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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第4話 ズークに現金を渡すとこうなる

「それじゃあ今日から仕事に行くから」


「あ、ズーク様、待って下さい! せめてこれで何か買って行って下さい」


「良いのか? こんなに」


「ええ、今の私にはこれぐらいしか出来ませんから」


 1週間ほど休養と言う名のヒモ生活をしたズークは、そろそろ仕事をする事にした。

 そんなズークに対して、エレナは甲斐甲斐しくも3万ゼニーをズークに手渡す。

 これだけあれば、冒険者ギルドで貸し出されている中古の初心者用よりはマシな武器が買える。

 エレナも元冒険者なので、それぐらいは分かっている。ただこの男に現金を手渡す様な真似は非常に危険だ。

 追放した元パーティメンバー達なら絶対にやらない。だがまだ関係が浅かったエレナは、そんな裏事情を知りもしなかった。


「じゃあ行って来るから」


「はい、お気をつけて」


 この場面だけ切り取れば、妻と子供の為に働きに出る高ランク冒険者の図だ。

 しかし実態はヒモをしているカスみたいな男が、漸く働く気になっただけである。

 ズークにまるで危機感がないのは、過去に稼いで来た金額が10億ゼニーなど遥かに上回っているからだ。

 過去に一度で稼いだ最高金額は3億ゼニーである。天災級のモンスターを撃破した際に、国から出た報奨金だ。

 ズークの金遣いが普通であれば、今ごろは100億や200億といった資産が残っていただろう。悲しい事に入ったら使う適当さなので、貯金をするという頭はない。


「3万か〜出来たらもう少し欲しい所だよな」


 他人から貰った金に対してこの考えである。本当に金に関する思考回路が狂っている。

 10万ゼニーほどあれば、確かにもう少し良い装備が買える。だがそれはせめて自分で稼いだ金で言うべき事だ。

 孕ませて引退させた女性から貰った金で、この考え方はあり得ない。それをナチュラルにやれてしまえるのがこの男、ズーク・オーウィングである。

 金銭感覚が狂っているのに、成功してしまえた困ったSランク冒険者だ。そんな彼が街中を歩いていると、とある施設が目に入った。


(元を辿れば俺の金だし、どうせなら軍資金を増やそうか)


