僕が担当する場所は計10カ所。赤ずきんも同じぐらいの数のはずだ。

「いない、か…」

 最後の箇所を回ったが、見つからない。そんなに簡単に見つかるわけはないと思ったが、静かすぎる。音楽がなくなるだけでこんなに寂しく感じるのか。

 もし、本当に音楽がなくなったのが高谷と悪魔が関係していたら、音楽を取り戻すのに時間がかかる。しかも悪魔の契約解除は当人たちにしかできない。

 とりあえず赤ずきんと合流をしようと思い、電話をかけようと再度周りを見渡しながら携帯を取り出そうとした。

 見つけた。金髪で写真とは違うが、後ろに黒い靄が見える。悪魔だ。悪魔と契約している。

 僕は声をかけようと思ったが、高谷は何かを探しているのか周りを見渡していた。僕はネコと赤ずきんに高谷を見つけた旨をメールで連絡する。

 僕はそのまま高谷の後をつけ、何をしているのか少し調べてみる。

 高谷はカフェに入り、人と待ち合わせしているのか、窓側の2人席に腰掛けた。

 僕は少し距離を開け、カフェに入る。なんだか、悪いことをしている気分だ。

「メリア」

 声のする方を見るとネコが手を上げて向かいの席に座る。

「あれだね」

「うん。早かったね」

「ここら辺を通ってたんだ。…悪魔と契約してるな」

「手が出せないけど、どうするの?」

「音楽が消えた原因を調べてもらってる。少し時間がかかるからこっちでも調べてみよう」

「わかった」

 高谷の前に黒髪の男性が座り、楽しそうに会話をしている。もしかして他人の空似、または情報の誤りではないかと思ったが、ネコの反応は怒っているようだった。

「…ふざけてるだろ」

「ネコ…?」

 僕は黒髪の男性には見覚えがなかったため、分からない。

「メリア、優と合流」

「う、うん」

 ネコはそれだけ言うとカフェを出た。僕は代金を払い、ネコの後ろを急いでついていく。

 ネコの後ろをついていくと路地裏の入り口前に優と赤ずきんがいた。優は肩をすくめながら言う。

「こっちは空振りだって。どうだった?」

「神がいた」

「は…?」

「神?」

赤ずきんと僕はきょとんとしたが、優は舌打ちをし、小声で独り言を話していた。

「神が1枚かんでる可能性が出た」

「少し探りたい。派遣課に情報をもらってくる」

「頼んだ」

「うん。情報係の通達とかはそっちに任せる」

「任せな」

 優が路地裏へと消え、ネコは電話をかけていた。

 僕と赤ずきんは何もわからず、置いていかれたような気がした。『神』という言葉が使われていたが、あの黒髪の男性が神だとすると、高谷と神が親しくしていた、ということだ。

「もしかして……でも…」

神が人を信じられなくなったら?世界を新しく作り変えようと考えたら?悪魔と手を組んだら?

嫌な考えが頭に浮かぶ。だから2人は焦っていたんだ。人々が生きる事が出来なくなるから。

 赤ずきんも理解したのか、表情が硬くなった。

 何をすればいい。何をすればその可能性はなくなるのか、頭を使おうとした時、人々の悲鳴が脳を貫いた。

 声のした方向を見ると大きな竜巻が家屋や車を飲み込みながら人々に向かっている。

 それを認識した赤ずきんが急いで走り、人を担ぐ。僕も急いで転んで逃げ遅れた人を背負い、竜巻から逃げる。

 背負った人の案内に従いながら避難所を目指す。

「そこを右ね」

「はい」

「ごめんなさい。女の子に背負わせてしまって」

「大丈夫です。重くありませんから」

「ありがとう」

 避難所に着くと混乱している人たちが多数だった。

 僕は背負った人を降ろし、周りを見渡す。怪我をしている人はいるようだが、大怪我というわけではなさそうだった。少しホッとしながらもあの竜巻は何かがおかしかった。

「なんで急に…」

「お姉ちゃん」

 服を引っ張られ、下を向く。腰辺りに泣きそうな小さい子どもがいる。僕は子どもと視線を合わせ、不安にさせないように笑顔で対応する。

「どうしたの?」

「あのね、お母さんがいないの」

「お母さんが?」

「うん。ここに来るまで手を繋いでたんだけど、私、手、離しちゃって…それで…」

そこまで話した子どもは目に涙をいっぱい溜め、泣くのを我慢していた。

「そっか。それなら、お姉ちゃんが見つけて貴方のところに案内してくるよ」

「本当?」

「本当。大丈夫。お母さんは強いんだから」

 僕はどう頑張っても見えない力こぶを作り、笑う。

「だから、安心して」

 僕はポケットからハンカチを取り出し、子どもの目元を拭く。

「うん」

 子どもはポロポロと泣きながら何度も頷いた。

「…そのハンカチ、あげる。お守り。お母さんを絶対に見つけるから、お母さんの特徴、教えてくれる?」

「うん。お母さんはね、歌が上手なんだ!それで、最近ずっと歌ってくれなくなったんだよ。みんなお母さんの歌を聴くと笑顔になってたのに…」

「…声は出る?」

「うん。出るよ」

 子どもはきょとんとしながら質問に答えた。

「それなら、見つけられる」

「本当!?」

「うん。だから、どんな髪型だったとか、どんな洋服を着ていたか教えてくれる?」

「うん!」

 それから、外見の特徴、半分に切れた地図にはぐれた場所を記し、僕は子どもの頭を撫でた。

「大丈夫だから、信じて」

「うん!」

 子どもは震えながらも笑顔で頷いた。『大丈夫』なんて不安定な言葉を使うのは少し憚られたが、そういうしか安心出来ないだろう。『善処する』なんて言ったら安心なんて出来ない。

 僕は子どもの頭を撫で、立ち上がる。

「頑張って!」

「応援ありがとう」

 そう言って僕は避難所を出る。

 情報係に通達している最中、大きな竜巻が発生した。俺は人々の援助は赤ずきんとメリアに任せ、電話を終わらせる。

 ここで竜巻が発生する可能性は極めて少ない。しかも晴天、風が吹いていないにも関わらず、突然竜巻が出てくることはないはずだ。

 俺も人々を助けながら竜巻の様子を見る。竜巻は家屋等を吸い込むと突然威力を消し、家屋を放り投げて消えた。

「可能性はあるか…」

 怪我をした人を手当てしながら考える。神の御業と考えるか、それとも悪魔と捉えるか。はたまた、自然現象なのか。

 怪我の手当てが終わり、竜巻が起きた場所でなにか自然現象という理由が出てこないか調べるが、見れば見るほど自然現象ではないらしい。

 電話が鳴る。携帯を取り出し、画面を見るとメリアかららしい。俺は電話を取る。

「もしもし」

「ネコ、行方不明者について」

「うん」

「子どもの母親。特徴は白いパーカーを着ていてジーンズ。ショートカットの黒髪女性」

「了解。それと、インカムに繋いで携帯持ちながらだと片手が塞がる」

「わかった」

「また電話する」

「うん」

 俺は電話を切り、優、赤ずきん、メリアの3人に一斉に電話をつなげる。

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