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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第89話 こちらの方も勝っています

 ズークがマージャン大会で勝ち続けているのと同様に、リーシュもまた闘技大会で大活躍をしていた。

 今大会での優勝候補の1人と言われ、彼女の試合が始まる頃には会場の観客が本来の収容人数を上回る。

 ただ容姿が優れているだけの客寄せパンダなら、ここまで観客が集まる事はない。そんな見てくれだけの女性では、一目見たら満足する人達が離れていくもの。


 だがリーシュの場合はその逆で、次も観たいと思う人達が増える一方であった。輝く黄金の様な金髪が、動きに合わせて会場を舞う。

 大人の女性としての魅力を備えつつも、凛々しい表情で勇敢に立ち向かっていく立派な剣士。

 そんな女性が確かな実力をもって、屈強な大男達を次々と倒していくのだ。こんなに見応えのある戦いはそう観られるものではない。


「リーシュ選手、入場をお願いします」


「はい、分かりました」


 控え室で待っていたリーシュの下に、大会運営の職員が声を掛けに来た。リーシュは順路を通ってトンネルを潜り、歓声の響く会場へと歩みを進めていく。

 その姿を円形の闘技場内に現した瞬間に、爆発的な歓声が轟いた。リーシュの試合を観たいと思った観客達が、どれだけ多いのか面白いぐらいにハッキリと示された。

 しかしリーシュ本人は戦闘に集中しており、周囲に軽く手を振る程度に留める。リーシュがリングの上にあがると、これから戦う相手が既に立っていた。


 今回の対戦相手は、大きな斧を背負った筋骨隆々の大男だ。粉砕機の異名を持つ、少し遠い国で活躍している30代の傭兵だ。

 荒事なら任せろと言わんばかりの、ゴツゴツした肉体に厳つい顔立ち。右目には怪我の跡が残っており、縦に切り裂かれた様な痛々しい痕跡だ。

 他にも腕や体に沢山の傷跡があり、防具に守られていない部分から激戦を乗り越えた証となっている。


「よう姉ちゃん! 俺はバートンだ。デカブツを扱う者同士、よろしくな!」


「私はリーシュよ。よろしくね」


「両者、礼」


 闘技大会は殺し合いではなく、あくまで競技として戦うもの。お互い対戦相手に敬意を持って、戦いに臨まねばならない。

 だからこそ試合開始前には、お互いそれぞれの礼を取るのがルールとして決められている。

 この闘技場もローン王国王立魔法学園にあったものと、似た魔法が使用された特別製だ。

 違う部分があるとすれば、リングの上で死ぬ事はないが怪我はする点か。仮に致命傷を受けたとしても死ぬ事は無く、リング外に出ると何も無かったかの様に元の状態に回復する。

 あくまで本気の勝負なのだと、周囲が観ていても分かる様にする為だ。逆に学園で使用する様なリングは、安全最優先の競技性を重視したものになっている。


「始め!」


 審判の号令により、2人の試合が始まった。大斧と大剣がぶつかり合い、重い剣戟の音が周囲に響き渡った。

 どちら高い筋力がないと扱えない武器であり、扱いも非常に難しい。取り回しが悪く小回りが効かない武器ながら、2人は器用に扱っていた。

 剣の柄で受け止めてみたり、斧の持ち手で打撃を繰り出したり。上級者同士だから発生するテクニカルな戦いは、重量武器を扱っている者同士とは思えない程に緻密であった。

 それがまた観客にウケて大盛り上がりを見せている。ただ重い武器を振り回すだけの戦いではなく、積み重ねた技量が試される試合となっていた。


「やるねぇ! アンタみたいな剣士に会ったのは初めてだ」


「お眼鏡に適ったかしら?」


「ああ気に入った! どうだ、俺が勝ったら嫁に来ないか?」


「まだ結婚するつもりは無いの、負けるわけには行かないわね」


 顔立ちこそは裏社会の方が似合う様な人相のバートンだったが、性格は真っ直ぐで漢気に溢れる熱血漢だ。

 そういう男性の事は好ましく思っているリーシュだが、結婚相手としては微妙だと思っている。どちらかと言えば、もう少し優しい見た目の方が好みに合っていた。

 外見だけで言えばズークは及第点だが、中身がアレなので恋愛対象ではない。まだ結婚するつもりが無いというのは本音であり、体よく断る為の方便では無かった。

 仮に結婚をするにしても、もう少し剣の道に生きてからにするつもりで居る。自分がどこまで行けるのか、試したいと思っているから。だからこそこうして、闘技大会にも出ているのだ。


「っとぉ!? 今のは危なかったぜ」


「油断していると危険よ?」


「益々気に入ったぜ、最高の対戦相手だ」


 リーシュの鋭い突きが胸部に迫り、慌ててガードに回ったバートン。一瞬の隙を突いた一撃であり、並みの選手であれば今の一撃で終わっていた。

 再び重い剣戟と空気を切り裂く音が周囲に振り撒かれ、戦いは更に激化していく。本気と本気のぶつかり合いが続き、小さな傷が両者に刻まれていく。

 振り下ろされた大剣を、大斧が受け止めれば衝撃でリングにヒビが入る。自動修復機能で瞬時に直るものの、如何に重い一撃だったか示されていた。


 お互いに譲らない戦いが続き、会場は盛り上がり続ける。長い戦いの果てに勝利を勝ち取ったのは、リーシュの方だった。

 鋭い神速の突きを繰り出し、切っ先を首の前ギリギリで静止させた。潔く負けを認めたバートンが、参ったと告げた事で決着となる。

 勝者の名前が示された時、今までで一番大きな歓声があがる。リーシュの勝利で闘技大会は最高潮に盛り上がるのだった。

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