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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第2章 幻想闘牌浪漫譚
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第55話 結局は下半身に直結する

 ズークとリーシュはカーロ共和国との国境で馬車を降りた。そこで2人を待っていたのは1台の魔動車(まどうしゃ)だった。

 維持費用が非常に高額である代わりに、馬車よりも速く移動出来る優れた移動手段だ。

 専用のタンクに魔力を込めておけば、魔法の使えない者でも動かせる大型の魔道具である。

 今回用意されたのは黒一色の5人まで乗れる標準的な魔動車であり、特殊な機能は特に付いていない。


 より高額な車両になると、複数の武装が搭載された特別仕様車も存在している。

 モンスターや盗賊に襲われても対抗出来るので、非常に理に適った乗り物だと絶賛されているがその分値段も上がる。

 なるほど異世界人達の世界では、これが普通なのかとウケが非常に良い。今回は武装の無い車だが、それなりに高価な代物だった。

 運転手がドアを開けて2人を車内へ導くと、高価な香水の匂いが漂っていた。


「内装も綺麗だし、結構高い車両じゃないかしら?」


「そうみたいだな。おお、シートがふかふかだ」


「ええまあ、ウチが持っている最高級品ですから」


 運転手の男性が反応し、自己紹介を行う。彼はマードックという大会運営の重役で、主に広報の責任者をやっている男性だ。

 ごく平均的な容姿をした30代で、ニコニコと笑顔を常に浮かべている。強いて挙げるなら細い糸目が特徴的だと言えた。

 それ以外は本当に平凡としか表現しようがない。頭髪も薄い茶色で良く見る短髪。声や喋り方に特徴があるかと言えばそんな事もない。

 ただ広報の責任者を任されているだけあって、話易い雰囲気が全身から出ていた。

 彼が以前からズークを招待しようとしていた人物らしく、今回こうして受けてくれた事を感謝している。


「いやーホント、受けて下さって助かりましたよ。おまけに金色の剣聖様までお連れ下さって」


「私は元々興味があったので」


「俺はまあ、色々と事情があってさ」


 事情もクソもズークがバカだっただけである。しかしそれはキャッシュ支部の評判に関わる問題なので、リーシュも流石に本当の事を言えなかった。

 スキャンダルと言うには十分過ぎる話であり、内容があまりにもおバカ過ぎる。同じ支部の冒険者として、よその国の人物にまでは知られたく無かった。

 まあそれはローン王国の庶民であっても、知られたい話では無いのだが。そんな事実を知りもしないマードックは、ただただ感謝を述べている。

 カーロでもリーシュは有名で人気のある女性だ。見どころ満載の大会になると彼は確信していた。


「有名人が多数参加! と宣伝して来ましたので、本当に助かりますよ」


「そんなに沢山有名人が出るのですか?」


「あ~~いやまあその、方便な所もありまして」


 多少の誇大広告ぐらいは当たり前に行われる事であり、闘技大会や剣術大会等では良く使われる宣伝文句の一つ。

 アディネラードの闘技大会と言えば、大陸でトップを争う規模を誇る有名な大会だ。そして大陸一という栄誉は、どの大会も求めている。

 それ故に各大会の関係者達は、自分の所が大陸一の大会なのだと宣伝合戦をして来た。そこでやって来た好機。

 今注目を集めているズークはもちろんの事、大きな剣術大会での優勝経験を持つリーシュも参加となれば大会に箔が付く。

 広報担当として、マードックが喜ぶのは無理もない。更に追加で宣伝を打たねばと、早速新しい宣伝文句を考え始める。


「ローン王国最強の剣士達が揃い踏み! いやいや、ローン王国で人気の美男美女が出場決定! とかどうですかね?」


「あの、あんまり過大評価をされても困ると言いますか」


「何をおっしゃいます! お2人は我が国でも大人気ですよ!」


 誰が始めた文化なのか、人気の冒険者や騎士などのグッズを売る商売がある。

 写真を複製して売るブロマイドや、透明の板に写真を転写したアクリルスタンド等様々だ。

 推し活と呼ばれている行為であり、自分の好きな人物のグッズを収集して楽しむ娯楽の一種であった。


 非常に恐ろしい事に、ズークのブロマイドやアクリルスタンドは人気の商品だという。

 そんなものを飾っていたら、金運を著しく失いそうだが今の所はそう言った被害は出ていなかった。

 呪いのアイテムと化してしまわない様に願うばかりである。


「今年の大会は大成功間違いなし! ウチが大陸一と呼ばれる日も遠くありませんね! ハハハハハ!」


「あ、あははは」


「楽しそうでなによりだよ」


 1人盛り上がるマードックの運転で、1台の魔動車が街道を駆け抜けて行く。

 馬車が3日掛かる距離を1日で踏破出来るので、首都のアディネラードまでは2日と少しあれば到着する。

 途中の街で宿泊も挟みつつ、3人で旅路を進めていく。大会の成功を確信したマードックが経費で酒を奢った為に、あまり乗り気でなかったズークも調子に乗り始める。

 2日目の夜にはこれまた経費で娼館を奢って貰い、リーシュから冷ややかな目で見られる事になった男達。


 王都を目前にして、物凄く微妙な空気が車内に漂っている。男達は異様に空調が効いている様に感じていたが、余計な一言を発しない様にただ黙って過ごした。

 リーシュの方はと言うと、どうして男性達はこうなのだろうかと呆れ返っていた。冷たい空気に包まれた魔動車は、非常に丁寧な運転でアディネラードに到着する。

 結局どこに行っても下半身で行動する男、ズーク・オーウィングは隣国の首都に舞い降りた。

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