第56話 19人目の恋人
カーロ共和国の首都であるアディネラードは、まだ共和国になる前に主戦場となっていた場所だ。
小国同士で大規模な戦争を続けていた頃に、多くの兵士達が命を落とした場所である。
普通ならばそんな場所に首都を作らないが、カーロ共和国の人々は敢えて国の中心にした。
戦没者達の墓ではなく、戦士達が命を懸けた聖地として扱っている。だからこその闘技場であり、先祖達を讃える闘技大会なのだ。
傭兵の多い国らしい考え方であり、闘志溢れる国民性が良く出た街でもある。1ヶ月後に始まる闘技大会に向けて、高い熱気と期待に包まれていた。
「お2人は大会終了まで、こちらのホテルをご利用下さい」
「ん? もしかして、宿泊費用は出してくれるのか?」
「当然じゃないですか! お2人のお陰で経済効果は爆上がりですし」
マードックが案内した高級ホテルに、大会運営持ちで宿泊出来る事が決まった。
リーシュはギリギリまで自分で払うと主張したが、結局はマードックに押し切られた形だ。
どうせ打ち合わせやポスターの作成、2人が映ったチラシの作成などで協力を頼むからと。
対価の要求があるのであればと、リーシュも一応は納得した。もちろんズークは一切躊躇いを見せなかった。
金がないのだからこれ幸いと受け入れた。請求書を貰う必要もなくなり、全てがズークにとって都合が良い。これはラッキーだったと上機嫌だ。
「それでは私はロビーで待っていますから、不要な荷物をお部屋に置いて来て下さい」
「すぐ戻って来ますね」
「行って来る」
大きな荷物はホテルマンに任せて、貴重品を置きにズークとリーシュは自分の部屋に向かう。
こう言った高級ホテルには、エレベーターと呼ばれる鋼鉄の箱が用意されている。
中に入って行きたい階のボタンを押せば、自動で運んでくれる仕組みだ。
魔道具の一種であり最上階へも一瞬で移動出来る上、移動する感覚を一切感じる事がない優れもの。
目的の階を押した次の瞬間には到着している。最上階の15階に到着した2人は、向かい同士の部屋が宛がわれていた。
室内は上質な大理石で作られており、ローン王国の王城に匹敵する豪華さだ。高級な木材で作られたタンスの中に、客用の小型金庫が入っていた。
小さいがこれも魔道具であり、簡単に盗む事は出来ない。見た目こそ小型だが、中身はアイテム袋と同じで結構な量を入れる事が出来る。
ズークは今使わない貴重品を金庫に入れてロックを掛けた。部屋の外に出てリーシュと合流し、再び1階に降りてマードックとホテルを出る。
「では案内致しますので、私に着いて来て下さい」
「しっかし、久しぶりにこの街に来たなぁ」
「アレ? ズークさん、この街は初めてじゃないのですか?」
「ああ。俺の恋人と子供が住んでる」
ズークが作った沢山の子供達、その内の1人とズークの毒牙に掛かった女性がこの街にも居た。
エレナとはまた別の女性であり、既に出産は終わっていて1歳になる息子の育児をしている。
20人を超えるズークに孕まされた女性達がこの世界にはおり、アブサー村の女性陣とエレナ以外はローン王国の外で暮らしている。
冒険者としてあちこちを周る中で、出会った女性達が各地に暮しているのだ。そしてその子供達も同様である。
無駄に生殖能力が高い男だけあって、その実績は凄まじい。現地妻があと18人も居ると思うと恐ろしい話だ。
「おやそうだったのですね! まさかズークさんのお子さんが、我が国に居たなんて」
「ズーク、それってマリーの事でしょ?」
「そうだよ」
「まさか、あの炎剣のマリーですか!?」
かつてズークと共に銀翼の風に所属していた魔法剣士、炎剣のマリーと呼ばれた女性が居る。
ズークと同じ魔法剣士であり、二つ名の通り炎属性の魔法剣が得意な勝ち気な女性だ。
短くまとめた炎の如き赤髪が特徴で、髪色が似たズークとは姉弟の様な関係だった。
血の繋がりは当然なく、親戚という事実もない。本当に偶然色々と似ていただけの女性である。
リーシュはマリーとも友人であり、同じ女性の剣士として仲良くしていたので良く知っていた。
だからこそリーシュは、まさか他の女性にまた手を出したのではないかと確認を取ったのだ。
結果闘技大会で優勝経験のあるマリーとズークの子供という、将来有望な存在にマードックが大喜びだ。
「いやー我が国の闘技大会はこれからも安泰そうですなぁ!」
「父親なんだから、もっと頻繫に会ってあげないとダメでしょ!」
「俺はそのつもりだったんだぞ? だけど今はこうなっちまっただけで」
この世界では王族貴族を筆頭に、複数の女性と関係を持つ男性は少なくない。それ故にリーシュとてその事自体に文句はない。
ただ自分は1人だけを愛してくれる相手が良いなと考えているだけで。
マリーが同意の上であった事もリーシュは把握しており、友達が幸せだったらそれで構わない。
ただし子供を作ったからには、ちゃんと父親をやれと言いたくもなろう。
そしてズークの回答は、全部お前の自業自得だろうとしか言えないもの。これではダメだとリーシュは判断を下す。
これから毎日マリーの元へ行かせようと硬く決意を決めるのだった。
追放されて借金を抱える前は、冒険も兼ねてハーレム構成員の元へと頻繫に行っていました。
まあだからって評価が覆る事はないのですけれども。




