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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第68話 分かり易い悪役

 マネー大陸には様々な裏組織達が暗躍している。カーロ共和国のロ・コレクトの様に大儀を持つ組織もあれば、ただ極悪非道なだけのならず者集団だって少なくない。

 その中の1つが、『強欲の螺旋』と名乗っている裏組織だ。どこからか現れた者達が集まって出来た組織で、本拠地は不明だと言われている。

 あらゆる国に手を伸ばしては、裏社会で暴れ回って来た。法の穴を突いた契約で金品を騙し取ったり、捏造した書類で土地の権利を強引に買い上げたり。

 被害に遭った人々は決して少なくないのだが、その地の権力者に上手く取り入って追求を躱す。


 結局被害者は泣き寝入りしか出来ず、強欲の螺旋に所属する者が裁かれる事は無い。そうやって好き放題やって来た彼らに、対抗する者達が現れた。

 それがラドロン率いるロ・コレクトであり、奪った筈の金品を盗まれ取り込んだ権力者は失職する。

 彼らは真っ向から対立しており、強欲の螺旋はカーロ共和国の裏社会を牛耳られずに居た。

 そんな悪人達を纏め上げるリーダー、組織のボスである男が拠点の私室でワインを飲んでいた。

 右頬に十字の傷跡を持つ、厳つい顔つきの中年男性に向かって若い男が必死で訴える。


「ボ、ボス! これは何かの間違いで!」


「はぁ……俺の部下に使えないヤツは要らねぇよ」


「まっ、待って下せぇ! 次こそ、次こそは!」


「目障りだ、連れて行け」


 がっしりとした筋骨隆々の男性が、若い男を引きずって部屋を出て行く。連行された若い彼は地上げに失敗してしまい、そこそこの損失を出してしまった。

 その結果粛清の対象となり、容赦なく切り捨てられた。部屋に残されたのは、2人の男性。厳つい十字傷の男性と、執事服を着ている年老いた男性だ。

 十字傷の男は強欲の螺旋を纏め上げている組織のボスであり、デモニオという名前を持つ40歳の男性だ。

 執事服の老人は、彼の補佐をしているアゼジーノ。60代だが良く鍛えられた肉体を持っており、純粋な戦闘力ならデモニオに次ぐ組織のナンバー2だ。

 今でこそ歳に勝てず、全盛期ほどの戦闘力はない。しかし40代までは、優秀な暗殺者として活躍していた男である。


「デモニオ様、例のマージャン大会ですが」


「ああ、アレか」


「うちの代打ちが予選を突破しました」


 今回カーロ共和国の裏社会で行われる、裏レートマージャン大会。その規模は大きく、殆どの裏社会に生きる者達が参加する。

 組織として成立している集団だけでなく、個人で活躍している者達も集まって来ている。表社会の冒険者に例えれば、BランクやAランクに匹敵する個人もそれなりに居た。

 強欲の螺旋も当然参加しており、雇った代打ちが予選を突破し本戦へと出場を決めていた。


 もちろんデモニオもこの大会が行われる理由を理解している。裏組織の代理戦争が、このマージャン大会である。

 デモニオもそれが分かっており、今更とやかく言うつもりは無い。ただそれはそれ、これはこれだ。

 ラドロン率いるロ・コレクトによって齎された損失と、その恨みは無くならない。


「あの若造に、これ以上調子に乗らせるなよ」


「もちろんでございます」


「所詮はガキのお遊びだと、分からせてやれ」


 デモニオは盤外戦術も平気で行う男だ。この様なマージャン大会であるならば、相手の代打ちを物理的に潰す事も視野に入る。

 今回もそれで分からせてやるつもりでデモニオは考えていた。しかしここで、彼にとっての不運が訪れる。

 普段の装備だけなら駆け出し冒険者の様で、だけど何処か見覚えのある人物。ただ纏う雰囲気だけなら強者なのに、頼りない雰囲気も併せ持つ。


 だからこそ鉄砲玉達は、相手の技量を見誤って失敗を繰り返す。Sランク冒険者であり、今話題の男がまさか代打ちをやっているとは普通思わない。

 余程の借金でもないと、裏レートマージャン大会に参加する理由が無いのだから。そう、普通ならこんな大会にSランク冒険者は参加しない。

 だけど諸々の事情も合わさって、とある男が参加した。ロ・コレクトの代打ちなんて、簡単に排除出来るとデモニオは考えていた。しかし何故か、思った通りに事態が進まない。


「どうなっている! もう開催まで20日だぞ!」


「余程腕の立つ代打ちを雇ったのか、良い結果は出ておりません」


「チッ! あの若造が! 調子に乗りやがって!」


 強欲の螺旋を悉く邪魔をするロ・コレクト。ここで痛い目を合わせてやろうと考えたのは両者とも同じ。

 そこだけは変わらないけれど、決定的な違いがあった。それはラドロンが選んだのは有象無象ではなく、確かな実績を持つ男だった事だ。

 マージャンが上手いだけでは足りず、ただ腕っ節が良いだけでも足りていない。裏社会で少々顔が効くという程度ではなく、表社会で誰もが知るレベルの男を起用した。

 裏社会の住人達は、まさかこんな大会に本物のズーク・オーウィングが参加する訳がない。そんな常識的な思考をしてしまい、真実に気付く事が出来なかった。

 バカみたいな理由で高額な借金を抱えたSランク冒険者が、この裏レートマージャン大会に出場しているのである。情けない事に。

デモニオはスペイン語で悪を意味する単語です。

アゼジーノは同じくスペイン語で、asesino=暗殺者です。

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