第6話 これでも人類最強クラスなので…
ズークが本来目指していた狩場であるアテム大森林の近くに、木で出来た原始的な砦があった。
そこにはアテム大森林の奥地から、森の外に出て来たオークの集団が居た。
3日ほど前からここを拠点とし始めた集団であり、ここから一番近いアブサー村に被害が出ていた。
たまたま稼ぎに来たズークが通りかかり、攫われた女性達を助けにやって来たのが5分程前だ。
丘の上から砦を観察していたズークは、大体の戦力と配置を確認した。
(規模は小さいが、キング入りの集団か)
この集団を組織しているのは、群れの長であるオークキングだ。通常のオークは身長が2メートル程であり、大きな個体で3メートルに届く事がある。
それがオークキングとなれば4メートルに届き、通常種よりも強靭な肉体とそれなりの頭脳を持つ。
ただのオークであればDランクの冒険者パーティーでも十分討伐が可能な強さだ。
しかしキングとなると最低でもBランクの冒険者パーティーが必要だと言うのが一般的だ。
それもバランスの取れた前衛と後衛、サポート要員も含めた6人ほどの人数が理想的とされている。
CランクやDランクは敗北確定で、最低ランクのFランク冒険者など瞬殺されてしまう。それだけ強力なモンスターであると言える。
(つってもなぁ。キング程度じゃ大した金にならないなぁ)
あくまで脅威と感じるのは普通の冒険者や一般人の話だ。Sランクの冒険者であるズークにしてみれば、大した金額の稼げない微妙な相手だ。
現在彼が抱えている借金額を思えば、オークキングでは雀の涙でしかない。取り巻きを含めても、ズークが没収された愛剣1本にすら遠く及ばない。
あくまでBランク冒険者までなら大物なだけで、Aランク以上の冒険者であれば微妙な獲物である。
冒険者のランクには大まかな基準があり、FからEまでが下級扱いでDとCから中級だ。ではBランクはと言うと上級冒険者扱いであり、普通の人間が辿り着ける最大のランク。
ならAランクはと言えば、限られた者だけが到達可能な最上位冒険者と定められている。
つまりズークの元パーティメンバーも相当な実力者であった。ではSランクはと言うと、更にその上を行く超越者だけが至るランクだ。
(オマケはオークメイジが4匹か。まあそれは良いとして、どう攻めるかね)
この世界では魔法や剣技などの戦闘技術を、スキルと言う呼称で呼んでいる。
スキルという呼称もまた異世界の人間が持ち込んだ呼称で、スキルと言う呼称が使われ出す前はアーツと呼んでいたとされている。
ただしその呼称も異世界人が持ち込んだとの説があり、この世界本来の呼び方がなんだったのかは今では誰も知らない。
長い歴史の中で失われた伝承や技術は大量にあり、何が異世界由来のモノで何が元々あったモノかは判別が難しい。
そんな現在スキルと呼ばれている戦闘技術の数々は、下位・中位・上位の基本3段階に分類される。
普通の人間には体得出来ない最上位も存在しているが、それは一部の存在しか扱えない。
そして基本3段階のスキル群は、その段階に見合った装備がないと正常に使用出来ない。
ズークが使用する魔法剣は、主に炎や雷等を剣に纏わせたり飛ばしたりする魔力を用いる剣技の事を指す。
しかし発動体の付いていない安物の剣では、刀身に纏わせるのが限界だ。
発動体には使用者の手元から離れた魔法の維持と、目標まである程度の誘導をさせる効果がある。
また広範囲に渡って、回復魔法等を使用する際にも発動体が必要だ。それだけでなく、各種属性の特徴を増幅させる効果も持っている。
なにより発動体を使用せずに魔法を使っても、その多くは霧散するか十全に効果を発揮しない。
一方でドラゴンの様に、生まれながらにして体内に発動体の効果を持つ器官を有している場合は自由自在に魔法を扱える。
(こんな中古の安物じゃ、使える魔法剣は限られているからなぁ)
ズークが現在装備している銅の剣は、初心者用の中古品。Fランクの駆け出し冒険者が使う代物だ。
本来所持していた装備の大半を返済に充てられてしまい、まともな武器は他にない。
初心者用のこんな安物では、中位以上の魔法剣を使えば一度で壊れてしまう可能性が高かった。
それにズークの筋力を思えば、下位の剣技であっても長くは使うのは厳しい。
使用者の能力やスキルに見合った、十分な耐久性のある高級品でないと全力では戦えない。
この剣はオークキング用と割り切って、最初は素手で行くかとズークは決める。
「うっし、行きますかね」
ズークは丘を駆け下り、全速力でオークの砦に突撃する。
高速移動でありながらも無駄な音を立てる事なく駆け寄り、門番をしている2匹のオークに一瞬で近づいた。
突然目の前に人間が現れた事に驚く1匹目のオークは、狼狽する暇もなく木製の棍棒を持った右手をズークの蹴りで砕かれる。
メキメキという骨の折れる音がオークの腕から響き、思わずオークは棍棒を手放してしまう。
激痛に叫び声を上げようとしたその瞬間に、ズークに奪われた1メートル近い大きな棍棒が顔面に叩きつけられた。
オークの使う棍棒も、ズークからすれば耐久力に不安しかない。剣技を使わず、あくまでも純粋な殴打で敵を処理する。
瞬く間に味方を殺された2匹目のオークは、状況に混乱してまともな対処が出来ない。
「ブ、ブモォ?」
「はい2匹目っと」
「プギッ!?」
圧倒的な戦力差に、成す術もなく門番の2匹は頭部を砕かれ地面に倒れ伏した。
まともに悲鳴も上げさせない強襲で、砦の内部にいるオーク達は異変に気が付いていない。
堂々と正面から砦に侵入したズークは、真っ先に魔法が使えるオークメイジを狙う。
その筋力を活かして2匹目からも奪った棍棒を投擲し、監視用の簡素な櫓にいた1匹目のオークメイジの頭部を粉砕。
すかさず1本目の棍棒も投擲し、反対側の櫓に居たオークメイジを同様に撃破。遠距離攻撃が出来るのは残り2匹のオークメイジのみ。
一瞬の殺戮劇とは言え、流石に他のオーク達も襲撃に気付く。
「ブモォォォォ!!」
「さて、サクッと終わらせようか」
続々と集まって来るオーク達を相手に、ズークは子供の相手でもするかの様に余裕な態度を見せている。
実際戦力差で言えば、大人と子供よりも酷い。ゾウとアリほどに差が開いた戦いなど、ただの蹂躙でしかない。
この程度は何でもないと言わんばかりに、ズークはオーク達を処理して行った。
せ、戦闘の時だけは有能なので…