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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
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第33話 幼き覚悟と殺意

 レグレット村は事実上の廃村扱いとなり、ズークはマリクとリアンの2人が引き取る事に。

 ヘルハウンドの方だが、痕跡を辿って西の隣国との国境まで討伐隊が追いかけた。

 そちらでも似た様な被害が出たらしく、2ヶ国共同で対応を図ったが途中で痕跡が消えてしまう。


 降り続いた大雨が原因で、魔道具や探査魔法でも追えなくなってしまったのだ。

 最終的に行方不明となり、事実上の捜査は打ち切りとなった。周辺国にも当然通知は行っているが、数ヶ月経過しても足取りは掴めずに終わった。

 その頃からズークは、どうにも様子がおかしかった。良く怪我をして帰宅する様になったのだ


「ちょっとズーク!? また怪我して来たの?」


「……木登りに失敗して」


「気をつけなさいよね、もう」


 リアンがボロボロになって帰宅したズークを見て、またかと注意を促す。

 6歳の男の子はやんちゃ坊主だから、それぐらいの怪我はするかと最初はリアンもその程度で済ませていた。

 塞ぎ込んで家から出ないよりも、遥かにいいだろうからと。きっとこうして遊び回るのが、ズークなりのストレス解消なのだろうと判断する。

 マリクはまだ討伐隊から帰還しておらず、もう数日は帰って来られない。彼が帰って来たら、男同士で話をして貰うつもりだった。


 リアンとズークはレグレット村の確認が終わった時点で、こうして林の側に建てた自宅に戻って来ていた。

 最初の数日は流石に参ったのか、ズークは大人しかった。それがこうして元気になったのだからと、リアンは考えていた。

 それが勘違いだと気付かされるのは、待ちに待ったマリクが帰還する予定日の前日だった。


「ちょっとズーク!? 何なのその怪我は!?」


「……ちょっと転んだ」


「そんな訳ないでしょう!? 早くこっちに来なさい!!」


 子供が外で遊んで来て、転んで怪我をした。とてもそんなレベルの怪我ではなく、明らかに右腕を骨折しているし額から血が出ている。

 他の小さな傷も含めて、とても薬で治るレベルを超えていた。幸いにもリアンはAランクの魔法使いで、聖属性魔法の扱いに長けている。

 この程度ならば聖属性の下位魔法、ヒーリングで十分治療は可能。しかし問題は治せるかどうかではなく、どこでこんな怪我を何故したのかだ。

 何よりズークは怪我の原因を隠蔽しようとしたのだ。リアンに伝えたら、怒られると分かっているから隠すのだ。


「正直に言いなさいズーク、貴方は何をして来たの?」


「…………」


「言えない様な悪い事をして来たの?」


 マリクとリアンの家からは、少し距離はあるものの村がある。6歳の子供でも行けなくはないし、もし窃盗でもして来たのだとしたら問題だ。

 その場合はリアンが正式に謝罪をしに行かねばならない。程度にもよるが、盗みを働き大人から折檻を受けた。

 だったらこの怪我も、理解出来なくはない。普通の人間ならば、真っ先に考えるのはこの方向性だ。

 しかし問い詰められたズークの回答は、リアンの想像を大きくかけ離れていた。

 なんとズークは、皆の仇を取る為に強くなろうとしていた。適当な枝や石等を駆使して、スライム等の低級なモンスターをと戦闘を繰り返していたのだ。


「どうしてそんな危険な真似を!?」


「あの狼は俺が殺す。絶対に俺が倒す」


「ちょっ、貴方は子供だから分からないかも知れないけどね。アイツはSランクの災害級モンスターなのよ! 貴方1人が頑張ったからって、とても倒せる相手じゃないわ!」


 リアンは必死に説得するが、ズークは子供らしい頑固さを発揮して譲らない。

 子供ながらに地獄を見た事で、殺意と覚悟だけは無駄に固まったズーク。

 この日は1日掛けてリアンが説得を続けたが、ズークが首を縦に振る事は無かった。


 男の子の事だからと、翌日に帰って来るマリクと話すまで外出禁止としてこの日は終了。

 そして迎えた翌日、マリクが帰宅した時には既にズークは窓から外に出ていた。

 事情を知ったマリクとリアンが慌ててズークを探しに向かう。そして発見されたズークは、1匹のゴブリンと戦闘していた。


「ズーク!」


「少し待てリアン」


「何を言って」


 明らかに助けるべき状況なのに、自分を止めたマリクを驚いてリアンは振り返る。

 何度も見て来た相棒の表情は、真剣にそのものだった。思わず助けに入るのを辞めて、マリクと共にリアンはゴブリンと戦うズークを見た。

 その姿は、とても6歳の子供と思えぬ必死さがあった。死に物狂いと表現が相応しい、泥臭くて拙くて滅茶苦茶な戦い。

 Fランク冒険者ですらないのだから、当たり前に苦戦する。掴んだ砂で目つぶしをし、先の尖った鋭い木の枝で右腕を指す。

 たまらずゴブリンは武器の石斧を取り落とす。怒って暴れるゴブリンから離れて、用意していた石を頭部に向けて投げつける。


「リアン、お前は6歳の時にあれが出来たか?」


「そ、そんなの出来る訳ないでしょ! 6歳でゴブリンと戦うなんて」


「だがアイツはやっている。殺す気で戦っている」


 その鬼気迫るズークの姿を見て、2人は考えを改めざるを得ない。子供染みた反骨精神や、幼い復讐心から来た行動ではない。

 6歳という年齢で、既に命のやり取りを理解していた。他の生物を殺す為に行動する、それを実現出来てしまっていた。

 最終的には倒すまで至れず、マリクがトドメを刺す事になった。しかしそれでも、ズークの戦闘は決して無駄では無かった。

 着実にダメージを与えてはいたのだから。経験不足から来る決定打の欠如、ただそれだけが討伐まで行けなかった原因だ。

 それがもし、ちゃんと経験を積めば。6歳でゴブリンを追い詰めて見せた、ズークの覚悟と殺意。そこに何かを感じたマリクは、ズークと話し合う事に決めた。

シリアスムードはもう少し続きます。

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