第79話 ズークの嫁達には必ず何か難がある
遅くなって申し訳ありません。
リーシュに急かされたから、という理由もあってズークはマリーの家を訪れている。
娘のレナと久しぶりに遊ぶ事で、父親らしい最低限の事も一応はこなした。親として最低限というか最低というか、表現に困るレベルの接触でしかない。
ただカーロ共和国では、この様な家庭は珍しくないのも実情としてある。傭兵稼業がこの国では売りになっているので、親が傭兵だというのは珍しくない。
女性でも傭兵として稼いでいる人は、大体が高収入である場合が多い。その上で母親が傭兵だった場合、一旦休業して育児に専念する。
このパターンは十分な稼ぎのある母親よりも、更に収入が高い旦那と結婚するのが主流だ。母親が稼がなくても、収入面での不安が無いからだ。
しかし父親が傭兵で大黒柱の場合は、稼ぎ頭が休業は有り得ないからと傭兵を続けるしかない。傭兵稼業が高収入なので、この国ではこの様な家庭が生まれ易いのである。
次点で起こり得るのが冒険者の家庭で、父親が稼ぎに出ていて家に居ない事が多い。それにしてもズークは、顔を出す頻度が低かった。
「なあマリー、わざとじゃないんだ」
「そりゃあね、そこまで借金を抱えたらね」
「でも大丈夫だ! 返すあてはあるから!」
借金を抱えるような男ほど、返すあての話をしたがる。何故か分からないが、自信満々に話し始めるのだ。
そしてその場合は大体がギャンブルか、それに近い確実性の低い理由である事が殆どである。
何故彼らがそういう方向に走るのか、その理由は分からない。けれども彼らはどうしてか、まるで決定事項の様に決めつける。
確かに裏レートマージャン大会で優勝すれば、相当な金額が舞い込んで来るだろう。しかしそれは勝ち続けた先にある話で、今の段階では確実性がない。
どこかで敗北して、全てが白紙に戻る可能性は残っている。下手をすれば、目的が達成出来ずに契約違反で罰金まであるのだが。
「本当なの? 無理じゃないのは分かっているけど」
「結構良い依頼を受けているんだ」
「へぇ、それなら早く解決するのかしら?」
その認識は間違いではないけれども、正解とは言い切れない微妙なラインだ。あくまで勝ち続けたらそうなる、という話でしかなく実際五分五分でしかない。
バレなければOKなイカサマも自由な大会とは言っても、結局はマージャンという競技は運の要素も大きい。
実力では勝っている玄人が、良く分かっていない素人に負けてしまう事もある。そこまで頻発する程に運任せでも無いし、実力の影響も軽視は出来ない。
ただ運だけで勝ち進んだ素人が、キッチリ玄人に狩られるのもまたマージャンの世界だ。どう転ぶかはともかくとして、ズークがここから借金返済大逆転も確かにゼロではない。
「まあ見ていろよ、サクッと返して元通りだ」
「そうあって欲しいわ」
「おいおい、信じてくれよ」
どこに信用出来る要素があったのか、まるで分からないが本人は勝つ気でいる。
ここまでに対戦した相手のレベルが、大して高く無かった事もあるのだろう。協力関係にあるアンナ以外に、障害となる打ち手が居る様に思えなかったという事も手伝った。
確かにズークが苦戦する様な相手が、予選や1回戦では少なかったのも事実だ。その殆どが上手くやれば勝てると、判断出来る程度の相手しか居なかったのも間違いではない。
しかし本大会に出場している打ち手達には、予選を免除されている者達がそれなりに居る。
そんな彼ら彼女らを知らないズークは、ここから先の想定が甘かったとしか言えない。それはマージャン大会もそうだし、マリーに関してもそうだ。
「だったらさ、信じるからもう良いわよね」
「ん? マリー?」
「随分と待たされたから、覚悟してよね」
幼い娘を寝かしつけて、今この家では2人きり。それはかなり久しぶりで、マリーは愛を求めていた。
魔法剣士として大成した身であっても、心から望む事は常人とそう大きく変わらない。
自らを愛してくれる両親に恵まれなかったマリーは、自分を愛する人に飢えていた。
そこに上手く滑り込んだのがズークであり、彼女との関係をこうして続けている。愛に飢えていたマリーは、重いと言われても仕方ない程の求愛感情に悩み続けた。
ズークとの間に子供が出来た結果生まれたのは、愛する男に対して激重感情を向ける1人の狩人。
母としての育児は当然やらないといけないが、それはそれでこれはこれ。暫く会えておらず、溜まりに溜まった欲求が爆発しかけていた。
「今日は1日、相手をして貰うわよ」
「あ、ちょっ!? マリー!?」
「今日は寝かせないから」
愛欲が無尽蔵に高まっているマリーは、もはや止まる事のない猛獣と化していた。
確かにズークは性的な行為を好んでいるし、結構体力も続く方ではある。ただしどういても限界は存在し、無限に性的な行為に及べる訳では無い。
そもそも男性の肉体には、1日に出来る回数に限界があるのだ。肉体の性質上ズークとてそこは変わらず、他人よりは多く出来るものの何十回もこなす事は出来ない。
しかし女性は男性と違って、その様な制限はない。ずっと我慢していた感情を爆発したマリーによって、ズークは文字通り朝まで搾り取られるのだった。
後にズークが残した自伝書には、サキュバスは人間にも居ると書き残している。
このお盆休み中に毎日更新に戻す事を目標に頑張ります。
結構手首を休めたので、そろそろ大丈夫かなと。




