第62話 闘技大会の打ち合わせ
マリーの家でリーシュと3人で夕食を楽しんだ日の翌日、ズークはマードックと共に闘技場の会議室に居た。
これから闘技大会で行うエキシビションマッチについての、本格的な打ち合わせが始まる。
アディネラードの闘技大会では、このエキシビションマッチが重要なイベントだ。代々続く注目の1戦で、毎回有名な戦士達が白熱した戦いを披露して来た。
今回はその華やかな役割を担う1人として、ズークが選ばれたわけだ。他にもっと良い人選があったと思われるが、悲しいかなこの男は戦闘だけは有能だ。役に立ててしまうから困ったものだ。
「リハーサルと本番では、こちらの専用装備を使用して頂きます」
「…………なんだ? この筒?」
「あ、これですか? 実は剣なのですよ。ちょっと持ってみて下さい」
マードックの指示に従って、銀色の小さな筒を手に持つズーク。剣というだけあって、普通の剣と同じ様に両手で持てる程度の長さをしている。
魔力を込めると刀身が形成されるというので、ズークが少しだけ魔力を込めた。するとブォンという音と共に、輝く刀身が筒から伸びた。
マードックの説明では、込めた魔力の量に合わせて刀身が伸び縮みする仕組みらしい。最大で2メートルまで刀身を伸ばす事が可能となっている。
魔道具の一種であり、かつて第1回大会を開催した運営の者が製作した代物だ。
この剣で斬り結ぶと激しいエフェクトと音が出る様になっていて、陽が落ちて暗くなった会場で見応えのある戦闘が出来るという。
「それでこの変なマスクとマントは何だ?」
「あ、これも魔道具なんですよ」
「ふーん。こっちは旅人っぽいのに変なの」
用意されていた衣装の片方が、不思議な形状の黒いマスクと黒一色の衣装が並んでいる。
もう片方は良くある旅人風の衣装だったので、どういう組合せなのかズークには理解出来なかった。
そちらも第1回大会を開いた運営の製作だという。この衣装を着ていれば、同時に使われる剣で斬られても怪我をしないらしい。
エキシビションマッチにピッタリの性能をしているものの、やや癖の強い衣装の組合せだとズークは感じた。
装備が用意されているというのはこう言う事かと、納得しておく事にしたズーク。
全く金が無い今、相応しい装備を用意出来ないので多少変でもそうするしかない。
「それで、俺は誰と戦えば良いんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! 幻影剣の異名を持つルーカスです!」
「ああ~、あの人か」
対戦相手はズークと同じSランク冒険者で、幻影剣と呼ばれる切っ掛けとなった時属性の魔法剣士だ。
ズークの刀身に魔法を纏わせる魔法剣とは違い、時間経過で消える幻の刀身を複数生成して戦う戦闘スタイルだ。
雨の様に降り注ぐ時属性の刀身は、相手を斬り刻んだ後に幻影の様に消え去る。
その光景を見た人々が幻影剣と呼ぶ様になり、10年前にSランク冒険者にまで上り詰めた。
ズークと同じ様に若くして冒険者の頂点に立ち、今もなお活躍を続けている30代の男性だ。
髪色こそ平凡な茶髪だが、渋みのある彫りの深い顔立ちが人気を博している。ズークとはまた違った優れた容姿の持ち主だ。
当然ながら金銭感覚がちゃんとしているので、どこかの阿呆の様に借金など抱えていない。
「話してみたくはあったんだよな」
「お会いした事はないのですか?」
「機会が無くてさ」
同じ魔法剣士として、少し話してみたいとズークは思っていた。ただ相手が男性だったので、女性よりも優先度がかなり低かったのだ。
機会がないというよりも、興味が非常に浅かっただけに過ぎない。ただズークとしては珍しく、話してみたいと感じた男性ではある。
戦闘スタイルが近い為に、今後の参考にしたいという欲が少なからずあった。戦闘については一応真面目なので、この方向性でなら興味を示せるらしい。
Sランクモンスターの討伐数でもルーカスの方が上で、現在2位の立場にある。色んな意味でズークの大先輩と言えた。
「現在のSランクモンスター討伐数が2位と3位ですから、注目度は滅茶苦茶高いのですよ」
「そんなもんかねぇ?」
「既に国内での反応は上々ですよ!」
Sランクモンスターを討伐するというのは、それだけで非常に高い名声を得られる。
こんなバカみたいな理由で借金を抱えたズークであっても、その事実と功績だけは変わらない。
中身がアホでバカでカスであろうとも、世界中で高い評価を受ける事が出来る。
実際ここ最近はズークの話題が世界中を巡っており、闘技大会を観に行きたいと考えている民衆は増加を続ける一方だ。
約1ヶ月前に急遽ズークを呼ぶ方向に舵を切ったマードック達だったが、この変更が上手く作用しチケットの売れ行きは劇的に増えている。
是非とも2人が戦う姿をこの目でと、高い旅費を払ってまで観戦に向かう貴族達も大勢いる。
宣伝の為に大陸中に向けて、長距離通信を使用してまで告知した大会運営の思惑は大成功だった。
それだけの期待を受けているズークだったが、既に頭の中はマージャン大会の事で一杯である。
本当にこれで良いのか? という疑問は尽きないが、打ち合わせは順調に進んで行った。
地球人が現代知識チートをやっていたら、1人ぐらいは絶対にライト〇ーバーを作るだろうって。
あと主人公の名前がズークですし、全てが終わっている〇ーク的な感じで。




