第69話 副収入を得よう
カーロ共和国の首都、アディネラードの高級ホテルでズークは宿泊している部屋で朝から寛いでいた。
自分の置かれた状況を考えれば、のんびりしている場合ではない。暇な時間が出来たのであれば、労働に勤しむべきである。
しかしそれは普通の人間の思考であり、ズークの様な男にその様な殊勝な考えなどある筈がない。
頼んだルームサービスで朝食済ませて、穏やかな時間を楽しんでいた。この光景だけを見れば、お高いホテルで朝から優雅に過ごす勝ち組の図。
だが実際には、高額な負債を抱えた債務者である。そんな労働意欲に欠ける愚かな男に、許された休暇などありはしない。
「入るわよズーク!」
「リーシュか? どうした?」
「さあ、働きに行くわよ!」
向かいの部屋に泊まっている冒険者仲間で監視役、Aランク冒険者のリーシュがズークの部屋に突撃して来た。
リーシュの行動理由はシンプルで、友人の為にもこの男に可能な限り稼がせるのが目的だ。
異性としては相手にされていないのに、諦めていないこの男はリーシュを相手にノーとは言わない。
彼女もそれを分かっているからこそ、こうして強引にズークを連れ出す事が可能となる。
好みの女性に手を引かれてしまったら、ホイホイと着いて行くのがズーク・オーウィングという残念な男の性であった。
文句は言いながらも、決して全力で抵抗する事はない。
「行くって、今からどこに?」
「ここからそう遠くない土地に、Bランクのダンジョンがあるのよ」
「えぇ~~また微妙な行先だな」
2人の実力を思えば、Bランクのダンジョンなんて大した難易度ではない。斥候役を雇う必要性すらなく、たった2人でも踏破は十分に可能だ。
歯ごたえは無いかも知れないが、得られる収入は2人だけなら悪くない額になる。借金額がそれなりに減って来た今なら、当初ほど効果は薄くない。
借金が10億だった時に得る500万と、5億の時に得る500万では割合が文字通り1桁違う。
ここまで減って来た今ならば、完済に向けての大きな一歩となり得る。指名の依頼をこなしつつ、合間に挟む副収入としては十分過ぎる報酬だ。
特にBランクのダンジョンであれば、2人で踏破してしまえば1人500万から1000万マニー程度の期待値がある。
運による変動が大きいけれど、短期間に稼ぐには丁度良い。
「ズークって、暫く暇なんでしょう?」
「まあ、本格的なリハーサルは1週間後だな」
「よし、じゃあ最下層の踏破まで行くわよ!」
距離的に行き帰りがトータル1日。4~6日以内に踏破してしまえば、十分な成果と共に本命の依頼もこなせる。
リーシュの方は大して金銭は必要としていないけれど、カーロ共和国の名産品や最新のエステ等に興味が湧いた。
傭兵達が集まる国だからと言って、何も武骨な商売ばかり固まるとは限らない。むしろ逆で、気前の良い男性客の為に女性達の美しさが求められる。
その様な関係から、カーロでは独自の美容文化が発展して来た。裕福な国であるからこそ、新しい高級エステが定期的に生まれる。
たまたま見掛けたエステの一部に、リーシュは興味を持っていかれた。ローン王国最強格の剣士とは言え、彼女とて若い女性だ。
美容に関する商売にも、当然ながら興味関心はある。貯蓄で十分賄えるけれど、かと言って散財は危険だ。それなら使う分以上に、稼いでしまえば良い。
「何でそんなにやる気なんだよ?」
「女性の秘密を探るのは、バッドマナーよ」
「ああそう。まあ何でも良いけどさ」
この状態のリーシュに何を言った所で、意味はないとズークは判断した。男女の関係ではないけれど、それなりに長い付き合いがある。
これが余計な口出しになるのか、そうでないのかぐらい流石にズークでも区別がつく。
むしろそう言った女性に対する、ある種の察しの良さがないとハーレムなんて築けない。相変わらず無駄な所で優秀さを発揮し、肝心な所ではおバカな男である。
今更ズークにバランスの良さを求めるだけ愚かだが、本当にどうしてこう極端なのだろうか。天は二物を与えずという言葉があるとは言え、あまりにもアンバランスだ。
「それで、行くのはどんなダンジョン何だ?」
「アンデッド系のモンスターが中心ね」
「ああ、だから俺なのか」
ゾンビやスケルトン、死霊などを纏めてアンデッドと呼ぶ。共通しているのは、一度死んだ生物が何らかの要因で蘇った結果生まれるモンスターだ。
何故アンデッドしかいないダンジョンが、こうして出来るのかは不明のままだ。
世間一般ではそういうモノだと割り切っている冒険者が大半である。しかし生物学者達の間では、永遠の議題となって議論が続いて来た。
どこかに生前のモンスターが生まれる場所があるのではないか、アンデッドだけを生むモンスターが居るのではないか。
いまいちハッキリとしない意見が、生まれては消えて行く。何であれお金を稼ぎたい冒険者にとっては、わりとどうでも良い要素だ。
そしてアンデッドは聖属性魔法が弱点であり、ズークは高い聖属性の適正を持っている。
つまりこれから始まるのは、楽勝でバタバタとアンデッドを倒せる高位冒険者2名による蹂躙だ。
リーシュによって強引に連れ出されたズークは、ただ魔法を垂れ流す機械として働く事となる。




