第70話 ズークとマリー
ズークとリーシュがやって来たBランクのダンジョン。ムーエルトの回廊と呼ばれている、アンデッド系モンスターが蔓延る迷宮だ。
木造の寺院にある歩廊の様な、通路がひたすらに続くダンジョンである。より正確に表現するならば、朽ち果てたボロボロの寺院を思わせる見た目だ。
苔むした床や壁に、どんよりとした空気が漂っている。どういう理屈か分からないが、入り口となっている門を潜れば薄暗くなる。
突入した時間帯に関わらず、常に曇り空の午後を思わせる薄暗さだ。アンデッド系のモンスターが出現するには持って来いな空気感に包まれている。
そんなダンジョンの中を、2人の男女が悠々と歩みを進めていた。
「こんなダンジョンもあるのか」
「あれ? ズークはムーエルトに入った事ないの?」
「マリーと知り合った頃には、俺達Aランクだったからさ」
ズークがかつて所属していたパーティ、銀翼の風がカーロ共和国で活動していたのはAランクパーティだった時だ。
憎きモンスターを倒すべく、4人の若き男子達が集まって出来た新人パーティ。彼らはズークを旗頭に、数々の依頼を難なくこなし続けた。
銀翼の風に失敗なし、当時はそう言われ始めていた。実際に受けた依頼に失敗はなく、依頼の達成率が100%という異様な優秀さを誇っていた。
それだけにやっかみを受ける事も多く、色々と難しかった頃でもある。特に復讐以外に興味が無かったズークは、知らない他人に対して冷たかった。そしてそれは、相手が女性であっても同様だった。
「やたら絡んで来る魔法剣士が居てさ、あの頃は鬱陶しいと思ったよ」
「…………待って、まさかそれって」
「もちろんマリーの話だぞ?」
今でこそズークのハーレムメンバーだが、炎剣のマリーと呼ばれる程に強かった彼女とズークの出会いは最悪に近かった。
他国から来た新参の集まりが、カーロ共和国の冒険者ギルドで目立ち始めた。4人の実力でAランクパーティに登り詰めたが、その詳細はまだカーロ共和国ではマイナーな話題だ。
銀翼の風がどれだけ優秀であるかは浸透していなかった。正確な情報を持っている冒険者ギルド側が幾ら説明しても、永き闘争が続いた歴史を持つ傭兵の国では受け入れられない。
経歴や肩書ではなく、実力で示すのがカーロ共和国の国風文化だ。それ故に当時のカーロ共和国の冒険者ギルドで、最高峰の魔法剣士だったマリーはやたらとズークに絡んだ。
口を開けば勝負しろ、決闘を受けろの繰り返し。復讐にしか興味が無かった当時のズークは、マリーを嫌ってすらいた。
「しつこく勝負を挑まれて、面倒だったなぁ」
「そんなの模擬戦をやれば済むだけでしょう?」
「あの頃はそれすらも面倒だったんだよ」
両親を含めたレグレット村の住人達と、初恋の相手であるミーシャ。その全てを失った怒りと憎しみが全てだった頃のズークは、復讐以外に興味が全く無かった。
やたらと突っかかって来る者達が理解出来なかった。だからこそズークは、しつこく食い下がるマリーが面倒だった。
相手にするのも面倒で、関わりたくないとすら思った。そんなギスギスした関係が続いたのは、一時的な話に過ぎなかった。
ズーク達銀翼の風が追い続けた、ヘルハウンドの消息が掴めた時にそれは起こった。討伐に向かいたい銀翼の風を追いかけて、マリー達冒険者達が後を追いかけた。
他国の連中にデカい顔をされたくはない。始まりはきっとその程度に過ぎなかった。
「だからって適当な生活が、許される理由にはならないわよ?」
「もちろんだ、それぐらい分かっている」
「本当かしらねぇ?」
ただの新参パーティに過ぎないと。カーロ共和国の冒険者達は銀翼の風を最初は見下した。所詮は傭兵業が主要産業になる国とは違うのだと。
しかしズーク達は、カーロ共和国でも次々と依頼を成功させていく。やっぱり他国でも依頼の達成率は変わらず、100%を維持し続けた。
だからこそ面白くないからと、反発する者達が現れる。ズーク達を相手に、決闘を申し込むのは当たり前となっていた。
こうなって来ると傭兵達も意識を向け始める。自国の冒険者達が、隣国の冒険者達に負けているなんて認められない。
だからこそマリーは何度となくズークに挑み続け、敗北を繰り返した。だからこそマリーは、次第にズークに惹かれて行った。
けれどもその当時のマリーは、素直になれずに気持ちを伝えられなかった。ズークを好きになってしまったのに、無駄に意地を張り続けた。
しかしそれも、終わりを迎える時が来た。ズークを達がSランクモンスターを討伐し、一躍有名人となり始めた。
それが信じられなかったマリーは、疑うあまりズークの下を訪れた。その結果マリーは、ズークを相手に本気で恋をしてしまう。
ここから始まるズークとマリーの関係は、甘く切ないものだった。紆余曲折を経て、遂には肉体関係を持つズークとマリー。
そうして関係が続く過程で、マリーとの間に子供が出来てしまった。それがズークとマリーの間に起こったアレコレの結果だ。




