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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第93話 迷走を続ける愚かな男

 強豪達がぶつかり合ったお陰で、強欲の螺旋のボスであるデモニオが雇った代打ちが決勝まで駒を進められた。

 右頬に刻まれた十字傷が特徴の、大男が今日もスキンヘッドを晒している。どうにか勝ち進んだのは良いもの、決勝の相手が明らかに自分の代打ちよりも強いメンバーだ。

 Sランク冒険者で、優勝候補を2人も打ち破ったズーク・オーウィング。そして謎に包まれた黒き女性雀士アンナ。

 残るは代打ち界の重鎮である緑のゲンゾーだ。このメンツに対してデモニオの代打ちは、あまりにもパッとしていない。


「クソっ! どうしたら良い!」


 結局はまた頭を抱えるハメになり、具体的な対策も思い浮かばないままだ。

 大会中は負傷などの正当な理由がない限り、代打ちを変える事が許されない。

 優勝者を予想する賭けだってあるのだから、そんなにポンポンと変えられては成立しなくなってしまう。

 事前に登録した代打ちでしか、基本的には参加する事が出来ないルールだ。万が一に備えて代理を登録する事は許されているが、その登録した代理も同じ様にパッとしない。

 この様なルールになっているのは、デモニオがやった様に代打ちを相手に闇討ちを仕掛ける者も居るからだ。


「今の代打ちを……いやそれでは意味がない」


 交代の正当な理由を作る為に、今の代打ちに怪我をさせる事も一瞬デモニオは考えた。しかしそれをして何になるのかという問題がそもそもある。

 他に登録している代打ちでも勝てないのは分かっているし、交代させた所でまた最初の問題にぶつかるだけだ。

 何より交代させる為に怪我をさせたなんて噂が広まったら、誰も代打ちをやってくれなくなってしまう。


 何らメリットのない行動でしかなく、ただ無意味に悪評を広げてしまうだけ。デモニオも愚かな男ではあるのだが、それ程までにバカではない。

 かと言って特別頭が良いという事もなく、悪知恵が働くタイプというだけ。具体的なプランは何も浮かばないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 決勝は数日後に迫っており、ゆっくりしている時間はない。


「辞退……いやそんな真似が出来るか!!」


 この裏レートマージャン大会では、途中で辞退する事が一応可能だ。その場合は賭け金が幾らか帰って来るので、全額を失わずに済む。

 これは代打ちを殺されてしまった等の、どうしようもない場合に使う制度だ。裏社会の関係者が争う以上、その様な事態も起こり得る。

 だがその場合は、管理能力が低いと思われてしまうデメリットを孕んでいる。自分達の代打ちもろくに守れないのか、そういう風に思われても文句は言えない。

 ただ十分な警護をつけていたのに、それでも殺された場合はその限りではないが。


 例えば現状で言うとズークが殺された場合、Sランク冒険者を殺せるレベルの何者かを雇ったという事になる。

 これは相手側が相当な人物を差し向けたと判断出来るので、管理能力を疑われる事にはならない。

 そんな事態まで普通は予想出来ないので、むしろ同情される側になる。ではデモニオの場合はというと、先ず勝てないから逃げ出したと見られてしまうだろう。

 それでは良い笑いものにしかならない。近年稀に見る腰抜け野郎として、後ろ指を指されながら過ごさねばならないだろう。

 プライドの高いデモニオには、そんな状況は耐えられない。


「どうする……どうする……」


 幾ら考えた所で、この状況が好転する筈も無い。当日になって都合良く他3名が全員体調不良だとか、そんな荒唐無稽の偶然でも起きない限り優勝は不可能だ。

 確かにマージャンは運も大きく絡む競技だが、結局腕前の差が確実に出てしまう。運が向いていない時や、苦しい状況でも乗り越える技術は確かに存在するのだから。

 そしてそれは、数日で身に着ける事は不可能である。イカサマについても同様で、如何に上手くバレない様に行えるかは技術力がものを言う。

 下手くそなイカサマなど、あっという間に見透かされる。ハッキリ言って、もう詰んでいるのだ。


「この際あの若造にさえ勝てれば……そうだ、そうすれば良い」


 そして辿り着いたデモニオの答えは、追い詰められた小悪党に相応しい末路。

 最初から勝つのを諦めて、義賊集団ロ・コレクトのボスにさえ負けなければ良い。気に食わない若造のラドロンにさえ勝っていれば良いという考え方だ。

 そこから得たのは、裏取引の提案。百戦錬磨である緑のゲンゾーと、コンビ打ちで1位と2位を独占しようと考えた。

 ゲンゾーを代打ちとして雇っている組織とは、知らぬ間柄ではない。1位を譲るという提案をせねばならないのは、デモニオとしても業腹だが仕方ないと自分に言い聞かせる。


 それ以上にラドロンに負けてしまう事の方が、よほど腹が立つのだから。これは逃げではなく、あくまで取引をするだけだと無理矢理考える。

 アンナを雇っている組織も、反デモニオ寄りであり巻き込むのは難しい。2人抑えられたら確実なのだが、こればかりは諦めるしかない。

 これでどうにか最悪の事態は避けられる。そう考えたデモニオは、自身の甘さに気付けていない。

 相手側もコンビ打ちをして来た場合、自分が負ける可能性があるというのに。追い込まれてそこまで考えていないデモニオは、仮初の勝利に向けて行動を開始した。

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