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青薔薇の少女  作者:
3/3

指名手配犯との対峙

【指名手配犯】

 女性であり、『ヒト』を作ろうとしている。

『ヒト』とは呪いの一種でもあり、計35人の人から一部分ずつ取り、完成させていく。

 完成してしまえば自立し、作った人の命令を聞く、「動く人形」と化す。理性がないため、非人道的な殺しや盗みなどを行い、犯罪意識もない。

 また、女性は犯罪意識や罪悪感はなく、子どもを作るためだと思っている。

 被害人数は29人。死者15人。恐怖で家から出られなくなってしまった人12人。2人は義手や移植で仕事をしている。

 被害が発覚した際に逮捕しようとしたが、靄に紛れて逃げられてしまった。証拠も少なく、防犯カメラもない場所を選んでいたため、見つけるのが遅くなってしまった。

 被害場所として路地裏や人気のない場所が選ばれる。特徴は靄が現れる。

被害者の詳細は次頁に記載。


 私がこの子を守ってあげるの。私がこの子のママなんだから。

「ね、アカチャン」

「や、やめろ…!」

「貴方の右手、貰うわね」

「ひっ…」

 男が逃げようとするが、靄のせいで右も左もわからないのだから逃げられるわけがない。

「私だって無駄に人を殺したいわけじゃないの。ただこの子を作りたいだけ」

 そう言い、私は怖がっている男の右手の貰う部分をナイフで縁取り、ナタを大きく振り上げて右手を切り落とした。

「…ふふっ」

 あと5人。あと5人でこの子が完成する。きっと、優秀な子になってくれる。

 そう思いながら男を置いて靄とともに消えていった。

 天界警察に入って数ヶ月が過ぎた。僕はいつも通り1人で朝ごはんを作り、1人で食べる。そして刑事課へ向かい、ネコから仕事を教えてもらう。

「うん、上手だね」

 ネコは提出した書類にいつも一言言う。ここはもう少し簡潔に、自分の意見はこっちに書いて、ここが上手くなってる、そんな言葉を毎回かけてくれる。

「さてと、基礎は殆ど覚えた?」

「はい」

「なら、今回は現世に行ってみようか」

 ネコはそう言って刑事課を出た。少し遅れて僕もネコの後を追っていく。

「あれ?新人?」

 後ろから声が聞こえた。僕は気配がしなかったことに驚き、後ろを振り返る。

「君、新人?」

「はい」

 動揺を見せないように笑顔で隠す。ネコはもう少し先にいるので、早くネコの近くに行きたい。

「優、僕の相棒だから程々にね」

 そう言いながら優と呼ばれた男性に手を振り、僕の隣に来た。

「ネコの相棒だったんだ。それはごめん。怖がらせたね」

 優は僕の目線に合わせて少し屈むと謝った。僕は首を振り、「大丈夫です」と声を出す。

「そう言えば優も相棒を任されたんだって?」

「うん。ちょっとクセが強いけど」

「ま、そんなもんだね」

 それから、少し話をしていると「優」と少し怒った声が聞こえた。

「どこ行ってんだよ。早く提出しないとまたアジサイに怒られるぞ」

「あ…ごめーん!赤ずきん」

「…はぁ…」

 赤ずきんと呼ばれた男性は赤い瞳で名前の通り赤い頭巾をかぶったような髪色だった。でも、赤ずきんのイメージとは違う。その男性はツリ目で髪形も優に比べて短い。

「あ?お前…」

 赤ずきんが僕の方を見た。この人は僕の心の内を読もうとしているのではないかと思い、心を閉ざす。

「僕はメリアと申します」

 そして、頭を下げ、挨拶をする。すると赤ずきんは面倒臭そうに自己紹介をしてくれた。

「俺はジャック・リ・オリバー。こいつからは赤ずきんって言われてる」

 優を指差して言った。その自己紹介を見て面白そうにネコが笑う。優は言い訳をするみたいにネコに身ぶり手ぶりで説明をしていた。

 一通り笑い終わったネコが

「それじゃ、またね」

といったのを境に二人は別々の方向へ歩き出した。それを見て赤ずきんと僕も別々についていく。

 ネコに追いつくと横に並ぶ。

「面白かった?」

「なにがですか?」

「優と赤ずきんの会話。優は距離を詰めるのが上手いから話しやすいよ」

「…そうなんですか」

