第50話 やっぱりダメじゃねーか!
危機を乗り越えたローン王国では、今日も平和な日々が続いていた。
Sランクモンスターがすぐそこまで迫っていた事など、もう皆忘れてしまったかの様に明るい空気が広がっている。
王都であるキャッシュの街を行き交う人々は、誰も彼もが笑顔を浮かべて楽しく過ごしていた。
そんな日常を守り抜いた正義の立役者、またしても名声を高めたSランク冒険者が居る。
王都キャッシュの街にある高級ホテルの一室で、1人の男が革張りの高価なソファーに堂々と座っていた。
鮮やかな赤髪を短く切り揃えた、金色の瞳を持つ美丈夫だ。鼻筋の通った美しい顔立ちで、体格にも恵まれ厚い胸板を持つ。
言わずもがなこの男の名前はズーク・オーウィング。またもやSランクモンスターを仕留めたと、国中で話題になっていた。
後日国王から直々に褒美を与えられると専らの噂だ。そんな彼であるからには、当然モテまくっている。
美しい大人の女性達を侍らせて、楽しそうに会話をしていた。そんな彼の下に、激怒した銀翼の風に所属する3人がやって来た。
「どういう事だズーク!」
「おいおい、今度は何だよ? ごめんねお姉さん達、また後でね」
「えぇ~~早く来てね」
とてもそういう空気では無くなってしまったので、ズークは4人の女性達を一旦退室させた。
ズーク達はカラミティピークスとの決戦を終えて和解。冒険者としての在り方を取り戻したのだと、かつてのズークに戻ったのだとオルク達は考えた。
それならばもう一度やり直そうと、砦で酒を飲み交わしながら再びズークがパーティに復帰を果たした。
そこまでは良かったのだが、酒の席だったのでズークは重要な事を伝え忘れていた。
バカでアホでどうしようもない私生活のせいで、とんでもない額の借金を抱えている現状だ。
「8億ゼニーなんて借金はどうやったら作れる!?」
「いやぁなんか、出来ちまったよ。ハハハ!」
「笑っている場合か馬鹿野郎!」
真実を知らなかった3人は、ズークのパーティ復帰手続きを行う為に冒険者ギルドに赴いた。
そうしたらカレンに正気かと問われて訝しむオルク達。どういう事だと問い返すと、この場では説明し辛いからと2階の会議室へ。
そこで明かされたズークのアホでバカで、下らなさ過ぎる借金生活とこれまでの経緯。
このままパーティに加入させたら、ギルドのシステム的にオルク達まで返済に付き合う事になってしまう。
当然そんな事は許容出来ず、そのままホテルまで戻って来た結果が今だ。そりゃあ彼らもどういう事だと怒りたくもなる。
「お前がここまでバカだったとは思わなかった!」
「そんな言い方は酷くない? ほら、金は天下の回りものって言うじゃん?」
「回せてねぇだろ! 火の車が燃え尽きてるじゃねーか!」
何故冒険者になったのか。人々を守る為に戦う意思、それ自体は失っていないのだとオルク達は理解している。
しかし相も変わらず、金遣いの荒さは変わっていないらしい。しかもカレンの追加情報では、また孕ませた女性達が増えたとの報告もあった。
言うまでもなくアブサー村の乙女達である。先日キャッシュの街に到着したは良かったものの、お手付きとなった5人が順番に妊娠の兆候を見せた。
そのまま父親は誰かという話に移り、ズークである事が判明。医者から冒険者ギルドに報告が行き、現在その手続きをカレンが行っていた。
この後でアホでバカで下半身だけは優秀な、赤髪のカス野郎をシバこうと拳を握りながら。
「どうしてお前はそうなんだ!?」
「素晴らしい女性が世の中には沢山居るんだ、仕方ないだろう?」
「何も仕方なくねぇよ! 限度ってもんがあるだろ!」
これまでも数えきれない程に、ズークの貞操観念について注意して来たオルク達。
ここまで来るともうやっていられないと溜息が出てしまう。口座を分けて活動するのなら、まだ良いかと思ったオルク達だったが考えを改めた。
この調子ではまた何か厄介事を持って来そうだと直感的に感じた。彼らはズークが居なくても、生活するには十分過ぎる収入がある。
火力に欠ける部分はあるものの、それでもやっていけない程ではない。それに今のズークは生き方が滅茶苦茶過ぎて、そこそこのストレスも感じてしまう。
「よし、もう良い。やっぱ無理だズーク」
「え? 何が?」
「俺達は3人でやって行くから」
こうしてまたしてもパーティから追放されてしまったズーク。正式に加入をする前なので、追放と言うにはやや微妙か。
2体目のSランクモンスターを倒した今最もホットな英雄は、至極当然の理由で再び露頭に迷う事になってしまった。
報酬もまだ貰っていないので、手元に元気は無く何も出来ない。まあその報酬も渡されずに借金の返済に回されるのだが。
それにカラミティピークス戦で最上位魔法剣を使ったせいで、ギルドから借りた剣を壊してしまっている。
その分の弁償額は1000万ゼニーだ。Aランクが使う最高峰の品だと思えば妥当な金額である。
この後討伐の報酬と国からの褒美もあるとは言え、アブサー村の乙女5人分の生活費が引かれるので、またしても借金額が増えてしまった。
仕方ないからエレナの家にでも行くかと、ヒモ野郎がキャッシュの街を歩いて行く。
この男が借金を全額返済し終わるのは、一体いつになるのだろうか?
これにて1章は終了です。
■増えた借金:1840万ゼニー
■借金総額:8億7090万ゼニー




