第36話 入学式に向けて
墓参りを終えたズークは学園都市ライアーに戻り、学園長室にリーシュとメリーナの2人と会っていた。
そろそろ新入生が入って来る時期であり、注意事項の確認を行っている。
主な話題は入学式の流れと、新入生の学力及び実力テストの注意事項に集中していた。
13歳で入学して来る新入生には、自分の実力に酔ってしまっている者も居る。周囲に比較対象が少ないせいで、勘違いをしてしまうのだ。
そのせいで発生する諍いもあり、教師達はどうしても対応が必要だ。喧嘩の仲裁や認識を改めさせるなど、子供の相手はそう簡単ではない。
「実家で褒め称えられて来た子などは、勘違いをしている場合があるのです」
「ふーん、そこは冒険者とあまり変わらないのね」
「新入生の相手は俺も初めてだなぁ」
これまでにズークとリーシュが受けた臨時講師の依頼は、年度の途中で入学の時期から離れていた。
学園に来たばかりで、増長している新入生の相手はした事がこれまで無かった。
だが新人冒険者が初手から無茶をする姿は見て来たので、その手の人間の相手は経験済みだ。
何よりも13歳の子供では、到底2人の足元にも及ばない。少々の無茶をする生徒が居たとしても、簡単に切り抜ける事が可能だ。
どちらかと言えば、新米教師のフォローの方に回る機会が増えそうだ。
教師になったばかりの新人教師は、跳ねっかえりの相手をした経験が薄い。
彼ら彼女らを上手く扱うのは、少々経験が足りていない。
「冒険者で慣れているお2人に、是非ともご協力を頂けたらと」
「私は構わないわよ」
「メリーナの為だろ? 当然受けるよ」
メリーナが求めたのは、実力テストにおける試験官の役目だ。学力テストの方はトラブルが起き難く、実力テストの方はちょくちょく起きる。
それはもう昔からの通例であり、ここ数年だけの話ではない。特に多いのが、魔法や剣技に長けた生徒による無茶だ。
実力を見せれば良いだけの場で、必要以上の成果を出そうとする。無理矢理に試験官を倒そうとしたり、要求以上の魔法を使用したり。
そう言ったトラブルは定期的に起きている。学力テストと実力テストの間に挟まっている面接にて、ある程度のマークは可能だ。
しかしそれも完璧とは言い切れない。実力テストまで、本音を隠して行動する者も中には居る。
「自分の実力を正しく理解出来ていないだけの場合もありますから、その場合は現場で止めるしかありません」
「あ~、ズークみたいなタイプね」
「いや俺はちゃんと自覚していたぞ? 年齢と見合っていなかっただけで」
まだ10代前半にも関わらず、冒険者になるなりCランクスタート。単独でオーククラスのモンスターをソロで討伐。
近年稀に見る逸材であり、同時に要注意人物でもあったズーク。冒険者ギルドのキャッシュ支部では、それはもう当時かなりの話題になった有名人だ。
リーシュはズークより後に冒険者登録をしたので、その当時については知らない。かつてそんな過去があった、という話を人伝に噂を聞いただけだ。
Aランク冒険者に本格指導をされて強くなっただけで、年齢に対して異常だったのはズークも自覚していた。
ただ周囲が勝手に噂話を広げていただけだ。無自覚に力を振り回していたのではない。
「辺境伯領から来た子は特に、自分の強さを誤解している場合があります」
「あ~周りの人間も強いから」
「辺境は大変だろうしなぁ」
国にもよるが、概ね辺境伯領は過酷である事が多い。強力なモンスターが多く生息していたり、他国との小競り合いが起きていたり。
そのせいで自分が他の同世代よりも、かなり強いと認識出来ていない事がある。
それが原因で普段通りにしたつもりが、必要以上の魔法や剣技を使ってしまう。
結果的に誰かに怪我をさせたり、学園の備品を破壊したり。これまでにも幾つかの実例が発生していた。
特に武闘派な両親だと、起き易い誤解だ。親にはこれぐらい出来て当然だと教わり、それが当たり前の常識だと思い込む。
世間を知らぬ子供故に、その様な認識のズレが生まれてしまう。
「今年は入学者が多いので、大変だとは思いますが宜しくお願いしますね」
「どれだけ強くても、13歳だしね」
「俺でもそれぐらいの歳だと、Cランク相当だったしな」
入学式は1週間後に行われる予定だ。大まかな流れの説明と確認が進んで行く。
卒業式は既に恙なく終了しており、そちらでは特にトラブルは無かった。元々卒業式になるという事はつまり、成人する事を意味している。
若気の至りが多少あったとしても、大きなトラブルに発展する事はそうそうない。一番トラブルが起き易いのは、やはり入学式とその直後だ。
貴族の子供達が大勢いる空間で、余計なトラブルは非常によろしくない。学園の沽券にも関わる事なので、王立魔法学園としては大切なイベントだ。
そんなメリーナの頼みを聞かされれば、当然ながらズークは張り切る。そして同時に、新しく入った新人女性教師にズークは期待していた。
30歳ぐらいの教師が増える事は既に噂されており、ズークとしては非常にそそられる話だ。
一番良からぬ事を考えているのは、この男ではないだろうか? しかし悲しいかな、誰もその事実を気にしていなかった。どうでも良いからである。
シリアスさんは死亡しました。儚い命でしたね。




