第96話 決勝戦閉幕
数週間に渡って行われた、裏レートマージャン大会の決勝戦。
1回目の半荘戦はサントスを徹底的に狙い撃ちにした、ズークとアンナがそれぞれ1位と2位で終了した。
緑のゲンゾーサイドからすれば、サントスと手を組んだ事の方がむしろマイナスまである。
しかし元々ズーク達はコンビ打ちをする予定だったので、その点についてはどの道変わらなかったが。
ただここまで滅茶苦茶な差にはならなかっただろう。そもそもゲンゾー本人としては、コンビ打ちなどしたくはなかった。
そんな真似をしなくても、勝つ自信があったからだ。だが自分はあくまで代打ちで、組織の決定には逆らえない。
仕方なくこき使うつもりが、まさかの事態になってしまう。お荷物を抱えた状態で、コンビ打ち対決になってしまった。
「もうよい、お主とは組まん」
「えっ、ちょっ……」
「へぇ、それなら付き合うぜ爺さん。俺達の目標はある意味達成されたからな」
1回目でサントスは南2局でトビ終了。オーラスまで回らずに半荘戦が終了している。
ゲンゾーが自力で和了りを見せて、一度も和了れなかったのはサントスだけ。トビの上にヤキトリまでつくおまけ付きだ。
400点しか残っていなかった状態で、ズークの跳満に振り込んだ。お陰で1万点以上のマイナスを抱えており、もはや再起は不可能に近い。
これでデモニオに大きな損害を与えられる。ここからズークとアンナが、無理にコンビ打ちを続ける必要性はなくなった。
アンナもそれで構わないという姿勢を見せ、2度目の半荘戦は3人で本当の勝者を決める戦いへと変わる。
「アンタにゃ負けないぜ爺さん」
「胸をお借りしようかしら」
「ふんっ、ワシはまだまだ現役じゃ。若いのには負けん」
1人絶望しか残っていないサントスと、熱いバトルを繰り広げる3人という構図だ。
ほぼ三人マージャンと化した対局が、ゲンゾーの親で始まった。サントスなんて居なくとも、実力でやれると言わんばかりにゲンゾーの手は早い。
發と索子で作った混一色を、東1局目の八巡目でツモ和了り。1回鳴いているとは言え、30符4翻で親満の4000オール。
開幕から12000点を獲得したゲンゾーの実力は、やはり本物と言わざるを得ない。これはイカサマを使った和了りではなく、純粋に運と実力によるものだ。
「やるな爺さん」
「余計な事をしなければ、こんなものじゃ」
「すぐに追い着くさ」
東1局1本場となったが、ズークとアンナも負けていない。先ずはアンナが4000点をツモってアンナの親番に変わる。
ここでアンナもまた早いリーチからのツモ和了りで、ゲンゾーと同様に親満を和了。一度は凹んだ点数が、立て続けに増えて1位に浮上。
東2局1本場にて、今度はズークが2000点のツモで親番がズークに。早い手では無かったものの、東3局でズークは面前で筒子の混一色をツモ和了り。
親の跳満となり6000オールの18000点。36200点となったズークは1位に浮上する。続く2位のアンナは29900点で3位のゲンゾーは24300点となった。
サントスは全くお話にならず9300点と早くもトビの危険性が出て来た。
「追い抜いたぜ、爺さん」
「まだ対局は終わっておらんわ」
「元気な爺さんだ」
ここまで共通しているのは、3人ともがサントスの振り込みをスルーしている点だ。
スルーした上で、自らツモって来ている。自分に自信を持っているからこその行動で、強者だからこそ出来る打ち方だ。
最早話にならないサントスから、和了って勝っても真の勝利とは言えない。サントスを狙えばまたトビで終了となってしまう。
そうではない本気の勝負をこの1局で戦っている。実力で勝てると思っているゲンゾーと、実力で勝ちに行きたいズークとアンナ。
そんな戦いにおいて、弱者をトビで終わらせるなんて無粋が過ぎる。これまでの対局と違い、相手はイカサマを使用しておらず変な根回しも存在しない。
純粋なマージャンが今ここでは行われている。サントスがトビそうな状態になってからは、3人がサントス以外からの和了りしか狙わなくなった。
下手なツモではサントスがトビで終わるからだ。その結果物凄く手堅いマージャンに変化した。
流局で流れた東3局の1本場と、東4局が終了して南入へ。激しい攻防の末に勝ち抜いたのは、ズークをアンナの方だった。
「ふぅ…………ワシも、もう歳かのう」
「楽しかったぜ、爺さん」
「いい試合でしたわ」
これが本当に裏レートマージャン大会かと、思わずには居られない程の名勝負が行われた。
読み合い、駆け引き、定石外しに運を掴む力。それらの応酬がたった1度の南場だけで、幾つも飛び交い非常に見応えがある試合となった。
決して派手ではないが、内容はとても濃い。見た目に分かり易い高得点が飛び交う対局ではないが、分かっている者ならばその価値が理解出来る。
最後の決め手となったのは、ズークの北単騎待ち。あえて点数を下げてまで、残った1枚に賭けた勝負。
ギャンブルだからこそ、そういう勝ち方もまた良いものである。見事に1位と2位で勝ち抜いたズークとアンナは、明るい表情で会場を後にするのだった。
暫く麻雀ネタは書かなくていいかなと。考えるの疲れました(笑)
麻雀ネタでずっと書いて居る方が凄いなと改めて実感しました。




