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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
76/135

第76話 ある男の誤算

最近手首の腱鞘炎が辛くて、本作の投稿を1日置きのペースに落としています。

どこかで毎日更新に戻すつもりですが、もう少々お待ちください。

 裏レートマージャン大会が行われる地下施設で、とある男が頭を抱えていた。

 綺麗に剃ったスキンヘッドに、右頬に刻まれた十字傷が特徴の大男だ。彼は強欲の螺旋と名乗っている組織のボスで、これまでにも様々な悪行を重ねて来た悪逆非道のならず者である。

 そんな彼はこれまでの人生で、上手く行かなかった事はそう多くない。子供の頃から悪童だった彼は、常に暴力と悪意で全てを手に入れて来た。

 欲しい物は奪い取り、抱きたい女は強引に手に入れた。気に入らない者は甚振って、腹が立ったら殺してしまう。

 そんな行動の繰り返しだった為に、表の世界では生きられなかった。しかし裏の世界なら、好きな様に暴虐の限りを尽くせた。


 もちろん犯罪者として捕まらない様に、小細工や対策は必要だったが。そして貴族達へのパイプもしっかり作っておいた。

 少々やり過ぎたとしても、金銭や奴隷の提供で誤魔化して貰える。順風満帆、これからもやりたい放題だと思って過ごす日々。

 そんなある日、自分の行動が邪魔をされる様になる。若造が率いるロ・コレクトなどいう義賊を名乗る組織が現れた。

 邪魔な彼らはどんどん大きくなり、力をつけて気が付けば同レベルの規模になっている。だからちょっと痛い目をみせてやろうと思った。


「デモニオ様、これからどの様に」


「分かっている! 少し1人にしてくれ!」


「……承知致しました」


 今までは思い通りに行っていたのにと、デモニオはギリギリと拳を握り締める。気に入らない若造が雇った代打ちは、本物のSランク冒険者だった。

 これでは卑怯な手を使っても、上手く行かない可能性が高い。下手な小細工は見破られるだろうし、相当な打ち手でもないとイカサマも通るか厳しいのは確実。

 むしろこちらの代打ちが気付けもしない様な、高度なイカサマを使われ兼ねない。では貴族達を頼ろうにも、今話題のSランク冒険者を相手に権力でゴリ押しは難しいだろう。


 国王レベルの権威ならともかく、デモニオが繋がっているのは精々中堅どころの貴族だけ。公爵家や辺境伯家の様な有力な貴族とは伝手がない。

 無理矢理ズークをこの会場から排除する方法がないのだ。もしこの大会を冒険者ギルドに報告するという方法を取れば、表の世界に助けを求める様なもの。

 裏の世界で生きて来たデモニオのプライドがそれを許さない。仮に密告したとしても、大会運営は愚かではない。ただのマージャン大会だと押し切って追求を跳ねのけるだろう。


「クソがっ! あの若造が!」


 テーブルの上をその太い腕で薙ぎ払い、食器やトレーを弾き飛ばす。吹き飛んだ食器類が割れ、木製のトレーが壁にぶつかり床に落ちた。

 デモニオの苛立ちは最高潮にあり、多大なストレスを感じている。どう足掻いても追い詰められた状況で、目的の達成は難しいかも知れない。

 ただこの時点で敗北が決定した訳でもない。少し冷静さを取り戻したデモニオは、VIP席に設置されたモニターを観る。

 そこには魔道具で撮影された映像が映っていた。今回本戦に勝ち進んだ打ち手達が、順番に紹介されていく。その映像を観てデモニオは、まだ可能性が残されている事に気付いた。


「まくりのジョーに翻牌(ふぁんぱい)のマライア、緑のゲンゾーまで居やがるじゃねぇか! まだ分からねぇぞ」


 代打ちの中でも特に有名な雀士が紹介されている。30代の若き打ち手、オーラスで逆転する勝ち方で有名な男ジョー。

 若さと渋さを合わせ持った、色気のある蒼い髪の男性だ。続いて映ったのは、40歳を超えながらも30代でも通る美女。

 装飾の派手なドレスを着た金髪の女性。翻牌のマライアは役牌を上手く使う打ち筋で活躍して来た妖艶な魔女だ。

 彼女の次に紹介されたのは、代打ち業界の長老であり、40年以上の経験を持つ70代の老人。見た目は白髪で糸目のおじいちゃんだが、どこか妙な迫力がある。

 まるで全てを見透かしたかの様に、ニコニコと微笑んでいた。デモニオは彼らがズークを倒す可能性は十分に高いと判断し、ひとまず溜飲を下げる事にした。


「これはマージャンの大会だ、闘技大会じゃねぇ」


 あくまでズークはSランク冒険者で、代打ちとしての戦績はまともに無い。どれだけマージャンを打てるか分からなくても、この道で生き抜いて来た本物には勝てないだろう。

 だからまだ焦る必要はないと、デモニオは考えを改めた。彼が雇った代打ちだって、それなりに名前の通った男だ。

 流石にズーク・オーウィングの名声には負けるとしても、経験が豊富な代打ちである。

 ズークとの直接対決となればどうなるか分からないとしても、その道のプロフェッショナルなら話は別だ。


 そう思う事で、デモニオは落ち着きを取り戻す。自分の代打ちが彼らに負ける可能性が頭から抜けているのは、冷静になりきれていないからだろうか。

 何よりもSランク冒険者は、基本的に勝負事に強い。動体視力に優れ、勝負時を見抜くセンスが高く流れに敏感だ。

 勢いを掴むべき時も察知出来るし、引き際も弁えている。普通ならギャンブルなんてやる必要がないので、あまり裏社会では知られていないが。

 ギャンブルに入れ込んでいるSランク冒険者なんて、ズークぐらいしかおらずサンプルが少なすぎるのだ。

 当然デモニオもSランク冒険者の知り合いなんて居ないので、彼らの強さを良く知らないままだった。

ズークがギャンブルで負けるのは、おバカさんだからです。

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