第74話 秘密と言っておけば通る事もある
いつもの様に学ばないズークは、当たり前の様にサボりがバレた。一旦リーシュに怒られはしたものの、内容が言えない指名依頼を受けたのだと説明する。
嘘ではないのがまた質の悪いポイントで、やっている事はただの違法賭博に過ぎない。
ただし指名依頼である事実は変わりなく、即刻逮捕というレベルの悪事でもないのだ。
一般的にマージャンを打つだけなら違法では無く、打ち手本人が金銭を賭けていない場合は犯罪者とは言い切れない。
あくまで代行をしているだけに過ぎず、賭けているのはバックにいる組織だけ。違法賭博に関わった事にはなるが、犯罪として裁く法律が無いのだ。
非常にグレーな言い訳でしかないが、ズーク達代打ちはただマージャンを打っただけでしかない。
そしてバックに居る組織達も、賭けてなど居ないぞの一点張りで追求を回避する。開始前に全ての賭け金が1か所に集められるので、最後の最後まで金銭の動きがない。
仮に多額の資金が集まっていても、そのお金が誰の物なんて外野は判断が出来ないし主催者が自分の金だと主張したらそれまで。
なので大会中に軍や衛兵が突入したとしても、違法賭博で捕まえるのは難しいのだ。お金が動いていないのに、どこが賭博なのだと主催者側に主張されては法で裁けない。
また裏レートマージャン大会で動く資金の一部は、貴族に上納金として流れているという噂もある。
それ故に厳しく摘発する法律が出来ないと、本当かどうか怪しい噂話が界隈では囁かれて来た。
実際に摘発された事は少ないので、本当ではないかと考えている者達も居る。そんな裏事情までリーシュには明かせないので、適当に誤魔化すしかズークには出来ない。
「本当に変な事はしていないの?」
「本当だって! ただの代行業だから」
「代行業ねぇ……」
美しい金髪ポニテのお姉さんが、ジトっとした目で赤髪のおバカを見つめている。見た目だけなら美丈夫だが、中身はアホでバカでカスな男だ。
リーシュがズークの言動を疑うのも無理は無い。友人や仲間としてなら信用は出来ても、私生活については一切の信用されていないのだから。
しかしながらリーシュとしても、この状況で完全に疑うのもまた難しい。王族や高位の貴族から、匿名の依頼や秘密の依頼があるのは知っている。
その場合は冒険者ギルドを仲介せずに契約されたり、事後報告でギルドに依頼が発注されたり様々だ。
冒険者ギルドが存在している意義を考えれば、本来権力者の私的な介入を良い事とは言えない。
ただ王族や貴族との対立もまた喜ばしくないので、あまり厳格に言い切る事が出来ない現状もある。
そして肝心のズークだが、王族や貴族から直接依頼を受ける事は少なくない。
「相手は貴族? それとも王族?」
「あ~いや、その~。それについても言えないんだ」
「……厄介な依頼じゃないでしょうね?」
王族や貴族からの依頼には、物凄く厄介な案件が混ざる時がある。対立相手の暗殺であったり、強引な婚姻の要請であったり。
前者ならズークに来てもおかしくないし、リーシュは何度か後者を依頼された。その手の厄介事は稀にあるので、リーシュとしてはそちらの可能性を疑っている。
実際にはもっと宜しくない依頼内容なのだが。何よりも相手が貴族ではなく義賊だ。正義寄りの盗賊団でしかなく、本来はあまり関わるべきではない相手。
だがズークは義賊を悪と断じない価値観を持ち、リーシュはどちらかと言えば反対派だ。民衆を救うのは良い事かも知れないが、悪事は悪事だと考えている。
この辺りは復讐者と守護者という2人の違いが、明確に出ているのだろう。
「まあ安心しろって、元々の依頼とは被らないからさ」
「……まあ、それなら良いけど」
「両方終わらせてしっかり稼ぐぜ!」
どの口でそんな事を言っているのかと、問わねばならないがリーシュは真実を知らない。
しっかり稼ぐというのなら、賭博になど関わっている場合ではないだろう。
ただ勝てば多額の賞金がズークの懐に入るのもまた事実で、抱えた借金の金額を思えば全否定する事は出来ない。
ギャンブルで得た利益であろうとも、返済は返済でしかない。それがクリーンな金銭ではないというだけで。
ただ不安に思える部分もあって、賭け金が身銭ではないという点である。ギャンブルにハマる駄目な人間に、無傷で使える金銭を渡すと大体は失敗して碌な結果に繋がらない。
「稼ぐ気があるのなら、まあ良いのかなぁ?」
「当たり前じゃないか! 超稼ぐ気しかないさ!」
「それはそれで何か、不安なのよねぇ」
果たしてリーシュの不安が的中してしまうのか、ズークの思惑通りに進むのか。
そして何よりも複数の組織と人々の思惑が、水面下で渦巻いている。無事に勝ち進んで簡単に賞金ゲット! などというお気楽な展開になりそうにはない。
良からぬ事を考えている者達は、既に裏で行動を開始している。大会までに相手の代打ちが消えてしまえば、そんな事を考える者だって珍しくない。
裏社会に生きる者達なのだから、その様な番外戦術は普通に行われる。これまで魔の手がズークまで伸びていなかっただけで、大会が近付くにつれて不穏な空気がアディネラードの街に漂い始めていた。
前々回の書き忘れです。
■ダンジョンでの収入:1200万ゼニー
■借金総額:5億4090万ゼニー




