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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第73話 ギャンブルと正義と

 リーシュに連れ出された結果、珍しく真面目に労働をしたズークはロ・コレクトの拠点に来ていた。

 リーシュにバレない様、上手く抜け出してここに来た。流石に裏社会で暗躍する組織の本拠地までは、何も知らないリーシュが探しに来るのは不可能に近い。

 カーロ共和国に住んでいるならともかく、隣国で生まれ育った人間には先ず辿り着けないだろう。


 地元民でもなく紹介された訳でもない人間に、隠れ蓑である地上の酒場を見つけるのは難しい。仮に見つけたとしても、この地下施設には誰も通さない。

 幾ら隣国の有名なAランク冒険者であろうが、組織と無関係の者を通す事はない。ズークが逃げ込む先として、最高の環境と言えた。

 おまけに代打ちという立場があるお陰で、マージャンを好きなだけ打つ事が出来る。


「はいそれロン」


「ちょっ!? またっすかズークさん!?」


「あり~」


 お金こそ賭けてはいないものの、ラドロンの部下達が対局相手として何時でも付き合ってくれる。

 本戦までの肩慣らしという名目で、ズークはマージャンを楽しんでいた。マージャンという競技は、ギャンブルとしての側面が強い。

 しかし実際は頭を使う競技性が高い遊戯である。索子(そーず)萬子(まんず)筒子(ぴんず)という1から9まである数牌(すうぱい)と、四風牌(すーふうはい)三元牌(さんげんぱい)に分かれた字牌(じはい)を組み合わせる競技だ。

 34種類136枚の牌から配られる12枚と、13枚目の牌を組み合わせた役の成立で点数を奪い合う。


 基本ルールは世界中で共通しているが、地域によってはローカルなルールや役が存在する。

 今回の裏レートマージャン大会では、世界共通のルールで行われる為マイナーなローカルルールは適用されない。

 ルールそのものは通常通りのマージャン大会だ。賭け金と倍率が普通ではないだけで。


「ズークさんってどうして、そんなに強いんっすか?」


「うん? マージャンの話? まあ、慣れかな」


「そんなんで強くなれます?」


 マージャンという競技は運の要素が強い。確かにそれは間違いないが、しかし同時に戦略性も高く運だけで全てが決まる訳では無い。

 4人の内誰が1番早く既定の役を作り、和了(あが)るのを決めるかという勝負だ。ではスピードが全てか、というと必ずしもそうとは言い切れない。

 速度重視の安い点数で和了り続ける打ち方は、高い点数を手堅く作る打ち手に負ける事もある。

 どちらが正しいという明確な結果はなく、どちらであったとしても上手く行く時と行かない時があるものだ。

 人によって全然違う勝ち筋があり、絶対に勝てる方法なんて存在しない。そういう意味ではマージャンも冒険者も、そう大きく変わらないのかも知れない。絶対的な正解がないという点に於いては全く同じだ。


「結局は試行回数と慣れだ」


「そうなんすか?」


「いやもう、何でもそれが全てよ」


 ズークが言う事はそう間違ってはいない。人生は結局積み重ねが重要であり、経験値が足りていないと大体は上手く行かない。

 それについてはマージャンも殆ど同じで、場数を踏む以外に強くなるのは難しい。何度も見た展開や、経験則から来る『流れ』という概念。

 統計とは似ている様で全く違う、個々人による判断基準。具体的に明言出来る訳でもなく、かと言って支離滅裂でもない。


 言語化するのが困難で、説明が難しい『流れ』というモノ。何であろうと掴んだ者が上手く行き、掴め無かった者が消えて行く。

 そこについて敏感になる為には、ただ試行回数を増やす意外に道は無い。もしくは命の危機に瀕するぐらいの、大きな出来事でしか学べない。

 それぐらい追い込まれた人間が、何故か目覚める特殊技能に近いモノ。それが『流れ』を掴む能力で、掴むと全てが上手く行く。


「自分には良く分からないです」


「まあなぁ、説明が難しいからな」


「そういうものです?」


 ズークが上手く言語化をする事が出来ないのは当然で、全てを失いその復讐をする。そんな経験は中々得られるものではない。

 そこから得た経験をギャンブルに活かしているだけで、論理的な何かがある訳ではない。ただ自分の人生で得た経験を元に、賭け事でも利用出来ているだけ。

 それが結構効果的で、こうして結果に繋がっている。マージャンという冒険者とは特に関係が無い競技で、活かせる知識を上手く使っただけの話。

 ズークの場合は命を賭けた死闘の中で、得られた知見をマージャンという競技にも適応しているだけに過ぎない。

 それが正しいのかは別として、効果が出ているのは間違いない。計算と戦術とは別の所、野生の勘に似た何かで判断している。


 この領域に至るには、劇的な経験以外では試行回数を増やすしかない。とにかく経験を積み続けて、知見を広げ続けるだけ。

 しかしそこまでやったとしても、特に変化は生まれない場合だってある。結局は何が正しくて、何が間違いかなんて誰にも分からないのが真相だ。

 最後まで立って居た者が勝ちだと言ってしまえばそれまでで、論理的な議論すらも現実が全てを吹き飛ばす事だってある。

 つまり何を言った所で、正しさを決める力を持つ者こそが正義だ。そうであるからこそ、ホテルのホールでズークを待ち続けたリーシュにズークは逆らう術がない。

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