第95話 決勝戦開幕
遂に始まった裏レートマージャン大会の決勝戦。卓についたのはズークとアンナ、そして代打ち界の重鎮である緑のゲンゾー。
残す1人はどうもパッとしない男、サントスというごく平均的なゴロツキだ。4人はそれぞれ席決めを行い、東がサントスで南がゲンゾー、そして西がアンナで北がズークに決まった。
起家を決める為のダイスロールが行われ、そのままサントスが親でスタート。ズークは対面に座るゲンゾーの様子を窺っていた。
この決勝で立ちはだかる者はゲンゾー1人。サントスは眼中に入っていない。アンナはこうなった時に、お互いコンビ打ちを約束した相手だ。
敵対する必要はなく、むしろ手を組む味方である。そして迎えた3巡目、サントスが切った1枚目の發にゲンゾーが反応した。
「ポンじゃ」
緑のゲンゾーと呼ばれる70代の老人。長年に渡り代打ちとしてやって来た、非常に目の細い白髪の男性だ。
細いのか閉じられているのか、判断のつかない目はちゃんと見えているらしい。生まれつき目が見えない人でも、魔道具や魔法を使えば視力を得る事が可能だ。
しかしこの場で魔力を使えば、不正防止の機能が働きブザーが鳴る。そうなっていない以上は、ただ糸の様に細い目だという事か。
彼が鳴いた發は緑色の牌であり、マージャンではとある役満に関わる牌。緑一色という發と二・四・六・八の索子のみで構成される特別な役だ。
緑のゲンゾーという名は、その緑一色を意味する二つ名である。彼は緑一色の和了率が異様に高く、また索子と發を交えた混一色や索子の清一色で和了る事も多い。
当然それぐらいの事は、ズークとアンナも教えられている。警戒する2人に対して、全くサントスは動じず4巡目で七索を切る。
「チーじゃ」
二副露目は七・八・九の索子だった。この場合は赤色が含まれる七と九の索子が含まれるので緑一色は成立しない。
だからと言って、安い手とは限らないのだ。例えば發・混一色・チャンタや、發・混一色・一気通貫などが組み合わされば満貫に届く。
しかし何よりもここで問題なのは、3巡目と4巡目に連続でサントスが有効牌を切った点にある。
決勝戦まで来る様な打ち手が、ゲンゾーの事を知らないというのは有り得ない。發や索子の鳴きが入れば、普通は警戒をする筈である。
しかし今回明らかに、逡巡する様子も見せなかった。それが意味するのは、この2人が裏で手を組んでいるという事だ。
「なるほどねぇ、そういう事か」
「ほっほっほ」
「面白くなって来たわね」
本来なら眼中にない男が、ここに来て意味を持ち始めた。しかもサントスは、強欲の螺旋が用意したデモニオの代打ちである。
ここでしっかりと蹴落とす必要があり、そうまでして敵対するならズークとアンナも容赦はしない。
元々ズークとアンナで、ワンツーフィニッシュを決める予定だったのだ。その最終目的は今も変わっていない。
無駄に自我を出さなければ、スルーで済ます相手だったというのに。こうして敵対を選んだ以上は、しっかりと対処をするべく2人は動きだす。
4巡目のアンナが切った牌は八筒で、ズークがチーを宣言。七・八・九の筒子が公開された。
切り出した牌は西であり、続いてアンナがポンを宣言した。自風牌である西が3枚並び、次に切ったのは一筒だ。
「そいつもチーで」
再び鳴いたズークの二副露目は、一・二・三の筒子である。まるでゲンゾーに対抗する様に、筒子の染め手を思わせる手牌だ。
この流れでお互いに理解出来ただろう、この決勝戦はコンビ打ち対決なのだと。そんな事になると思っていなかったサントスはただ驚いている。
自分達がコンビ打ちで、1位と2位を取って終わると聞いていたのに。思わぬ事態に発展し、サントスは動揺していた。
しかし予定は変わらないので、ハンドサインで指示されていた牌を切る。静止するゲンゾーのサインを見逃したサントスは、そのまま気付かず三索を河に置いてしまった。
「それロンで」
「私もロンよ」
「はぁっ!?」
コンビ打ちに気付いたズークとアンナは、先ずサントスに狙いを定めた。次に切りそうな牌を即座に予測し、その牌で待つ形で待ち構えていたのだ。
ズークの手は純チャンドラ1の30符3翻で、アンナの方は自風牌とドラ2で同じく30符3翻だ。
ダブロンで両者に3900点ずつを支払い、東1局目の時点でサントスは7800点を失い17200点となる。ズークとアンナは28900点と同率1位に上がった。
コンビ打ちとは両者の実力に差があった場合、弱い方を狙われるとかなり厳しくなる。裏で手を組もうと考えたデモニオは、ズークとアンナが手を組んでいると知らなかった。
他力本願に走り、重要な情報を得ようとはしなかった結果だ。ズークとアンナのバックに居る組織が、手を組む可能性を考えなかった。
どちらもデモニオに否定的なのだから、こうなる事は予想出来た筈。相手を侮り見たい光景だけを見ているから大切な事を見失う。
目が曇った結果の大失敗を、観戦席から観ていたデモニオは思い知る。ガリガリを頭を掻きむしり、ワイングラスを壁に投げつけたがもう遅い。
サントスを狙い撃ちにするズークとアンナに、ゲンゾーは実質ソロとなり追い着けず。そのまま1度目の半荘戦が進んで行った。