「うん。あの子のあだ名、赤ずきんでこれから通るだろうなぁ…」

 ネコは少し不憫そうに、でも楽しそうに言った。

「どうしてそう思うんですか?」

「だって、名前長いもん。それに心が合ってた」

そう言ってネコは大樹のところへ向かった。


「さて、案内人、よろしくね」

 そう言ってネコは資料を案内人に渡した。案内人は資料を受け取ると、軽く資料を読み、確認に入った。

「六番世界にいるCランクの指名手配犯です。ネコさんなら問題ないと思いますが、どうぞお気をつけて。では、武器や情報は確実に持っていますか?」

「うん。よろしくね、案内人」

「持っています」

 二人は返事をすると案内人が扉を開けた。

「行ってらっしゃい。ご武運を」

その声を聞くと同時にネコにつれて扉の中に入る。

 扉の中に入るとふわふわと飛んでいるような感覚になる。周りは真っ白で意識を保たないとその世界のおかしな場所に飛ばされる可能性があるらしい。僕は前にいるネコを追うようについていく。


 周りを見ると真っ白な空間はどこにもなく、周りは商店街で賑わっていた。

「さて、これからどうすればいいかな?」

 ネコはこちらを見て質問した。僕はすぐに答えを言う。

「まずは指名手配犯の住んでいる場所に向かい、そこで生活をしているかどうかを確かめます」

「正解。それじゃあ、案内してくれる?」

「…はい」

 一応住所は頭に入っている。しかし、その住所に行けるかどうかは別の話だ。30分ほど歩き、着いたと思ったらさっきまでいた場所に戻ってきていた。

「…もしかして方向音痴?」

「はい。おそらく…」

 生前は馬車に乗るだけだったし、魔法で転移すれば確実にその場所へ辿り着くので地図を見る機会は相手の国の位置や敵が攻め込んでくるときなどに限られていた。

 僕は下を向きながら歯を食いしばる。生前は王妃だと言うのに地図すら読めないと思われてしまったのではないか、そんなことが出来ずに国が本当に守れていたのか、そう疑われることが悔しく、恥ずかしかった。

「いいんだよ。無理しなくて」

 ネコは僕の頭に手を置き、撫でながら目線を合わせた。

「1人で全部やらなくていい。方向音痴を直すことは難しいかも知れないけど、それを補うように人に聞いたり、周りを見ながら歩いてたりしてたから及第点」

 及第点と言われ、ホッとしたような残念なような気持ちがあった。でも、少なくとも疑われたり、幻滅されたりしなくてよかった。

「それじゃ、行こっか」

 ネコとメリアは指名手配犯の住所へと歩き出した。


 指名手配犯のいるマンションに着くと、まずはネコがチャイムを鳴らす。数分待つが、返事がないことを確認し、木を伝い窓から指名手配犯の部屋をネコが見る。

「…いないな…」

 ネコが木を降りる。

「指名手配犯はいなかった。次はどうする?」

「被害者や次の被害者になりそうなところ、被害の場所を確認します」

「そうだね。じゃあ、被害者の方に回って。僕は場所を確認してくる」

「わかりました」

「何かあったら2回拍手して、僕の名前を呼んで」

「はい」

 そう言い、2人は別行動をする。


 メリアは人に被害者の働いている場所を聞き、案内してもらう。そして被害者と会話をする。

 また被害に遭った人が出たと情報があった。

 被害者に会うのは30人目だった。他の被害者は全員誰にも会いたくないようで話ができなかった。

「どのような状況でしたか?」

「路地裏で、靄がかかっているような感じでした」

「なるほど…他に近くにあるものはなにかありますか?」

「…えっと…水の音がしました」

「水…」

 下水道、または川の可能性が高い。

「でも、本当に逮捕できるんですか?警察には証拠が少ないから捕まえられないかもと言われたんですが…」

「捕まえます。普通に生活できるように、そしてこれ以上被害を増やさないためにも」

「…お願いします」

 被害者は頭を下げた。

「はい」

 メリアは頭の中で地図を広げ、下水道の近くの路地裏や靄が出しやすい場所をピックアップしながら被害者と別れ、走る。被害者が話したくないと断ったり、真摯に話したりする状況を見て、怒りが湧いた。

