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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第94話 哀れな人々

※ちょっとグロめな話です

 マルサボールと呼ばれている悪趣味な集会がある。カーロ共和国の首都アディネラードの地下深く、人工的に作りだされた大きなトンネル。

 その中に設置された多目的ホールでは、様々な催し物が開催されて来た。奴隷同士で殺し合いをさせたり、若い女性や子供を売り買いしたりするオークションなど。

 普通では味わえない刺激的で、かつ残虐な行いの数々が人知れず行われて来たのだ。


 この事を知っているのは裏社会に生きる人々、そして悪辣な趣味を持つ貴族達。いつの時代も刺激的な光景を求めて、生き過ぎた行動を取ってしまう者達が居る。

 彼ら彼女らにとって、常識的な理性などというものは持ち合わせがない。現在行われている裏レートマージャン大会の裏側で、敗北した代打ちへの折檻が行われている。

 組織との仲が良い信頼された代打ちはともかく、雇われかつ悪質な組織の下に行ってしまった者達がケジメと称してぞんざいに扱われるのだ。


「も、もう止めてくれ!」


「お前のせいで幾ら失ったと思っている!」


「ひっ、か、勘弁してくれ!」


 屈強な男達による、集団暴行が公開された状態で行われているのだ。罰を受ける者と罰を与える者達を、上から見下ろす形で観客達が観戦出来る。

 小さな闘技場の様になっており、中央に設置された舞台の上で折檻が続く。貴族向けに豪華なゲストルーム内に、その映像が中継されている。

 高級な酒を飲みながら、目元を隠す仮面を装着した貴族の男女が嗤いながら観ていた。自分で作った借金返済の為に、代打ちとなった哀れな男が泣きながら謝罪を繰り返す。

 そんな光景を見ていても、普通なら面白いなんて思わない。自業自得ではあるとしても、ボコボコにされる程の事かと先ず疑う。

 確かに損失も出たのだろうが、そんな男を雇った側にも問題があると誰も言い出さない。ここにはそんなまともな頭をした人間は居なかった。


「あら下品ですわねぇ。これだから平民は」


「見ろ、吐きやがったぞ!」


「まあなんて小汚いのでしょう」


 リンチに遭った代打ちの男が、腹を殴られて嘔吐している。その姿を見て、彼らは笑っているのだ。誰も彼を心配せず、もっとやれと現地では観客達が盛り上がっていた。

 自分が被害に遭わない所から、一方的に誰かを責め立てられる環境は人の攻撃性を刺激する。無料で参加出来る私刑であり、ストレスの発散に繋がる。

 自分で貯めた日々の不満や怒りを、こうして誰かにぶつけて解消するのだ。代打ちの男は借金持ちで、試合に負けて損失を出した悪者。

 だからこうして、攻撃しても構わないという心理的な免罪符もある。本当は何も免罪されていないのだが、ここでは誰も彼らを咎める事は無い。


「いいぞー! もっといけ!」


「ほら謝罪が足りねぇんじゃねぇか!」


「泣いてんじゃねーよ!」


 悍ましい光景が、当たり前の様に繰り広げられている。普通なら許されない悪魔の様な行いが、ここでは正義として扱われるのだ。

 法で守られた世界が如何に平和で、無法地帯がどれだけ危険かという事を表している。こんな物をコンテンツとして提供した側が、狂っているとしか思えない。

 そして喜んで参加している側もまた、常識の通じない非常識な精神の持ち主達だろう。恐ろしいのはその人数の多さであり、100人以上が現地で観戦しているのだ。

 それ程の人数が平気で観ているだけでなく、数名の貴族達もまた観ているという地獄。

 こんなモノを楽しめてしまう人間達が治める領地が、まともに運営されているのだろうか。


「どうして平民はこうなのでしょう。汚らわしい」


「ふん、ただ働いていれば良いものを」


「ギャンブルで成り上がろなんて、考えが甘いんだよ」


 声からして若いと思われる貴族達が、終わらない暴行を見ている。彼らは自分達の血筋に絶対の自信があるのだろう。

 平民が夢を見る事自体が許せないらしい。いつまでも平民らしい生き方をするべきだと考えているのだろう。

 貴族は貴族、貴い血が流れる特別な存在。そして平民は、選ばれなかった存在だと考えている。

 未だにそんな古い考えを持っている貴族は、どこの国にもある程度居る。だが現在はその地位が揺らぎつつあるので、こうして発散しているのだろう。

 リーシュの様に、魔法を使えない優秀な剣士が闘技大会で活躍している。その成果は多大な効果を与えていた。


 カーロ共和国は複雑な背景を持つ国であり、貴族達にも色々な者達がいる。元から本当の意味で高貴な生まれの貴族達も居れば、建国時に後付けで貴族となった者達も。

 そんな背景がある関係で、貴族間でも諍いが度々起こっているのだ。彼らの発言から推測するに、古い価値観を持っている元から貴族だった家の者達だろう。

 後付けで貴族となった家系の者達は、基本的に平民に対する差別的な思想を持っていない。


「あら死んでしまいましたの? 脆弱ですわね」


「魔法の使えぬ者など、こんなものだ」


「軟弱者はこの国に必要無い」


 魔法と血筋は関係ない、その理論が大昔に証明されてもなお拘る者達がいる。自分達は特別なのだと思いたくて、見たくない事実からは目を逸らして生きている。

 ある意味では彼らもまた、哀れな生き物なのかも知れない。現実が受け入れられずに、こうしてゲスな趣味で不満を解消しているのだ。

 とても高貴な者の行いとは思えない。その事実に彼らが気付く日が、果たして来るのだろうか。

2章ではこの闇の部分について、まだメスを入れません。世界観説明も含めたちょい出しです。

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