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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第5話 ズークの美学()

 王都キャッシュから遠く離れた隣国との国境付近、強力なモンスターが多く生息している事で有名なアテム大森林という広大な森がある。

 ローン王国で冒険者が大金を稼ごうと思えば、先ずここが候補になる。ただし低ランク冒険者では話にならず、最低でもBランクは必要と言われている。

 Aランクでも奥地まで行くのは危険であり、その場合は複数のパーティーとの合同で行うのが常識だ。


 だがズークの様なSランク冒険者の場合はその限りではない。装備が貧弱な初心者用でも、ある程度稼ぐ事が可能だ。

 一応は労働する気になったズークが、アテム大森林に向けて街道を爆走していた。金がないので移動手段は徒歩しかない。

 そしてまともな魔法の発動体もないので、魔法で飛翔する事も出来ない。そうなると走る以外に取れる手段がない。


「あ~あ~めんどくせぇなぁ」


 尋常ではない速度で走り抜ける初心者装備の男。その姿に街道を行く人々が驚いて振り返る。

 だがそんな事に欠片も興味がないズークは、ただひたすら走り続ける。

 2時間ほど走り続けたズークの目の前に、家屋の大半を破壊されたボロボロの村があった。


 ここ数年はこの辺りに来ていなかったので、ズークもイマイチ名前を覚えていない。

 アブサーと言う名の村だが、ズークの記憶にはない。そう言えばこんな所に農村なんてあったなぁと思いながら、一度止めた足を再び動かそうとした。

 そんなズークに、村人と思われる若い男性が話し掛けて来た。


「あ、あんた、冒険者……だよな?」


「そうだけど。何か用?」


「初心者……いやしかし、あの速度が初心者に出せるか?」


 格好だけ見れば、ギルドで装備を借りた駆け出し冒険者に見える。

 だがとんでもない速度で爆走して来た事実と、纏う風格が若い村人を混乱させていた。

 彼らの村はとあるモンスターの襲撃に遭ったばかりで、冒険者ギルドにまだ依頼を出せていない。

 出来るだけ早く出したくても、ギルドがある様な街まで距離が遠い。その上、馬も殺されてしまっていて移動手段も無かった。

 このタイミングで冒険者と出会えた幸運に、村人の男は賭ける事にした。


「お願いだ! 助けてくれ!」


「え、嫌だけど。男なら自分で何とかしろよ」


 あまりにも素っ気ないズークの返答に、男は一瞬固まってしまった。まさか即答でそんな返答が返ってくるとは思ってもみなかった。

 それでも他に頼む相手が居ないので、村人の青年はなおもズークに食い下がる。


「ちょっ、な、なんでだ!? あんた冒険者だろ!?」


「そりゃ依頼として受けたのなら働くけどさ。アンタは幾ら払えるんだ?」


「そ、それは……」


 壊滅的な状況にある村で、支払い能力も低そうな若い農民の頼み。これは断られても仕方がない。

 冒険者は何でも屋ではないので、同様の回答をする冒険者は少なくない。

 ギルドを通さない無報酬の依頼を、冒険者が勝手に受けると後で揉める事が多い事は有名だ。

 経験の浅い冒険者なら善意で受けてしまう事もあるが、ズークは経験豊富なSランクだ。先ず受ける筈がない。

 それにズークにとっては、何より受けたくない大きな理由がある。それは彼にとって、どうしても譲れないもの。


「弱者で居たのはお前の責任だ。困った時だけ強者を頼ろうなんて甘いぞ」


「グッ……それは……」


「農民だって立派な仕事だ。だが、弱くても良い理由にはならない。しかも防衛手段を用意しなかったのもなお悪い」


 これはズークの人生経験から来る考え方だ。かつての自分がそうだったから、生きると言う意味を理解出来ていなかったから。

 強くならなければ、奪われる立場からは逃れられない。それはこの世界を生きて行く上で、とても重要な残酷な真実。

 冒険者になれとまではズークも言わない。でも守りたい何かがあるなら、弱いままで居るなと言うのがズークの持論である。

 それは非常に厳しい意見ではあるが、間違っているとは言い切れない。それだけ現実というものは過酷である。更にズークは自身の意見を述べる。


「女性や子供、老人ならまだ分かるがな。お前は若い男だ。強くなれる機会はあった筈だ」


「……」


 身体能力が男性よりも高くなり難い一般人の女性や、幼い子供や老人にまでズークはその意見を持ち出さない。

 だが若い男性の場合は話が別だ。自分もそうだったから良く分かっている。後悔する立場になってから、自分の弱さを嘆いても遅いのだと。

 かつてそれで、大切な人を失った経験がズークにはある。だからこそ、同じぐらいの年頃である男性には厳しい。

 今の強いズークがあるのは、弱い自分に嫌気が差したからだ。


「それでも頼む! オークが、村の女性達が攫われて」


「なんだよそう言う事なら早く言えよ! どっちへ行った?」


「……へ? あ、あっちだけど」


「オッケー任せろ! 待っていてくれまだ見ぬレディー達!」


 女性達が攫われたと聞いた途端に掌をドリル回転させるズーク。それまで見せていた強者としての威厳などもう何処にもない。

 主義も主張も簡単に捨て去った残念過ぎる男は、村娘達を救出する為に行動に移す。ズークにとって最優先事項は女性である。

 何があろうと先ず女性から。そんなズークの唯一褒められる点は、地位や美醜で女性を判断しない所だろう。

 分かり易い見た目や肩書ではなく、内面で判断するのがズークの美学である。そしてそれは見境が無いとも言えた。

 やっぱり良い所ではないかも知れない。ともあれズークは、爆速でオーク達の住処へと向かった。

アテム=ATMです。

無限に稼げる可能性があるという意味で。(なお強者限定)


そしてアブサー=absurdityの略で意味は不条理です。

いやー襲撃に遭うなんて不条理ですね。

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