 この世界には過去に何度も、異世界から来た者達が居る。勇者や聖女と呼ばれる彼ら彼女らは、この世界に様々な文化や発明を残している。

 今では当たり前にある料理の数々も、かつては異世界の料理だったと言われている。

 200年前に冒険者ギルドを改革したのも、異世界から来た人間だと言うのは有名な話だ。

 彼らが残したその代表例が、妊娠した女性への支援制度だ。冒険者カードによる支払いも、それ以降に生まれた文化である。

 さてそんな異世界から齎された文化の1つにとある遊戯がある。


「うっし、いっちょやるか!」


 パチンコと呼ばれるその遊戯施設は、150年程前に日本と言う異国から来た勇者が残した大人の遊びである。

 お手軽に入れて簡単に楽しめる事から、あっという間に世界中に広まった。

 またこの遊戯施設が出来た事により、何故かマフィア達が阿漕な商売に走る割合が減ったと言われている。


 その件については確かな関連性が証明されておらず、基本的には無関係と言われているが真偽は不明。

 この施設はあくまで遊戯施設であり、支払われた料金は全て運営資金に回っているらしい。

 ただ何故か遊び終わった人々が、どうしてか裏手に回る事がある。必ずしも全員ではないので理由は不明だ。


「久々に来たなぁ」


 店内は遊戯用の魔道具から流れる音楽や、人物の音声などが爆音で響いている。

 常人であればあまりの煩さに顔を顰める所だが、間近でドラゴンの咆哮を聞いた事があるズークには大した音量ではない。

 派手な店内を歩きながら、良さそうな台をズークは探す。カジノやパチンコの様な騒がしい施設に何度も足を運んでいるだけに、その中を歩く姿は実に様になっている。

 もう冒険者なんて辞めて、その道に進む方が良いのではないだろうか。これが英雄の姿とは、世も末である。ともあれズークは、ここだと決めた席に座った。


「ふぅ……あ、おっちゃん! 1本良いかな!?」


「おう、ズークじゃねぇか! ほらよ!」


「あざっす!」


「今度奢れよ!」


 パチンコ店の中はかなり騒がしく、隣の席であっても大きな声で話さないと聞き取り難いのが難点である。

 となりに座っていたのは、ズークと顔見知りのベテラン冒険者だ。彼からズークは、白くて細い紙の棒を受け取った。

 元からこの世界にもあったが、四角い紙箱に入ったこの紙巻煙草という形態になったのも異世界人の影響だと言われている。

 庶民でも買える程度の金額でしかないが、税率が高くほぼ税金の塊だと言われている。

 愛用している者達は高額納税者を自称しているが、大半の者はただの平凡な平民達である。ズークは愛用のマッチを取り出し、煙草に火を着け大きく吸い込む。


「すぅ………………はぁ〜」


 このパチンコと呼ばれる遊戯は、平たい箱を立てた様な形状をしている。

 箱の中には複数打たれた釘があり、如何に上手くその隙間に銀玉を通すかと言う遊びであった。

 銀玉が中央付近にある小さな口に入った回数分だけ抽選がスタート。中央の画面に3つ並んだ数字があり、同じ数字が真ん中で3つ並べば当たりとなる。

 これが中々難しく、そう簡単には行かない。銀玉を射出するハンドルの角度で、打ち出す強さが変わる仕組みになっている。

 この微妙なコントロールと、釘の角度を如何に上手く見抜くかが勝負のコツだ。


「まあオールインだよな、普通に」


 ズークは迷いなくエレナから受け取った3万ゼニーを全額投入した。

 このパチンコという魔道具は、不正防止の為に魔法などを使用すると感知する様に作られている。

 つまり冒険者だからといって、有利とは限らない。だがしかし、ズーク程の最高位ランクを持つ冒険者となれば話は別だ。

 卓越した動体視力により、試しに打ち出された1発目を見ただけで全てを見通す。

 常人離れした集中力により、まるで時間がゆっくりになったかの様にズークの目に映る。

 そして見抜いた、【勝利への道筋(ヴィクトリー・ロード)】を。虹色に輝くかの様に丁度良いルートがズークには見えている。


「勝ったな」









 入店から3時間後、そこには入り口の前で立ち尽くす1人の(アホ)の姿があった。


「絶対遠隔やってるってこの店。二度と来ねーよ」


 店の前で立ち尽くすズークの手には、景品として交換した煙草1カートンだけが残されていた。

 遠隔と言うのはパチンコで敗北した者達が疑う、店側の遠隔操作を指す陰謀論である。

 ちなみにズークがこのセリフを言ったのは、もう何度目か分からない。

 そもそもそんな事を訴えた所で意味はなく、そこにはエレナから貰った大切な資金を使い切ったズークの姿だけが残されていた。

■返済生活8日目午前の収入:0ゼニー

■借金総額:10億ゼニー(9億になる予定)


地球のギャンブルは大体あります。これからちょくちょく出て来ます。

ただスロットは定着しませんでした。目押しが出来ているのにリールが滑るのはおかしい! と冒険者達から不評だったという設定にしています。その話を物語中に出すかは悩んでいる最中です。


そしてズークのオリジナルスキル紹介

【勝利への道筋】(ヴィクトリー・ロード)…パチンコにて最適のルートを見抜くズークのオリジナルスキル。Sランクにまで至った男の動体視力が、理想的なルートを虹色に輝かせて見せる。

なお戦闘では一切役に立たずパチンコ専用技である。そして必ず勝てるとは限らない。

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