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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第87話 1人目の壁

 ズークにとって1人目の大きな障害である、翻牌(ふぁんぱい)のマライアとの戦いは佳境を迎えていた。

 1回目の半荘戦でズークは2位の3万2千点で、マライアは3万6千点だった。この大会における本戦のルールは、2度の半荘(はんちゃん)戦の合計点数で勝者が決まる。

 つまりここでズークが勝利するには、マライアより5千点以上高い点数で終わる必要があった。

 オーラスを迎えた最終局面で、ズークの点数は3万点の持ち点だ。対してマライアの持ち点は、2万9千点とまだ千点の差しかついて居なかった。


 ここで勝とうと思うなら、マライアへの直撃なら2千点だけで良い。お互い子同士なので、必要な手は30()2翻(りゃんはん)となる。

 例えば平和(ぴんふ)一盃口(いーぺーこー)の組み合わせや、翻牌2種類を鳴きでも良いので用意した場合等だ。これはあくまで直撃の場合で、ツモ上がりの場合だともう少し難易度が上がる。

 狙うならば直撃の方が安く済むものの、如何にして振り込ませるかが問われるだろう。最後の1局が始まり、全員の配牌が完了する。

 ズークの手には、自風である(ぺー)(はく)が2枚ずつあった。直撃狙いでもツモ上がりでも、逆転が狙えなくもない。後は運との戦いなのだが、ズークには勝ち筋が見えていた。


「ポン」


 1枚目の北から速攻で鳴き、スピード勝負に打って出た。ズークは今回も、全ての山に配置されている牌を把握出来ている。

 鳴きでツモがズレた分の、引いて来る牌は狙い通りのものを含む。不要な牌も一部含まれるが、その程度は問題にならない。

 もっと他の事に使うべき無駄使いも甚だしい高い記憶力を持って、この場の全てを把握しコントロールしている。

 今のマライアが持っている牌も、他家(たーちゃ)が持っている牌も全てが脳内に残っているのだ。

 ズークは自分のマージャンを打ちながら、他家3人分の手牌の変化も更新していく。とても高度な事をやってのけているが、これは裏レートマージャン大会で違法行為に過ぎない。

 どうしてこの男はこの様な、才能の無駄ばかりを重ねてしまうのか。5巡目になり、他家が切った白に再びズークは即座に反応をする。


「ポン」


「アンタ!?」


 明らかに終わらせに来ているズークに対し、マライアは警戒感を顕わにしている。

 このままズークが勝利するには、自分への直撃2千点が1つの手段であると彼女も当然把握済みだ。

 代打ちとして十分ベテランと呼べる領域におり、わざわざ深く考えずに辿り着く答えだ。

 そこに二副露(つーふーろ)で晒された、自風牌と白の2翻。これではまるで、お前から直撃で取ると宣言している様にも見えてしまう。

 混一色(ほんいつ)などの役を絡めて、ツモ和了(あが)りを狙っている可能性も確かにある。しかしズークの捨て牌を見る限り、染め手にしている様子は今の所無い。

 3種の数牌(すーぱい)が全て切られており、2翻しかない可能性は十分考えられる。赤ドラなどが絡む場合はそうでもないが、跳満の直撃を受けた時の様な嫌な空気をマライアは感じた。


「アタシから直撃を取る気かい?」


「そうだと言ったら?」


「な、舐めんじゃないよ!」


 明らかな挑発行為だったが、年下に舐められたままではマライアも終われない。キッチリと格の違いを見せてやるのだと、全力を出す事に決めた。

 それは当然ながら、イカサマも含めた全力である。牌のすり替えを行いながら、自分の手を作り上げていく。

 相手がズークでなかったのであれば、それは有効な手段であっただろう。だがマライアは知らないのだ、ズークが馬鹿げた記憶力を持って全ての牌を把握しているなんて事は。

 この半荘戦において、ズークは敢えてマライアのイカサマを放置している。自らを鍛える良い機会と判断し、見抜いていても別の方法で勝つと決めていた。

 8巡目を迎えたズークは、ここで聴牌(てんぱい)となる。二筒(りゃんぴん)五筒(うーぴん)両面(りゃんめん)待ちで、同時にこれは索子(そうず)の混一色を目指しているマライアの不要牌。


「そろそろ終わりにしようか」


「……へぇ、随分な自信ね?」


「さ、お姉さんの番だぞ」


 早くツモれとズークが促したので、反抗する様にゆっくりと手を伸ばすマライア。

 聴牌気配のあるズークを相手に、良い機会が来たとマライアは内心ほくそ笑む。煽られたからわざとゆっくり手を動かしています、そう言わんばかりに普段より動きは緩慢だ。

 マライアの前に山は無く、現在は対面であるズークの山から引くしかない。そうなるとすり替えをするのは少々難しい。

 ゆっくりと伸ばされたマライアの手が、非常に嫌な気配のしているツモ牌を掴む。その瞬間に器用に指先を使って、隣の牌と入れ替える。

 マライアの勘は正しく、本来引く筈だったのは赤五筒だった。振り込めば1翻高くなってしまっただろう。

 だがもしその牌がトラップであったとしたら。本命を隠す為に配置された、玄人の勘を誤作動させるものだったらどうだろう。

 マライアがすり替えて引いて来たのは、二筒でズークの当たり牌だ。それはマライアのすり替えを前提に、ズークがすり替えておいた仕込みでありトドメの刃。

 危険牌を回避したという確信があるからこそ、揺らいでしまう玄人の勘。これは切れるのかとマライアは一瞬悩むも、崩された感覚を戻せなかった。


「手癖が悪いのも、考えものだと思わない?」


「な、何を……」


「ロンって事で」


 イカサマは全部分かっていたぞという宣告と共に、マライアからの直撃2千点が確定した瞬間だった。これでズークは3回戦を突破して、4回戦へと駒を進めた。

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