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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第42話 エリオット・ノーラン

 鏡の前に立った俺の目には、いつも通りの蒼い髪に銀色の瞳をした仏頂面が映っていた。

 昔から代々ローン王国で、軍部の重鎮を務めて来たノーラン伯爵家。そんな家に長男として生まれた俺は、子供の頃から厳しい教育を受けて来た。

 王国騎士団の副団長を務めている俺の父は、それは厳しい武人だった。姉上は既に結婚して家を出ており、弟は領地の経営を任される事になっている。


 長男である俺は、父の後を継がねならない。だが俺は水属性しか適正がなく、3種類の適正を持つ父や弟に劣っている。

 弟は来年13歳で、この学園に入学して来る事が決まっていた。ここ最近の父は俺よりも弟に執着している様子で、俺は今の立場を失うのかも知れない。

 そんな俺は、ここ最近ずっとイライラしていた。とある素晴らしい先生と出会うまでは。


「おいエリオット、行かないのか?」


「すまない、すぐに行く」


「早く行こうぜ」


 トイレに来ていた友人と共に、剣術の授業へと向かう。1ヶ月近く前にやって来た、Aランク冒険者の有名人。

 リーシュ先生の授業は今じゃ大人気で、剣術の授業を取っていない生徒まで見学に来る者までいる始末。

 それが剣術を学ぶ為だと言うなら文句はないが、恥ずかしい事にただリーシュ先生が観たいだけなのだ。

 確かに先生は美しい女性だが、それは今重要な要素じゃない。彼女の優れた剣術こそが、最も注目されるべき所だ。


 怪我で休職中の前の教師は、正直言ってイマイチだった。普通の大人なんてこんなモノかと、ガッカリしていたのは事実だ。

 父親と比べたら大した強さではなく、男爵家出身の元騎士ではこの程度かと思った。二つ名持ちでもこの程度でしかないのかと。

 そこにやって来た、有名な女性冒険者。金色の剣聖とやらがどんなものか、見せて貰おうと思った。そして挑んだ模擬戦で、俺は惨敗した。


「あらエリオットとカール、今日も早いのね」


「「おはようございます!」」


「じゃあ悪いんだけど、いつも通り準備を手伝ってくれる?」


 校内で行われる剣術大会で使用する、闘技場の入り口で先生を待っていた俺と友人のカール。

 そしてやって来たリーシュ先生と、3人で闘技場の使用準備を始めていく。

 ここは本格的な戦闘訓練や、魔法戦闘の訓練を行う際に授業でも利用される。


 闘技場では特殊な魔法が使われており、リング上では怪我を負う事がない。

 その代わりに戦闘不能になるだけのダメージ判定を受ければ、勝敗が決まり勝者の名前が空中に表示される。

 そう言った特殊な設備があるので、点検には注意せねばならない。下手に手を抜けば、怪我をするのは俺達の方だ。


「こっちはオッケーです!」


「ありがとうエリオット!」


「先生―! こっちも大丈夫です!」


 準備を終えた俺達は、またリーシュ先生の下に戻って授業が始まるのを待つ。

 最近はより本格的な剣術を教えて下さっていて、実力を伸ばしたい俺にとって最高の授業だ。

 実際に戦場で戦った経験や、戦闘技術を教え頂けている。しかし残念な事に、もうすぐ代理教師としての期間が終わってしまう。

 最高の師と出会えたと思ったのに、この最高の時間は終わってしまう。父親とは全く違う育成方針が、俺にはとても為になった。


 こんな事も出来ないのかと、冷たい視線を向けてくる事もない。蔑みと侮蔑を露骨に見せる事もしない。

 そんなリーシュ先生は属性魔法の適正がない。だと言うのに、俺が知るどんな騎士よりも強かった。

 間違いなく先生は父親よりも強い。ローン王国最強の剣士という噂は、嘘では無かったのだと思い知った。

 彼女は確かに平民出身者だが、そんな事はもう関係ない。身分と強さには、関連性など無かったのだ。

 血筋に拘っていた俺が、間違っていたのだと気付く事が出来た。


「今日は皆さんに連絡があります」


「やっぱり、もうすぐ学園を去られるのですね?」


「違うわよ、その逆。もう1ヶ月だけ、延長になりました」


 先生が伝えた事実に、クラスメイトは大いに喜んだ、俺だって凄く嬉しい。だってまだ先生の授業が受けられるから。

 もうすぐ終わりだと思っていたのに、まだ続けてくれると言うのだ。お陰で俺は、見出し始めていた可能性に、また1歩近付く機会を得られた。

 水属性しか適正がない俺の、師事するべき相手。それは無属性のみで戦う、気高いく美しい剣士。

 彼女の教えをまだ受けられるのであれば、不出来だと見下す父親を見返せるかも知れない。

 それに今は、魔法の教師に魔法剣士でSランクのズーク先生も居る。彼の魔法剣に関する授業は、非常に参考になった。


「では先生! 本日もよろしくお願いします!」


「ふふ、エリオットはいつも前のめりね」


「ああいえ、すいません。つい力が入ってしまい」


 優しそうに微笑む先生が、俺にはとても眩しく見えた。確かに彼女は美しい女性だ、それは認めよう。

 学園に居るどのご令嬢よりも、俺には好ましく感じている。だけどそれはあくまで人としての話だ。

 俺が彼女と結ばれようなんて、土台無理な話だろう。俺では釣り合いが取れていない。剣士として、全く同じ領域に立てていないのだ。

 こんな未熟者が、これ程の剣士に憧れようなど烏滸がましい。先生と結婚をするのなら、相応しい相手でなければならない。

 そしてそれは俺ではないだろう。だがもし、俺が同じ領域に立てたのなら。王国最強と噂される程の剣士になれたのなら、その時はそんな夢を見ても良いのだろうか?

リーシュはこういう男の子と結ばれて欲しいですよね。どっかのアホと違って。

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