 被害者をこれ以上増やしてはならないし、『ヒト』を完成させてはならない。


 ネコはメリアと別れたあと、路地裏に向かい、証拠を探したが、被害があって数日が経っているので証拠はほとんどない。

「ここは外れ、か…」

 被害場所を変えているため、被害に使われていない路地裏も何箇所かピックアップしてある。その場所を1つ1つ潰していく。

 ネコがピックアップした最後の路地裏を確認すると、声が聞こえた。男性の声と女性の声だ。声質にも聞いたことがある。

 ネコは急いで声の方へ走った。

「動くな」

 ネコは腰についている拳銃に手を当てながら声を上げる。

 そこには光悦な表情をし、ナイフを持っている女性と怯え、腰を抜かしている男性がいた。報告書同様、周りに靄がかかっている。

 黒だな。僕はどうやって男性を助け出し、指名手配犯を逮捕するか何通りも考えた。

 間に入る前に動きを見破られ、男性の指が切られる。運が悪ければ腕まで取られる。なら…。

「貴方、運が悪いね」

 女性が楽しそうにカラカラと笑いながら言った。

 なるほど、話ができるタイプか。

「どうして?」

「私に見つかっちゃったんだから。貴方は足をもらって上げる」

「…」

 目的は足。と言うことは殆ど『ヒト』が完成しているのだろう。

「逃げても無駄よ。だって貴方、印がついてるから」

 印をつけるから被害者しかこの指名手配犯の存在を知らない。その被害者も死んでいたり、生きていても生活が出来ない人もいる。普通に話が出来る人の方が稀だ。

「…僕、足は義足なんだ。だから取られても意味はないね」

「は…?」

 指名手配犯はこちらを向き、足を確認しようとこちらに近づいた。チャンスは一度。腰にある手錠をゆっくりと取り出しながら指名手配犯を見る。

「義足じゃ、作れないでしょ!」

 指名手配犯はおそらく手にナイフを持ちながら僕の方へ近づいているのだろう。靄が多くてよくわからない。

「しゃがめ!」

 声が急に発せられ、反射的に従ってしまう。そして、後ろから拳銃の音がし、上から誰かが僕を飛び越えて指名手配犯の顔を足蹴りした。呆然としている僕と男性を尻目にその人は手際よくナイフを指名手配犯の手から離させ、手錠をかける音がした。

「20時46分、30人の身体の一部を取り、『ヒト』を作ろうとした罪で逮捕する」

「ふざけるな!」

 靄がかかっているのに拳銃を撃ち、僕のいた場所を的確に飛び、指名手配犯に手錠をかけるなど、普通の人では出来るはずがない。

「ふざけるな?それはこっちの台詞だ。人々は生きている。君が作るような『ヒト』ではない。換えはきかないんだ」

 靄のかかっている中、メリアの声がはっきりと聞こえる。僕の頭の上を飛んだのはメリアだったのか。気配が上手く消えていて分からなかった。

 靄がどんどん消えていくと周りの状況が見える。

 メリアが指名手配犯の上に乗り、ハイライトのない目で指名手配犯を見ていた。

 男性はホッとしたのか涙を流している。

 僕は男性に声をかけ、警察署へ同行した。

 メリアなら指名手配犯をもう逃さないという信頼を持っての行動だった。


 被害者の話を報告書で読んだときから犯行場所は路地裏で靄がかかりやすい場所であり、逃げられにくい場所であることがわかっていた。ただ、それだけでは絞り込めなかった。被害者の話を聞いて川の近くの路地裏が数カ所存在していたことを思い出した。

