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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第40話 新入生の授業

 ズークに異世界人だとバレてしまった少年ノーマは、リーシュの方でも失態を演じてしまっていた。

 どれだけ鍛えたとしても、所詮は13歳の少年に過ぎない。昔のズークでも、Cランク冒険者程度の実力しか無かったのだから。

 しかし彼にはなまじ前世の記憶があるだけに、物語の様な活躍を望んでしまった。

 だからこその失敗であり、逆に学園側から要注意人物扱いを受けてしまう。


 同級生からも奇異の目で見られてしまい、平凡に過ごしていた前世の方が遥かに良い学生生活を送れていた。

 その事実がまたノーマを苦しめ、こんな筈では無かったのにと後悔していた。

 そして同時にズークやリーシュのせいだという、逆恨みの様な気持ちまで湧いてしまう始末。

 故に現在のズークによる魔法の授業でも、ノーマの態度は良くない。


「1年生の君達には、先ずは初歩的な事から学んで貰う」


「そんなのもう知ってるのに」


「既に習熟している生徒であっても、基礎を再確認するのは大事だぞ」


 ノーマのボヤキが入ったお陰で、似た様な事を考えていた一部の生徒も釘を刺される形となった。

 子供の知識で学んだ程度の基礎では、穴も多く教えた者次第では間違っている事もある。

 それらを正す意味もあるのだと、ズークに説明されては彼らも文句は言えない。


 人間性に難があるとは言え、ズークはこれでもSランク冒険者だ。殆どの生徒はその説明で納得していた。

 ただ1人、地球の知識を持つノーマを除いて。相変わらず態度は悪いままだが、ズークは特に気にする事もない。

 大人の女性にしか興味がないので、生徒にどう思われた所でどうでも良いからである。


「先ず最初は詠唱について。今では無詠唱が当たり前だ。しかしまだそのレベルには、達していない新入生が殆どだ」


(あ~あ~、俺は出来るのにさ)


「基本が分かれば誰でも出来る様になる。先ずは少しずつやって行こう」


 子供の間は呪文の意味を理解したり、結果起きる現象を想像したりするのが難しい。

 呪文に込められた意味と、魔法が組み上がるまでの流れを理解し切れていない者が大半を占める。

 だからこそ学園や冒険者ギルドを通じて学ぶ事で、発動のキーとなる魔法名を唱えるだけで発動できる様になっていく。

 優秀な魔法学園であれば、大体は1年程度で殆どの生徒が習得可能だ。

 全ての魔法は無理でも1年生が終わる頃には、下位の魔法であれば大半を無詠唱で発動出来るレベルに到達する。

 そこにはノーマの様な異世界人が編み出した、無詠唱習得法がベースにあり長い時間を掛けて最適化して来た。


「じゃあ先ずは、下位の魔法で良く使われる単語の解説をしていく」


「先生! それって全属性分やるのですか?」


「いや、最初は全属性で共通する部分からだな」


 そんな簡単な所からなんてと、ノーマは思っているが他の生徒達はそうではなかった。

 このクラスで無詠唱を使えるのはノーマ1人だけで、40人居る中の39人は無詠唱が使えない。

 ノーマ以外の生徒は真剣に聞いているし、積極的に質問も飛んで行く。


 言いたい事はまだまだあるが、これ以上悪目立ちするのを避ける為にノーマは黙っていた。

 既にクリアしている内容を、つまらなさそうに聞き流しながら時間が経つのを待つのみだ。

 せめてここで挽回する様な言動を取れればまだ良いのだが、如何せん彼は前世でも未成年の高校生だった。

 成熟した大人の様に上手い立ち回りは、残念ながら出来なかった。


「それじゃあ俺が黒板に書くから、全員ノートに書き写す様に」


「「「はいっ!」」」


「1つ目の共通する単語についてだが、『我求めるは』という文言だ」


 この世界では昔、羊皮紙を使用するのが辺り前だった。しかしとある国に召喚された聖女が提案し、植物の繊維を活用した現在の紙という物が生まれた。

 最初は非常に高価だったが、今では平民でも普通に返る有り触れた流通品だ。

 王立魔法学園に通う生徒は、全員がこの紙を束にしたノートと呼ばれる文具を使用する。


 買った当初は白紙であり、自由にメモ書きとして使用する事が可能だ。

 更に永久保存したいページに、軽く魔力を流すだけで文字が消えなくなる効果を持つ。

 後で見返したい時に重要な文字が消えてしまう、そんなトラブルとは無縁の便利な機能だ。

 ただ何故かノートの表紙に、花や虫の写真を入れる謎の文化がある。そこだけは意味が分からないが、元からそういう物として既に定着していた。


「自分が求めているのは何か、それを意味する詠唱開始の合図だ」


(このノートも、日本人がこっちで作ったんだろうな)


「まだ初歩も初歩だから簡単なだけだぞ。油断をしていると、着いて行けなくなるぞ」


 ズークの授業は順調に進んで行くが、ノーマは正直微妙な気分だった。せっかくの異世ライフだったのに、思った様に事が運ばない不運。

 沢山の地球人が散々現代知識無双をした後で、元高校生のノーマではもう出来る事が何も無い。

 せっかくルンルン気分で入学したのに、前世で読んだ漫画みたいになってくれない。

 イキリ散らかした貴族を、軽くワンパンしてヒーローに。そんな妄想が現実化する事はなく、思っていた未来とは大きく変わってしまった。

 そんな日々が続き、ノーマは少しずつストレスを溜め込んで行った。

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