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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第99話 闘技大会決勝戦

 マージャン大会よりも開催日が長い闘技大会は、遂に決勝を迎えていた。勝ち進んだリーシュは今、決勝の場で注目を集めている。

 美しき金髪ポニテの大人の女性は、堂々と身の丈と変わらない大きな剣を構えていた。凛々しい表情で相手を見つめ、出方を伺っている様子だ。

 対戦相手は細身の男性で、大きな鎌を手にしている。リーシュの対戦相手は別の大陸から来た傭兵で、傭兵業が盛んなカーロ共和国に腕試しに来ている。

 浅黒い肌と横に長い耳が特徴的な、若々しくてクールな雰囲気を持つ背の高い男性だ。


 彼は所謂エルフ族の1人であり、普通の人間種であるリーシュ達ヒューマン族よりも寿命が長い事で有名な種族である。

 ただし彼は見た目通りの、まだ20代後半の年齢でしかない。エルフ族の若者は、旅や挑戦に積極的な傾向を持つ。

 逆に歳を取るとあまり活発ではなくなり、家や集落から出ないようになっていく。だからこそ彼もまた、若さゆえにこうして闘技大会にチャレンジしているのだ。


「……」


「……」


 お互いに高い実力を持つと向き合った段階で理解している。だからこそ攻めあぐねている。

 冷静に見えてエルフ族の彼は、わりと熱くなるタイプだ。見た目こそクールではあっても、この状況に若干の苛立ちを感じ始めていた。

 彼の名前はゼーナムと言い、出身地である村では一番の強者だ。同世代には一度も負けた事が無い戦士であり、今も絶対の自信を持っている。


 彼らの村では田舎らしい古い風習が残っており、戦いは男性がするものという認識が強い。

 こうして村の外に出て来て数年、女性が戦う事が珍しくない事は一応理解した。でもこうして、女性と互角だという事実までは、簡単に受け入れたくないのだ。

 痺れを切らしたゼーナムは、真っ白な白髪を揺らしながら正面から突撃した。渾身の力を込めて大鎌を振り下ろす。


「おらぁ!」


「ふっ!」


 振り下ろされた大鎌を、リーシュの大剣が正確に捉えた。しっかりと防がれてしまい、鍔迫り合いが始まった。

 ゼーナムは力自慢の男であり、細身ながらも筋力はかなりある方だ。だからこそ重い大鎌を武器として選んだ経緯がある。

 渾身の重い一撃で、これまでも色んな相手に勝利して来た。やや力押しな傾向がありながらも、決して頭が悪いという訳では無い。

 どちらかと言えば技量より腕力というだけだ。そういう意味ではリーシュと似た戦士と言える。

 だが彼女は確かにパワフルでもあるが、根っ子の部分は技術屋だ。様々な技を駆使して、これまで戦って来た。

 リーシュは器用な面が目立つ戦闘の方が多い。今も大剣を上手く傾けて、力押しの大鎌を受け流した。


「何っ!?」


「はぁっ!」


 大きな武器は懐に入られると戦い難くなる。その欠点はお互い様とリーシュも分かっている。

 それを承知の上で、足技を使いゼーナムの腰辺りを蹴り抜いた。絶妙なタイミングでバランスを少し崩されていたゼーナムは、完全に防御する事は出来なかった。

 若干のダメージを負ってしまったが、纏っていた皮鎧のお陰で被害は少ない。しかし一撃を貰ってしまったのは事実で、やり返そうとゼーナムは更に激しく攻撃を繰り返す。

 ゼーナムの一撃は非常に重く、戦闘の舞台であるリングには外れた攻撃のせいで小さなクレーターが出来ていた。

 共に大きな武器で重い一撃を繰り出すタイプである為に、外れて床に当たってしまうと強烈な破壊音を場内に響かせる。観ていた観客達は、その衝撃を聞いてどよめいていた。


「おいおい、あんなの喰らったら死ぬぞ」


「人間が出す威力か?」


「オークでも真っ二つだろ」


 どちらも大きな武器を振り回す、パワフルなスタイルであるだけに戦闘は非常に派手なものになった。

 当たれば敗北確定の、必殺の一撃が何度も繰り返されている。普通の冒険者や傭兵であれば、既に負けていると誰もが思う強烈な攻撃力。

 重量級の戦いは、激しさを増していく。流石にゼーナムもここまで来たら思い知らされた。

 目の前の女性は自分と同じ様に強い力を持っており、決して女性だからと侮れない相手だと。

 どうやら幼い頃から持っていた差別的な思想は、一旦忘れて対峙せねばならない。だが染みついた意識はどうしても消えず、どこかで無意識に女だと考えてしまった。


 それが彼の敗因であり、致命的なミスを生んでしまう。日常的に強力なモンスターを相手に戦うリーシュは、多くのカウンター技を習得している。

 大剣を弾かれ後ろに重心が移った事を利用して、爪先に込めた気の力を乗せたムーンサルトキックがゼーナムの顎を打ち据えた。

 思わぬ一撃で僅かながら意識を持っていかれてしまい、致命的な空白が生まれる。次の瞬間には足払いを掛けられゼーナムは転倒。

 彼が気が付いた時には、大剣を構えたリーシュが立っていた。


「くそっ! 俺の負けだ」


「勝者! リーシュ選手!」


 見事優勝を決めたリーシュは、盛大な拍手を送られ戦いを終えた。暫くの休憩時間を空けた後、表彰が始まりリーシュはトロフィーを受け取る。

 噂通りの強さだったと観客達は大満足で、アディネラードの闘技大会は大好評のまま幕を下ろす。

 流石に決勝戦を見逃したとあってはマズイので、ズークはマリーを連れて観戦していた。

 だというのに見知らぬ美人に目移りしてしまい、マリーから猛烈に詰められるのだった。どこに行ってもブレない男である。

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