 それから、僕は地域の人に川に案内してもらい、近くの路地裏に入った。

 そこは僕が考えていた通り、靄がかかっていた。

 中からはネコの声と指名手配犯の声質に似た女性の話し声が聞こえた。会話の音量や反響で大体の距離は把握出来る。あとは指名手配犯の位置と撃つ場所だった。

 僕は腰に手を当て、拳銃をすぐに出せるようにした。

 ネコはおそらく立っている。可能性があるなら人質がある場合だが、ネコの声色は人質はいない。

「義足じゃ、足が作れないでしょ!」

 女性が指名手配犯と確信できる言葉を聞き、拳銃を構えた。ネコに向かって走っているのだろう。どんどん足音が近くなっていく。

 僕は大きな声を発する。

「しゃがめ!」

 ネコがしゃがんだと仮定し、拳銃を撃つ。そしてすぐにネコのいる場所を飛ぶ。ネコを踏んでしまったら謝ればいい。そう考えていた。

 そして、指名手配犯が目視できる距離まで一気に近づく。指名手配犯は肩に命中したらしく、抑えていたが、僕に気付き、急いで僕を殺そうとナイフを向かわせた。

 ただ、そのナイフが僕を刺すことも掠らせることもなかった。

「20時46分、30人の身体の一部を取り、『ヒト』を作ろうとした罪で逮捕する」

 僕は瞬時にナイフを落とし、手首に手錠をかける。

「ふざけるな!」

「ふざけるな?それはこっちの台詞だ。人々は生きている。君が作るような『ヒト』ではない。替えはきかないんだ」

「私の作る子だって替えがきかないのよ!」

 指名手配犯は悲痛な声でその上に乗っている僕に言うが、人の命を奪って作る『ヒト』など必要ない。

「私の…私の子どもなのよ…!」

「子ども、か…。貴方が殺して『ヒト』にした人たちにも親はいたんだよ」

「それがなに?私はなにも悪いことはしてないわ!」

 指名手配犯と会話をしていると男性を警察に預け終わったネコがこちらに歩いてきた。

「助かったよ」

「いや、邪魔してごめん」

「どうして?」

「ネコなら1人で解決できた。僕のやり方は少し危なかった」

「…ま、危ないけどいいよ」

 ネコは笑顔で僕の頭を撫でた。

「さて、地獄に送ろうか」

「うん」

 僕は指名手配犯から降り、指名手配犯を持とうとするとネコが隣から指名手配犯を持った。

「借りは作りたくないからね」

「…じゃあ、お願い」

「うん」

 ネコは暴れる指名手配犯を左手で流れるように気絶させ、担いだ。

「…」

「どうした?」

「いや、ネコは怖いなぁって」

「え、どこにそういう要素あったの?」

 ネコは不思議そうに聞くが、僕ははぐらかした。だって、人を煽って笑いながら指名手配犯を捕まえ、地獄に送ることを淡々と出来るなんて怖いと思う。絶対にネコには言えないけど。


 ネコと僕は地獄へ行き、指名手配犯を地獄の担当者に引き渡す。その後、地獄で閻魔様に判決が言い渡され、それ相応の罰が与えられるらしい。

【報告書】

 メリアの銃の腕前が通常の警察と比べ、扱いが上手い。理由として、目視不全の状況の中、反響を使い、狙った肩に確実に当てられていた。

 多少無茶なことを要求するが、信頼されていると考えてもいい。だが、確実に出来る場合のみ行うらしい。

 ネコに対して、今回の指名手配犯を通して敬語が外れた。また、少しだけ偽物の笑顔と本物の笑顔の割合が9対1に増えた。(前は10対0)

 銃と剣を中心に武術は使わせられるようにする。また、体術もできるように指導する予定。

以上 ネコ


 神はその報告書を読んでホッとしたような気持ちになった。笑顔が増えたのはいいが、無茶なことを要求するということは自分自身も無茶をする、という意味に等しい。無茶のし過ぎで体を壊してしまうのではないか、という点は気をつけて見てもらおう。

 扉がノックされた。

「どうぞ」

「失礼します」

 メリアが部屋に入る。名字を使わないのはネコの管轄内では不利になる可能性が高い。名を与えて欲しいとネコから依頼が来た。

「君の名字は?」

 それを聞いたメリアは喉に何かが詰まったように口をパクパクと動かした。

「…オ…ルガ…ノ…です…」

 掠れた途切れ途切れな声が聞こえた。メリアの体を見ると震えている。流石にこれはトラウマが蘇るか。それなら僕が名字を与えよう。トラウマが蘇っても大丈夫な時まで。

「ごめんね、メリア。無理をさせたね」

「い、いえ…申し訳…ありませ…ん」

 メリアはゆっくりと深呼吸をしている。最初に僕が教えた方法を試しているのだろう。

 少し待つとメリアは呼吸が整った。

「メリア、君に名字を与えよう」

 そう言うとメリアは目を見開いて驚いていた。

 ネコが一緒だったとは言え、指名手配犯を巡査が捕まえることはあまりない。その褒美としよう。

「セレストを使いなさい。これからはセレスト・メリアとして天界警察で働いてくれるね?」

「…はい」

 メリアは少し戸惑っていたが、僕の目を見てちゃんと返事をしてくれた。

 僕が戻っていいと言うとメリアは一礼し、部屋を出ていった。

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