第63話 カーロ共和国の歴史
世界観設定回です。興味がない人はスルーしても問題ありません。
カーロ共和国が建国される切っ掛けとなったのは、とある男の暗躍が背景にある。
当時は紛争と軍事衝突の繰り返しで、小国同士の熾烈な争いが続いていた。度重なる歴史的対立と憎しみ、厳しい現実が常に小国群に降りかかる。
周囲で蠢く大国の思惑も渦巻いており、簡単に解決するのは不可能に思えた。そんな厳しい状況に置かれていた小国群の1つに、奇跡的に生まれたとある子供が居た。
父親は戦死し、母は貧しい農村の生まれ。どうにかこうにか出産までは至れたものの、村は貧しく生まれた赤子を育てるのも厳しい状況。
「……心苦しいが、この子に割く余裕がない」
「そんな!? 村長!」
「分かってくれ、どうしようもないのだ」
子供が生まれても、大人になるまで育てるリソースがこの村には無い。食料は常にギリギリで、最早新しい命が増える事の方がマイナスになってしまっている。
本来なら次世代に繋いでいかないと滅ぶしかない。子孫繁栄こそが生命の本懐であるのだが、この紛争地域ではその理屈が通らない。
限界ギリギリの生活を強いられた環境においては、日常生活の維持ですら難しい課題となってしまう。悪い事の象徴として、現状維持しか出来ない状況が挙げられる。
発展せず未来がない、ただ消耗を続ける日々。進化や進歩に繋がらない悪循環の代表例として、良くやり玉に挙げられる。
だけどそれは、平和な環境に生きている恵まれた人間の価値観でしかない。明日を生きる希望すら無く、今日食べる食料すら怪しい最悪の状況下ではそんな正論は何の価値もない。
「……ごめんね……うぅっ……ごめんなさい」
苦労して生んだ赤子すらも、養う余裕がない紛争地帯の村。限界まで追いやられたこの農村でも、口減らしを行う以外に明日を生きる事が出来ない。
村人同士の殺し合いこそ起きずに済んでいるものの、いつ暴走する者が出るか分からない緊張状態。
だからこそ捨てるしかない幼い命は、モンスターも済んでいる村から近い森に赤子が捨てられた。
本来ならこのまま死ぬしかないか弱き生命。しかしこの赤子は、普通の赤子では無かったのだ。
かつて地球と呼ばれる惑星で、20年と少しの人生を歩んだ前世を持つ赤子だった。ここで簡単に2度目の人生が終わってたまるかと、出来うる限り足掻いて足掻いて足掻き抜く。
モンスターに拾われる形でどうにか赤子時代を生き抜き、自らを鍛えて力をつけ続けた。単純な戦闘力だけならSランクモンスターすらも凌ぐ領域にまで至った。
彼を拾ってくれたモンスター達も、彼のお陰で更に強力なモンスターへと進化してみせた。この紛争地帯を生き抜く術を得た彼は、産みの親を迎えに行く事に決める。
彼は自分を捨てざるを得なかった母親を、一切恨んではいなかった。彼は前世において、親より先に死んでしまった事を酷く悔いていた。
だからこそこの人生においては、絶対に親を大切にするのだと心に決めていた。母親を迎えに行った彼の目の前に飛び込んで来たのは、生まれ故郷が戦火に巻き込まれた最悪の光景。
辛うじて母親を救出する事に成功はしたが、このままではいつか自分の暮らす森も無関係ではいられなくなる。
人間が領土拡大を求めて、攻めて来てしまえば戦いは避けられない。しかしだからと言って、彼は全てを相手に戦争をしようとは思えなかった。
彼が前世で積み重ねた人生が、戦争という行為への嫌悪感を強く募らせた。そんな彼が選んだ道は、最小の犠牲で最高の結果を生む未来。
最低限の犠牲で全てを終わらせ、この地域全体の紛争を終わらせる。紛争を主導している者達をこの世から消し去り、平和な国を作り上げる。
けれども彼は、自分に国王が務まるとは思えなかった。だからあくまでも暗躍に留めて、新たな王に相応しい人間を探し求めた。
結果としてカリスマ性に溢れた若き戦士と知り合う事が出来たので、全てを終わらせる為の暗躍を開始する。
紛争の原因となっている者達を影ながら粛清し、自分達は分かり合える存在であるという世論を形成していく。
もちろんそれは簡単な道のりではなく、辛く厳しい日々が続いた。しかしそれでも、彼は自らの意思を貫き続けた。
育ての親であり家族でもあるモンスター達と、産んでくれた母親の為に奮闘を続ける。そして遂に至った、永きに渡る紛争の終結とカーロ共和国の誕生。
森に捨てられた赤子が、30年掛けて成し遂げた偉業。憎しみ合う小国群を纏め上げ、新たな王の誕生を迎えた。
彼は決して民衆の歴史認識に名を残す事はなかった。実際のところ現在のカーロ共和国に彼の名前を知っている者は殆ど居ない。
カーロ共和国を建国するにあたって、彼が望んだ通り王族だけが知る影の立役者として記録された。王族だけが閲覧を許された歴史書に、彼の名前は刻まれている。
ただの貧乏な農村部に生まれながら、強力なモンスターと心を通わせ無類の強さを誇った初代国王の親友として。
そして彼が、第1回アディネラード闘技大会を企画した初代運営委員長だという事実も国民達は誰も知らない。ただ王族だけが知る密かな真実として、今も変わらず語り継がれている。
モフモフ系と暗躍無双をした人が過去に居たってお話でした。




