第38話 魔法の実力テスト
王立魔法学園には魔法の実技で使用する訓練場がある。爆発する魔法等もあるので、天井はなくグラウンドの一角に併設されていた。
あくまで物理的な天井がないだけで、目に見えない結界が張られている。それ故に雨の日でも気にする事なく実技訓練が可能だ。
また周囲を囲う専用の防御壁は、特殊な素材で作られており簡単には破壊出来ない。
一見すればただの煉瓦造りの壁だが、上位の魔法が直撃しても壊れる事はなく堅牢だ。
かつて異世界から来た者達が、開発した素材であるというのは有名だ。強すぎる自身の魔法が原因で、街中で鍛錬が出来ない。
それでは不便過ぎるからと、自分で壊れない壁を作った。それを更に別の異世界人が改良を重ねて、現在の形に落ち着いている。
「さてそれでは、俺が本日の試験官を務めるズーク・オーウィングだ」
新入生達の魔法技能を確かめる為、入学時に行われる魔法の実力テストが始まった。
昼までの間に入念なチェックが行われており、安全確認はバッチリだ。
実際にズークが上位魔法を放って壁の強度は確認済みで、管理者の不備や見落としは見られなかった。
高位貴族も通う学園で、施設の管理不足による事故など起これば大問題だ。
その様な事が起きない様に、魔法を教える教師達で集まって、様々なチェックを行って来た。
ここ数日間は特に細かく確認をしており、万が一という事も起こる余地もない。
100点満点と言える状態であり、後は張り切った新入生が無茶をしない様に注意を配るだけだ。
「呼ばれた生徒から順番にここに立って、的に向かって一番得意な魔法を放って貰う」
この試験方法は、大昔には無かったと言われている。300年前にこの世界に召喚された勇者が、とある国の国王に提案をしたというのが一般的に知られている歴史だ。
命中精度と威力、そして発動までの時間を計測するのに丁度良かった。
理に適った方法だとして以降は定着し、冒険者ギルドでも同様のテストが行われる。
的に使われているのは、強度が高い事で有名なマナ鉱石で作った人形だ。未熟な学生では先ず破壊する事は不可能である。
流石にズークの領域になれば簡単に破壊出来るし、リーシュなら切断するぐらい簡単にやる。
宮廷魔導士クラスであれば破壊は可能。あくまでそのレベルに留まっている的だ。
「無理に中位魔法を使おうとしなくて良い。むしろ魔法を扱う者として、分不相応な魔法を使おうとする方が未熟だよ」
冒険者ギルドでも調子に乗った新人がやりがちなミスだ。使える魔法が低級な事よりも、魔力切れで倒れてしまう方が本来恥ずかしい。
自分の実力を正しく把握出来ていない証明になってしまうからだ。だけどそんな事は、若ければ若い程良く理解出来ていないもの。
実例としてズークは、これまでに見て来た新人冒険者の恥ずかしいミスを幾つか披露する。
発動するだけの魔力が足りずに、1発も発動出来ずに気絶。コントロールに失敗してギルドの備品を破損。
一応は発動出来た中位魔法だったが、維持し切れずに的に命中する前に消滅。
それらを話す度に、似た様な事をやろうとしていたらしい生徒達の勢いがなくなる。
「それじゃあ俺は的の方に移動するから、点呼係の先生達に従う様に」
的となっている人形の裏側には、威力と精度の評価が表示される機能が付いている。
冒険者のランクと同様に、命中した魔法にFからSまで評価がつく。13歳の新入生であれば、精々どれもFかE評価に終わる。
稀に優秀な生徒であれば、DやCの評価が出る事も。その様な生徒はその大半が近衛騎士や宮廷魔導士、もしくは軍に入りエリート街道を突き進む。
今年の新入生には有望な生徒が多いらしく、学園側としては多いに期待をしていた。
実際にテストが始まってみれば、何人かDやC評価を出す生徒が出た。しかも高位貴族ではなく、平民出身者から出ている。
「次の者!」
点呼係の教師に呼ばれて姿を現したのは、ごく平凡な見た目をした男子生徒だ。彼はノーマ・フトゥーという平凡なフトゥー子爵家に生まれた13歳。
しかし彼は13歳の時点でかなりの魔力量を誇っており、今年の魔法技能では一番ではないかと教師陣の間では注目されていた。
入学前に行われている魔力測定では、宮廷魔導士やAランク冒険者並みの数値を叩き出している。
フトゥー子爵家はそれほど裕福でもなく、何か目立った特徴もない貴族としてはごく平凡な家柄だった。
平凡な家庭からこの様な才能が生まれるのは稀にある事で、好成績を出している平民出身者も同様だ。
そんな期待の新入生だったが、ズークは何か妙な感覚を覚えた。次の瞬間に放たれたのは、的である人形を破壊するレベルの上位魔法。
炎属性のメテオエクスプロードという、着弾地点に大爆発を巻き起こす炎の塊を射出する魔法だ。
急いでズークは学園から借りている剣を抜き、上位魔法剣のストームエッジで炎の塊を上空へと跳ね上げた。
そして結界にぶつかり魔法が炸裂した。激しい爆音と爆炎が上空で発生する。
あまりの威力に、女子生徒達から悲鳴が上がった。そしてズークはノーマ少年の元へ向かい、思わず尋ねた。
「君って、異世界人じゃない?」
「えっ!? な、なぜでしょう?」
「的を破壊したがるのって、異世界人だって大体決まっているからね」
これまでの歴史の中で語られて来た異世界人達の行動。その中でも群を抜いて有名な話が、冒険者の試験や学園のテストで的を破壊するというものだ。
そこまでする必要がないのに、何故か高威力の魔法を放ちたがる。意味が良く分からない異世界人の行動として、この世界では認識されているのだ。
平凡な子爵家の平凡な男子が実は普通ではない。
そんなノーマルで普通な筈の子、ノーマ・フトゥー君です。




